希望を世界に届けるために、仲間を率いて歌うジョンは、まさに水を得た魚のようだった。

だが同時にジョンは、彼らの平和運動は個人を超えたものであることを強調するのも忘れなかった。

「ピート・シーガーが言っているように、僕らにはリーダーはいない。でも僕らには、歌がある。『平和を我等に(Give Peace a Chance)』」

「交通事故を起こす予定があるなら…」

『レット・イット・ビー(Let It Be)』ルーフトップ・セッションの7月1日のリリースに向けて準備が進む中、ビートルズはすでに次のアルバムの制作に取り掛かっていた。

ただしそこに、ジョンの姿はなかった。彼はスコットランドでの休暇中、ヨーコとキョーコ、ジュリアンを乗せてオースチン・マキシを運転しているときに、対向車を避けようとして道路脇の溝に突っ込んで、病院に運ばれたのだ。

ジョンは顔を17針縫う大怪我をしながらも、「交通事故を起こす予定があるなら、場所はハイランドにするといいよ」とマスコミを相手に冗談を飛ばしてみせた。

7月9日、スタジオにいたエンジニアのジェフ・エメリックは、ドア近くで動く人影に気づいた。目を凝らすと、そこにいたのは「全身黒ずくめの、幽霊のような」姿をしたジョンとヨーコだった。

「ああ、僕なら平気だよ」

ジョンはエメリックとジョージ・マーティン、そして心配そうに見つめるポール、ジョージ、リンゴにそう告げた。

ジョンが最初にしたのは、老舗デパートのハロッズにダブル・ベッドを注文し、アビイ・ロードのスタジオに持ってこさせることだった。スコットランドでの交通事故で14針縫う怪我をし、背中も痛めたヨーコが、レコーディング中もジョンのそばにいられるようにするためだ。

「ヨーコの頭上にマイクを吊ってくれないか? 彼女が何か言いたくなったら、僕らのヘッドフォンに彼女の声が聞こえるように」

ジョンは呆気に取られるスタッフにそう告げた。