「クロネコヤマトの宅急便」でおなじみヤマト運輸が、ついに自社で貨物機を持ちます。このことが、もしかすると貨物事業における「JALとANA」の構図に変化をもたらすかもしれません。

かつて「自社貨物機」をもっていたJAL

「クロネコヤマトの宅急便」でおなじみのヤマト運輸が、ついに自社で航空機を持ちます。使用する機体は大ヒット航空機、エアバスA320ファミリーの胴体延長タイプA321ceo旅客機をベースとした貨物専用機改修タイプの「A321ceoP2F」3機です。

 運航は、JAL(日本航空)グループでA320を運航するLCC(格安航空会社)、ジェットスター・ジャパンが担います。JALは2010(平成22)年の経営破綻後、自社貨物機を手放しており、同社グループにとっては久々に貨物専用機を運航することになります。

 今回の一件で、貨物事業においてそれぞれの経緯を歩んできた「JAL対ANA」の構図が、新たな局面を迎えるかもしれません。

クロネコはなぜ空へ?

 JALとヤマトHDのニュース・リリースによると、このJALグループ運航のヤマト貨物便は、2024年4月より、羽田・成田空港と、新千歳、北九州、那覇の3国内空港を結びます。非常に人気の高いA320シリーズのなかでも、最新タイプの「neo」ではなく、従来エンジン搭載の「ceo」なら、旅客機から貨物専用機へ改造し納入されるまでの“予約待ち”の期間も短く、機材の観点でいえば、就航予定を大きく後ろ倒しすることなく進められそうです。

 ヤマト運輸にとっては、2024年4月から自動車運転業務の年間残業時間の上限が960時間となるため、長距離輸送トラック輸送をフォローしうる手段を確保しなければなりません。近年目立つ水害や、地震などにより地上の交通機関が寸断された際、空港という、陸路と比べると天災に強い特性を活かし、その代替手段にもなり得るメリットもあります。

 一方、これを運航するJALグループは、貨物事業の観点から見ると、破綻以降はANAに水をあけられている背景がありました。

「米国へ貨物機で飛んで1週間、飛び石のように各空港で積み降ろしをして帰国した」――経営破綻に陥る前、とあるJALの747操縦士から筆者が聞いた言葉です。JALは747貨物専用機を多数保有していましたが、破綻後の同社は、おもに旅客機の客室スペース下の貨物室(ベリー)を用いて、航空貨物を輸送していました。

 ただ、貨物専用機を使用することで、旅客便の定期路線以外にも就航できるほか、チャーター便も運航可能で、積み降ろしをする空港も柔軟に選べます。しかし、破綻後のJALは貨物専用機の保有には消極的でした。景気によるボラティリティ(変動率)が高いというのが理由で、事業は難しいともしてきました。

 そのことを鑑みると、今回の「ヤマトの貨物機運航」はJALにとって、現状の貨物事業の状況に即し、堅実なスタイルで始める事業と言えるでしょう。

一方、ANAグループは?

 一方、ライバルのANA(全日空)は貨物事業ではここ数年、まさに“攻め”の姿勢であったといえるでしょう。

 ANAは2013(平成25)年、グループ内で貨物専用航空会社「ANAカーゴ」を設立します。同社は国内貨物航空会社の老舗、NCA(日本貨物航空)と連携するなどしながら運航規模を年ごとに拡大させ、2019年7月には、100tを超えるペイロード(搭載容量)を持つ大型の貨物専用機「ボーイング777F」を国内で初導入。その後もコロナ禍以降とくに、貨物需要の追い風も受け、現在はANAグループの収益を支える立派な柱になりました。

 2021年10〜12期の連結決算で比べると、専用機を持たないJALの国際線での貨物収入は前年同期比88%増の525億円だったのに対し、貨物機を持つANAHDは同96%増の993億円。ともに大幅に貨物需要は増加していますが、JALの現状の売り上げはANAHDに大きく差をつけられている状況です。

 物流大手と組み、グループのLCCを用いるJALの再参入戦略は手堅い印象を受けるのに対し、ANAカーゴの方針は積極的な姿勢で、2社は非常に対照的な方針をとっています。ただいずれにせよ、街で見かけるクロネコのワゴン車が経済の活況を示すように、2年後の空港では、クロネコが描かれた貨物機が、トリトンブルーの描かれた貨物機と並び、発着する姿が見られるでしょう。

 ちなみに、ヤマト運輸の航空貨物参入は空港側からも歓迎されています。北九州空港を九州唯一の24時間空港とアピールしている福岡県は、県の公式サイトで、「貨物拠点化を目指し、北九州市、苅田町と力を合わせて取り組みを行ってきた。農産物の販路拡大や県内企業の競争力向上が期待される」と、県知事のコメントを発表。貨物専用機がこういった空港に多く行き交うようになれば、地方空港の有効利用化、活性化につながるという“一石二鳥”の効果もあります。