国交省がP&W社の「PW4000」系列のエンジンを積んだ、ボーイング777の運航を一時停止しました。実はこのエンジンを積む777、世界的に見るとそこまで多くありませんが、日本では一挙に32機が対象に。どのようなエンジンなのでしょうか。

JALの13機、ANAの19機が対象

 2021年2月21日(日)夜、国土交通省が国内で運航しているボーイング777シリーズの一部の機体を対象に、運航停止の指示を出しました。停止対象になったのは、アメリカのP&W(プラット&ホイットニー)社製の「PW4000」系列のエンジンを搭載した777で、JAL(日本航空)13機、ANA(全日空)19機の合計32機が対象です。

 PW4000系のエンジンは、2020年12月にJAL機で、そして2021年にアメリカのユナイテッド航空機で片方のエンジンが大きく損傷し、引き返しとなる事象が発生。当面のあいだ、安全最優先の措置が講じられた形です。

 JALもANAも、さらに多くのボーイング777シリーズを保有していますが、全機が運航停止でない理由は、対象にならなかった他の機体は違うエンジンを積んでいるからです。

 ボーイング777シリーズは、日本で導入されているものに限ると、初期モデルの-200型、胴体延長を図った-300型、航続距離延長を図った-200ER型、胴体延長と航続距離延長を図った-300ER型とおおまかに4つのサブタイプに大別され、最後の-300ER型を除くと、アメリカのP&W社「PW4000」系、同GE(ゼネラル・エレクトリック)社の「GE90」系、イギリスRR(ロールスロイス)社の「トレント800」系のいずれかのエンジンを積むことができます。

 そのため、ボーイング777シリーズでも、P&W社製以外のエンジンを積んでいる機体は運航停止の対象とはなっていません。

そもそもどんなエンジンが選べるのか PW4000はどんなエンジン?

 今回運航停止の対象になったエンジン、「PW4000」系を造るP&W社は、もともと工具メーカーからスタートした会社です。第2次世界大戦中には、最も数多く作られたプロペラ航空機用のエンジン「R-2800」を開発。その後、B-52戦略爆撃機に採用されたターボジェット・エンジン「J-57」を生み出し、その民間型「JT-3」は、ジェット旅客機草創期の名機、ボーイング707やDC-8に搭載されます。その後、同社は、ターボファン・エンジン「JT-8D」を開発、これがベストセラーとなり、現在に至るまで航空エンジンの主要メーカーとして君臨しています。

 PW4000シリーズは、「ジャンボジェット」ことボーイング747の成功に大きな役割を果たしたターボファン・エンジン「JT-9D」の発展型にあたり、「4000」という数字は、このエンジンの開発当時の最大推力(4万ポンド)に由来しています。なお最新型の推力は、その倍近くのパワーを持っています。ちなみに、PW4000はシリーズでは、推力によってさらに細かなサブタイプが存在し、搭載する機体の種類や導入時期によって、名称が異なります。

 JAL(日本航空)は、レシプロ機時代からP&W社との信頼関係があり、かつ整備手順の関係も深いといった理由からか、GE社の「CF6」を採用した747-400型機のデビュー(1989年)まで、P&W社のエンジンを非常に好んで使っていた傾向があります。その重用ぶりは、本来GE社のエンジンしか搭載できなかった当時のダグラス(現ボーイング)DC-10に、「JT-9D」を選定したことなどから明らかでしょう。

 一方GE社は「ゼネラル・エレクトリック」の名が示すとおり、アメリカを代表する電気製品のメーカーで、大型冷蔵庫なども手掛けています。もともとは、航空機エンジン関係の電装品などを製造していましたが、アメリカ初期のジェットエンジンのメーカーを傘下に置いたことで、航空機用エンジンの開発に参入し、エンジンそのものの生産まで行うようになりました。

