コロナ禍で病院での面会が制限されていることなどを背景に、需要の高まりを見せている在宅ケア。家での療養生活を支えるのが、患者宅を訪問して診療を行う在宅医などだ。

これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期まで自宅で過ごしたい」という患者の希望を叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)が、若い人たちにも知ってもらいたい“在宅ケアのいま”を伝える本シリーズ。

4回目は、がんの苦痛を和らげる緩和ケアの今について、実例をもとに解説する。まずは、緩和ケア病棟から在宅医療に移行した末期がん患者の話から――。

末期がん患者のAさん(50代)。2年前に肺がんと診断され、抗がん剤治療を経て、緩和ケアに移行していくなかで痛みが強まり、緩和ケア病棟に入院。その後、「家に帰りたい」というAさんの希望で、退院してからの生活を在宅医としてサポートすることになりました。

がんという病では、多かれ少なかれ痛みや倦怠感などの症状が現れます。落ち込んだり、悲しんだりといった精神的なダメージや、迫りくる死への恐怖もまた苦痛です。出会った当初のAさんは、強い痛みが押し寄せ、精神的にも追い詰められている状態でした。

緩和ケア病棟を退院した理由も、2カ月間の入院期間が痛みとの戦いで、不安感が増したことが大きかったようです。

そうした経験があったからなのか、どこか医療不信のような感情をお持ちのようで、最初は私たちに対しても決してオープンな態度ではなく、どちらかと言えば“閉じた”感じがありました。

がんが広がっても痛みが出ないことも

痛みの治療では、痛みを感じている本人の話をよく聞くことが重要です。なぜなら、その痛みがどのようなものなのかは、本人にしかわからないから。痛みの強さも、薬がどれくらい効いているかも、本人にしかわかりません。

よく「がんが広がると痛みが強まる」という人がいますが、それは誤解で、症状の進行と痛みとの間には相関関係はありません。

がんがどんなに小さくても、痛みを感じる神経の近くにあると、痛みを強く感じることがありますし、肝臓のように痛みを感じる神経が存在しない臓器では、ずっと痛みを感じないこともあります。