「食い物の恨みは恐ろしい」という言葉がある。『食べ物は人間にとって必要不可欠なものであるから、恨みを持たれるようなことはしないに限る』という意味だが、恨みが生まれるのは、何も「取った/取られた」場合に限らない。

そんな『食べ物の恨み』にまつわる体験談を聞きながら、普段、改まって話し合うことのない『食事』や『料理』について、基本楽しく、ときに真面目に考え直す、インタビュー連載第3回。

「少し前まで、レタスとかキャベツとか、葉物野菜全般が苦手だったんです。その原因になったのは、一匹の虫でして……」

取材場所がハンバーガーショップだったからだろうか。町田結さん(仮名/31歳)は口元に手を添えて、小さな声でそう言った。童顔かつ小柄で、フェミニンな雰囲気の女性だが、手元にあるのは一見不釣り合いな特大サイズのバーガー。はみ出たパテから、彼女が肉好きであることが伝わってくる。

「虫……って単語は小さな声で言いますね」

苦笑したのち、結さんは自身の生い立ちと、幼少期に経験したという、哀しき「サラダ事件」について語り始めた。

大きなトラウマを負った「サラダ事件」

結さんが生まれ育ったのは、北関東の某県。自営業の父、専業主婦の母、2歳年上の姉という家族構成で、「古風な家だったと思います」と振り返る。

「私の家は、99.9%母親が料理する家庭だったんですが、その母がわりと潔癖というか、神経質だったんです。野菜が少しでも萎れていると切ったり捨てたり、じゃがいもの芽を取るときにも、周囲まで含めて大きくカットする……そんな姿を見て育ちました」

99.9%と述べた結さんだが、では残りの0.1%は誰だったのか。それは父だ。

「うちの父は、典型的な『たまにしか料理しないくせに、するときは超こだわる』タイプの男性でした。年に数回、思い立ったように料理をすると、やたら凝ったものを作るんです。

たとえば、ハンバーグを作るときは、黒毛和牛のお肉を買ってきて、自分でミンチするんですよ。当然、ぐちゃぐちゃになるんですが、本人は『食感が粗めなのが美味しいんだ』と言い張って」