20代半ばから30代に訪れるとされる「クォーター・ライフ・クライシス」(以下QLC)。一人前の大人へと移行するなかで、仕事、結婚、家庭などなど、自分の将来の生活や人生に対して「このままでいいのか?」と悩み、漠然とした不安や焦燥感にさいなまれる時期のことを指す。

もともと2000年代前半にイギリスの研究者たちが用いるようになった言葉だが、日本の若者たちの関心も集めつつあり、SNSやブログで自身の心境をつづる人も。

そこで、本連載では性別職業問わず、さまざまなアラサーたちに取材。それぞれのQLCを描きながら、現代の若者たちが味わう苦悩を浮き彫りにしていく。本連載ではQLCを乗り越えた人を中心に取り上げてきたが、一方でQLC真っ最中の人からも応募がくる。今回は日本文学の研究者を志すも挫折し、海外で日本語教師として働いてきた岡村圭佑さん(33歳・仮名)のケースを取り上げる。

新潟県出身の岡村さんは、1浪で京都の有名私立大学に進学。大学院も含めて約7年大学に籍を置いていた。

日本の古典文学の研究者を目指し、修士課程(博士前期課程)に進んだが、博士後期課程に2回挑戦するも内部進学が叶わず、挫折を経験したという。

博士課程に進めず、海外へ

本連載で繰り返し説明してきたことだが、QLCにはロックアウト、ロックインという2つの形態があるとされる。平たく言うとそれぞれ「ちゃんとした大人になりきれていないと感じる」「逆に、大人であることに囚われ、本当の自分を見失っていると感じる」といったニュアンスだ。

このことを踏まえると、岡村さんは前者のケースだったようだ。

「大学に進学してからも一般企業で働くことに強い不安があって、日本での就職に窮屈さのようなものを感じていたこともあり、周りが就活を始めるなかで研究者の道を志したという感じです。

ただ、もともと社交的で活発なタイプではなく、集団行動も苦手でしたし、小学生の頃から昼休みも教室で本を読んで過ごしていました。自分から積極的に人と関わろうとするわけでもなく、うまく集団になじめない疎外感みたいな感覚は子どものときからずっと感じていましたね」

研究者や特定分野の専門家で身を立てていくことを目指す場合、博士号は必須の学位。博士号を取得するためには査読(研究者仲間や同分野の専門家による評価や検証のこと。研究者が学術雑誌に投稿した論文が掲載される前に行われる)論文を書かなければならない。

学術分野や学会によって論文投稿の難易度は異なり、一般的に文系では博士や修士に進む人は少ないうえ、理系に比べると論文の採用率のハードルが高いとされる。

質問を受け止めて丁寧に語ろうとする岡村さんの口調は落ち着いていて、人当たりも決して悪くない。理路整然とした話しぶりで、目上の人に嫌われるタイプのようにも思えないが、アカデミズムの世界で壁にぶち当たった特別な理由でもあるのだろうか?