現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

今回紹介するのは「現在、派遣会社の営業をしています。かつては典型的なワーキングプアの生活をしていました」と編集部にメールをくれた、45歳の男性だ。

派遣でキャリアを積めるのか?

「派遣は基本的にいつまでも続けるべき仕事じゃない。工場や倉庫で毎日同じ作業を繰り返しても、キャリアアップにはなりません」

都内にある派遣会社の営業担当で、コーディネーターも務めるタツヒサさん(仮名、45歳)はきっぱりと言い切る。しかし、それでは働き手を派遣先に送り込むという自身の仕事を否定することにならないか。これに対し、タツヒサさんはこう答えた。

「ちゃんとした仕事を見つけるまでのつなぎとして、製造や物流系の工場で働くのはいいと思います。あるいは建築や設計、通訳、編集といった専門的な技術を求められる業種なら派遣を続けるのもいいでしょう。(技術・専門職の派遣なら)経験を積めば、将来のキャリアにもなります」

タツヒサさんが所属する会社では主に建築関係の専門スキルを持った人材を派遣している。数年働いた後で正社員になったり、フリーランスとして独立したりする人もいる。一方でタツヒサさんにいわせると、製造や物流系の派遣は毎日同じ作業を繰り返すので確かに効率やスピードは上がる。ただそうしたスキルはその工場内でしか通用しないことが多く、つぶしが利かないという。

また、私が取材する中でも、製造や物流系の派遣労働者がフォークリフトやクレーンの運転資格を取っても、細切れ雇用のため、それらが給与に反映されることはめったにない。コロナ禍においても、雇い止めに遭って仕事も住まいも失うのは、自動車や精密機器メーカー系列の工場で働く派遣労働者が多かった。スキルアップどころか、なんらセーフティーネットもない働き方であることがあらためて浮き彫りになったといえる。

派遣はいつまでも続けるべき仕事ではないというタツヒサさんの考えにはおおいに同意するところだ。

一方、現在派遣会社で正社員として働くタツヒサさんの年収は約400万円。貧困層とはいえない。なぜ本連載の取材に応じようと思ったのか。

タツヒサさんは「私もかつては典型的なワーキングプアでした。日雇い派遣で働いたこともあります。派遣で働くときのコツや、派遣で搾取されないための方法、自分がどうやって貧困から抜け出したのか。その経験をお話ししたいと思ったんです」と説明する。