JR小山駅ホームで長らく営業を続けてきた「きそば」がその歴史に幕を閉じました。閉店発表後は長蛇の行列が続いていた「きそば」は、今後、駅そばの枠を飛び出していきそうです。

一大ジャンクション駅で最後まで残った「きそば」

 JR小山駅(栃木県小山市)で長らく営業を続けてきた「小山駅きそば」が、2022年1月14日の営業をもって歴史に幕を閉じました。閉店への反響は大きく、昨年12月に運営元である中沢製麺(栃木県栃木市) 中澤健太社長のTwitterで閉店が発表された後は、「最後の一杯を食べたい!」という人々の来店が激増し、店の前には100人以上もの行列がずっと続いていたそうです。

 かつては両毛線の佐野駅や足利駅、東武日光線の栃木駅、小山駅の両毛線ホームにも店舗があった「きそば」ですが、宇都宮線ホームの立ち食い店舗が最後の一店となっていました。小山駅は、東京に通じる東北新幹線と宇都宮線、群馬に通じる両毛線、茨城に通じる水戸線が交わる一大ターミナル。湘南新宿ラインなどに乗り換える東京方面の通勤客の利用もあったほか、栃木県南部の学区内で通学する学生にとって、“コバラ”を格安で満たせる場所でもありました。

 惜別で「きそば」を食べに来た人々は「学生時代は週4回は食べていた」「部活の遠征中にみんなで食べた」「親戚の家に行く途中に親と食べた」など、一緒に思い出話をされる人がとても多かったと中澤社長は話します。

 中澤社長によると、小山駅の「きそば」はコロナ禍のさなかこそ赤字が続いていたものの、感染状況が好転すると黒字に戻り、閉店発表前週の週末には過去最高クラスの売り上げを記録するなど、経営として順調だったことが伺えます。また同店は2007(平成19)年に公開された新海誠監督のアニメ映画『秒速5センチメートル』に登場し、ファンに“聖地”としても知られます。駅そばの営業に有利な乗り換え需要に、プラスアルファの要素もあり、全国の駅そばの中でも安定した知名度と人気を保っていたと言えるでしょう。

 今回の閉店は、JR東日本のグループ再編に伴い、駅そばの営業委託契約を終了するとの通告によるものだそう。しかし、今後の「きそば」は、ちょっと変わった形で生まれ変わろうとしています。

「きそばキッチンカー」が来るぞ!

 小山駅での立ち食いそばの歴史古く、1953〜55(昭和28〜30)年頃には店舗があったとの証言があります。その後、国鉄直営の時期を経て小山市内の「小池食品」(現在は廃業)が運営し、JR発足後、食材の卸業者として関わった中沢製麺が運営を任されたそうです。その後は他駅の店舗も徐々に運営を受け継いだそうで、中澤社長も、10歳の頃から「きそば」各店を手伝っていたのだとか。

「きそば」で知られている中沢製麺ですが、社名からもわかるように、その本業は製麺所。栃木県南部の飲食店に手広く麺やつゆなどを卸していますが、商談でも「あの『きそば』の会社ですか!」とすぐ認知されるため、そのメリットは大きかったといいます。

 小山駅ホーム店舗の閉店によって、できたての「きそば」を食べられる実店舗(定期的に営業する固定店舗)は消滅します。中澤社長いわく、出店の検討はしたものの、小山市の周辺には駅構内以上の好立地がなく、今のところすぐに動くプランはないのだとか。

 しかし、地域のイベント向けに「きそば」を提供するキッチンカーが、近日デビューする予定です。地元FM局での社長どうしの対談企画をきっかけに、2021年夏ごろから中沢製麺が公認するキッチンカー出店の話を進めていたそうですが、その後に小山駅ホームの閉店が決まり、偶然にも入れ替わる形となりました。

 車両の側面にJR宇都宮線の車両のようなストライプを纏ったデザインイメージのキッチンカーは、イベント会場では間違いなく目立ち、子供にも喜ばれることでしょう。キッチンカーの出店を担当するOfficeYoshidaGroup(小山市)の吉田英樹社長によると、1月30日(日)に小山総合公園で行われる「共働おやまいち」でのデビューもすでに決定済み。栃木県内のみならず埼玉県などからも出店のオファーがあるそうです。

 さらに、キッチンカーだけでなく、運営していた中沢製麺自身も、製麺所のノウハウを活かして、新しい道に進みつつあります。

「きそば」家でも! 実は東京に拠点オープン

 中沢製麺は2021年8月、東京のJR山手線 大塚駅近くに、製麺所としての直営店「東京生麺中沢製麺」を開業しています。ここでは「きそば」の麺、だし、唐辛子やトッピングの「岩下の新生姜」、そして「小山駅きそば」の文字が入った店頭同様の丼まで、ほぼ一揃いの購入が可能。できたてのそばを店舗内で味わうことはできませんが、通販にも対応しているため自宅で「きそば」を楽しめるのです。

 さらに、この店ではパスタフレスカ(低加水麺)、ひもかわうどん、餃子の皮(厚みによって2種類)など、数多くの“粉モノ食材“をショーケースに取り揃えています。スープや七味などの脇役も種類豊富で、店頭では常連から「どの商品がいいかな?」との相談に乗るような場面も見受けられ、スタッフはさながら麺・粉モノのコンシェルジュのようでした。飲食店からの相談や引き合いも多いそうで、「きそば」を知らない人にも、このお店が頼りにされていることが伺えます。

 筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)もこのお店で丼と各種の麺を買い求め、オススメいただいた「きそばの麺+焼きそば」「パスタフレスカ+ちゃんぽんスープ」などを試してみましたが、それぞれ麺の美味しさがしっかり活きた一杯を家で簡単に作れました。

 ちなみに、小山駅で提供されてきた「きそば」は、中澤社長いわく「ほどほどの味」だそう。しかしトッピングのかき揚げやイモフライなどとの相性の良さ、出汁が染み渡るその風味は、一般的な生そばや二八そばと違った楽しみ方があると言えるでしょう。駅のホームからあの看板が消えたいま、「きそば」はキッチンカーへ、中沢製麺は「きそば」+「おいしい麺を作る会社」として、それぞれ新しい道を歩みつつあります。