 RR社はイギリスの名門自動車メーカーとして有名ですが、第2次世界大戦中に自動車エンジンの開発技術を転用する形で、飛行機のエンジン事業にも参入し、現在にいたります。世界最初のジェット旅客機として知られるデ・ハビランド DH.106「コメット」にも、同社製のターボジェット・エンジンが採用されています。

 話をボーイング777シリーズに戻すと、実はP&W社のPW4000系を用いている777は、2021年現在、どちらかというと少数派です。日本ではこの影響を大きく受けていますが、諸外国だとP&W社製以外のエンジンを積んでいるモデルが多いので、ここまで高確率で777が運航停止になる事態は、日本が稀なケースといえるでしょう。

日本の特殊な航空事情も関係? 「PW4000系」搭載の777が多い理由

 日本にPW4000系のエンジンを積んだ777が、これほど多く存在する理由のひとつには、日本には初期型の「777-200」「777-300」がまだ多く残っている、というのが挙げられます。

 というのも、海外で多数用いられている777シリーズは、航続距離延長型、つまりより長距離飛行に適した「ER」タイプがメインで、初期型はどちらかというと、いまやマイナーなタイプといえるからです。

 初期型は、初飛行した機体も「PW4000」を搭載しており、ローンチカスタマー(初期発注者)であるユナイテッド航空もこのエンジンを選定しました。

 対し、777-200ERは、初期型より2年ほど遅れて初飛行しましたが、初期型に比べGE社製エンジンのバリエーションが増え、初飛行もGE社エンジン搭載機でした。なお、より大型の777-300ERについては、エンジンはGE社の「GE90」系しか選ぶことができません。

 この初期型が多かった理由の一因は、日本特有の運航環境が影響しているとも考えられます。ボーイング777シリーズが導入され始めた1990年代後半、同モデルのような大型機の場合、海外の航空会社は、おもに長距離国際線で用いることが多かったのに対し、日本は国内線にも投入していました。というのも日本は、羽田発着の国内線に便数制限がある一方で、羽田〜新千歳線など世界屈指の高需要路線を持つような、ある意味で特殊な市場だったからです。

 そのため日本ではJAL、JAS(日本エアシステム、現JAL)、ANAがおもに高需要国内線のために777-200を導入。これらはいずれも「PW4000」系のエンジンが搭載エンジンとして選ばれました。なお、JALとANAではその後-200ER型も導入したものの、JALはGE社製エンジンを採用し国際線へ投入した一方で、ANAは「PW4000」系のエンジンを採用し国内線、国際線の両方で使用しています。この後導入した-300ERは、両社ともGE製エンジン一択で、長距離国際線をメインに用いています。

PW4000系以外のエンジン積んだ777 問題はないの?

 もちろんエンジン選択は、新型機をデビューさせるにあたり重要な選択のひとつなので、その理由はこれだけではないでしょうが、現実に日本は、P&W製のボーイング777が非常に多く残る数少ない国といえそうです。ただし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で機材整理が進んでおり、JAL、ANAに残っている777初期型の多くが、近々に退役が予定されています。

 ちなみにJALによると、「P&W社製のエンジンはファンブレード(回転して推力を生み出す羽の部分)が金属製であり、GE社の炭素繊維強化プラスチック製と設計が異なる」とのこと。GE社製では同様のトラブルが発生したことはないと公開しています。

 パイロットは、万一エンジンの片方が停止しても安全に着陸できるよう訓練を重ねています。とはいえ、エンジンが破損した場合、その残骸が降ってきたことで、地上の人を巻き込んでしまうリスクも考えられます。運航停止措置は、機内、そして地上の住民の安全性を保護する意味合いが含まれていると考えられます。

 ただし、これまで国内の777シリーズが実際に、少なくとも死傷者を多数だすような航空事故を起こしたことはありません。デビュー以来P&W社製エンジン搭載の777は、数多くの人の手を経て、長いあいだ日本の空の安全を支え続けてきた旅客機であることもまた、もうひとつの真実であるといえるでしょう。

※一部修正しました(2月26日10時05分)。

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