日本家族計画協会に併設されているクリニックには、梅毒の治療を受けている女性がときどき受診してくるが、残念ながら、患者のなかには毎日1日3回薬を飲み続けることができず、治療を途中で挫折してしまった人もいるという。「これが、たった1回の筋注で、数日後に陰性が確認されれば治療は終了。これは朗報です」と、北村さんは喜ぶ。

「ペニシリンは梅毒の特効薬ともいえる薬ですが、一方で、アレルギー・アナフィラキシーショック(アレルギー物質が体内に入った後、数分後から十数分以内に起こる過敏反応)が一定の頻度で起こっていることがわかっていて、過去には死亡例も報告されています。ただ、現在は問診や皮内反応テストの実施などで、リスクの低い人への投与が行われているので、安心して治療を受けてもらっていいと思います」(北村さん)

コロナ禍の中での梅毒の増加で気になること

最後に、梅毒の増加という結果を見て北村さんが気にかけているのは、20代の女性の感染割合が高いということだ。繰り返しになるが、国立感染症研究所の結果をみると女性の症例数全体の34%が20代だ。実際、クリニックにも不特定多数と性行為を行っていた結果、感染したと思われる女性が何人か受診している。

2020年10月に北村さんは厚生労働省の研究班として、コロナ渦の自粛で日本人の生活がどう変わったかを調査した。対象者は20歳から69歳の日本人男女約1万人。緊急事態宣言前後(2020年3月下旬〜5月下旬)の状況について訪ねた。

その結果、男女とも「パートナーの存在(がある)」と答えた人ほど、コロナ渦でも生活が充実していることがわかった。同会では「自粛下であっても孤立していなかったことが、充実につながったのではないか」と分析している。

北村さんは、治療を受けに来る彼女たちに他者と性行為でつながることをやめるよう説得することはしない。それによって、彼女たちとの信頼が失われ、“つながりが途切れてしまうこと”のほうが心配だと考えるからだ。

「貧困やさみしさから他者とのつながりを求めた結果、そうした形で人とつながる人たちもいる。もし、梅毒が増えている理由の一因がこうした若い女性たちであるとしたら、彼女たちを責めるのではなく、必要なつながりを持てる社会に変えなければならないと思うのです」

著者:鈴木 理香子