あとはあうんの呼吸だった。

翌日の分科会で口火を切ったのは、日本医師会の釜萢敏常任理事だった。北海道、広島、岡山は緊急事態宣言の対象にすべきと主張した。そして、苦言を呈する。

「(これまでも意見を申し上げてきたが)国の方針に何らかの影響を与えるということは、これまでほとんどなかったと感じます」

ほとんどの委員が諮問案に反対するなか、尾身氏は、これだけ反対意見が大勢を占めれば、結論は1日繰り延べされるのではないか、と予想していた。だが、事態は急展開を見せる。閣議で菅義偉首相と相談した西村経済再生相が戻ってきて、マイクを握った。

「専門家の皆さんがそういうご意見であるということを受けまして」と、3地域を緊急事態宣言の対象とする諮問案に変更したのだ。

尾身氏:
「基本的対処方針分科会は、諮問内容の是非を判断するだけなんです。自由な議論ができる分科会は、なかなか開かれない。開催を要望したが、政府は『意見があれば、基本的対処方針分科会で言えばいい』というスタンスでした。今回の諮問案は否決され、メディアには「専門家の反乱」と受け止められた。でも、いきなりの反乱というより、去年から専門家の間に不満が高まっていたんです」

「尾身さんを黙らせろ」

尾身氏は「菅総理の英断だった」と評価する。だが、このころからだ。尾身氏の言動に対する反感が官邸や自民党内から公然と聞こえてくるようになったのは。「尾身さんを黙らせろ」と。

そしてオリンピック・パラリンピックをめぐる攻防を迎えた。

すでに4月ごろから、メンバー内で議論を始めていた。五輪の開催は夏休みと重なる。お盆休みや連休もある。こんなときにこそ、自粛を促す強いメッセージが必要だと尾身氏は考えた。

尾身氏は、参考人として連日のように国会に呼ばれた。答弁の言葉が、メディアに大きく扱われる。

「今の状況で(五輪を)やるというのは、普通はないわけですよね」(6月2日衆院厚生労働委員会)

尾身氏は同時に、五輪が開催された場合のリスク評価を盛り込んだ提言を検討していることも、国会で明かしている。

尾身氏:
「国会で『センシティブな問題だから、お答えできません』という回答は、私の辞書にはないんです。極めて普通のことを言った。後悔は、まったくないです。オリンピックは規模も注目度も、国内のサッカーや野球とは明らかに違う。市民への心理的インパクトは計り知れません。五輪会場で選手や関係者はバブルで守られる。でも、そこがポイントではない。矛盾したメッセージになるんです。それでもやる、と決めるのは政治です。なら、国も自治体も覚悟を持ってくださいということをお伝えしたかった」