「病は気から」は本当か? 老化現象は不可避か? 脳のない生物にも知性はあるか? 生命現象の源であるタンパク質とは何モノか? そもそも、いのちとは、いったいどこにあるのか――? ”生命“はいまだ不思議なことばかりです。科学者10人による最新科学知の挑戦『いのちの科学の最前線』を一部抜粋し再構成のうえ性別はどのように決まるのか、酵素の研究が解く「性」のグラデーションについて解説します。

哺乳類のオスをつくるために必要な酵素を発見

生まれた後に、周りの環境に合わせて性を変える魚が存在する。成長した後に、誕生時とは異なる性に転換するのである。

オレンジ色の体に白い縞模様が入ったカクレクマノミは、性が未成熟な仲間と群れをつくってイソギンチャクの中で過ごすが、のちに一番大きく成長した個体がメスになり、二番目の個体がオスになる。その後、メスが死んでしまうと、今度は二番手の大きさだったオスがメスに性転換する。そして、次の大きさの個体がオスになる。

高級魚として有名なハタやクエの仲間も性転換する。彼らの場合は、生まれたときはすべてメスだ。生き延びて大きくなった個体だけが、オスになる。

このように性転換する魚は、かなりの種類が知られている。これらの魚の性は、成長の過程で臨機応変に変更可能なものなのだ。

では、われわれ哺乳類の性は、いつ決まるのだろうか。

生物学を学んでいない人でも、X染色体とY染色体という言葉は聞いたことがあるだろう。染色体というのは、いわばDNAの収納セットだ。

DNAは生物が生きていくのに必要な情報がすべて書かれた設計書で、ひものように長く連なっている。ヒトのDNAをすべて一列につなぐと2メートルの長さになると言われているが、これが細胞の中の、わずか6マイクロメートルの直径の核の中に収められている。

1マイクロメートルは、100万分の1メートルだ。もう少し、実感できそうなスケールで説明すると、2キロメートルのひもを直径6ミリの球に収納する。これが、DNAと核の関係である。