旅客機に乗り込む際には、搭乗橋、もしくは「タラップ車」とも呼ばれる階段付きの車両を用いるのが一般的です。ただその歴史を見ると、機体自体に格納式の階段がついているなど、実は一筋縄ではいかないものだったのです。

搭乗橋やタラップ車が主流だが

 旅客機で旅に出る際、窓から見える景色はもちろんですが、シップ(航空機)に搭乗するまでのプロセスも、バラエティがあって、実は大変興味深い時間といえるでしょう。

 2021年現在、成田空港でJAL(日本航空)やANA(全日空)といったFSC(フルサービスキャリア)を用いて幹線の国際線に乗る場合、ボーディング・ブリッジ(搭乗橋)を用いるのが主流です。一方、同空港のLCC(格安航空会社)では、いわゆる「沖止め」も多く、バスに揺られて機体のそばへ行き、日本では「タラップ車」と呼ばれることもある、階段付きの車両「パッセンジャー・ステップ車」を登って搭乗するケースが多々あります。これはこれで、機体を間近に見られるといった楽しみもあり、筆者(種山雅夫:元航空科学博物館展示部長 学芸員)はある意味楽しみです。

 航空草創期、まだ旅客機が、複葉機や初期の低翼期のスタイルをとっていたころは、搭乗する際、せいぜい数段「ステップ(階段)」を登れば機内に入ることができました。これは、胴体の後方に脚をつけた尾輪式の旅客機が多く、まだそこまで高さがなかったからです。

 1930年代後半に活躍したダグラスDC-3は、当初後部ドアは横開きとなっており、ステップが必要でしたが、一部の機体ではドアの下端を開くようにして、機体の内側に階段を設けることで、利便性が向上しました。

 この傾向は、1940年代の大型レシプロ機を代表する爆撃機B-29の頃から、ジェット旅客機の草創期にかけ、飛行機の機内容量が大きくなると変化します。飛行機は、現代の旅客機で一般的な脚の配置「前輪式」を採用することが多くなったことで、地上でも機体が水平になります。

 この時代に、いわゆる「タラップ車」が登場することになりました。起源について具体的なところは不明ではあるものの、離陸前と着陸後に乗客の乗降に速やかに対応するため、これまで人力でステップを設置していたところ、そのステップが車両で移動できるようになっていると便利、というところから誕生したようです。

利便性の上がるタラップ車 一方で搭乗橋はどんな歴史が?

 現代のタラップ車にはいくつかのタイプがあり、キャノピーと呼ばれる雨除けのカバーが付いているものと付いていないもの、自走できるものと牽引式のもの、といった感じで大きく分けられます。また旅客機も機種によってドア下面の高さが異なるため、高さの調整が可能なほか、機体に設置時の固定用のブレーキを備えているものも。なかには、車いすに対応可能なエレベーターを装備しているものもあります。

 航空会社で機体の地上支援を行うグランド・ハンドリングに従事する方に話を聞いたことがあるのですが、「タラップ車をピタリと機体の横に着けられれば一人前」だそう。航空機の運航にはさまざまなプロフェッショナルが関わって、安全に飛行できることがわかります。

 タラップ車の後に出てきたのがボーディング・ブリッジです。これは、近代的なジェット・ブリッジと呼ばれるものであれば、1950年代後半にユナイテッド航空が、トラフィック(飛行機の運航頻度)の多いシカゴ・オヘア空港で実用化したのが始まりのようです。

 なお、アメリカでボーディング・ブリッジが本格導入される以前とはなりますが、天候の悪いことの多いイギリスでは、1930年代から、降機後ターミナル・ビルまでの通路に風除けや屋根を設けるなど搭乗客の利便性向上を図る取り組みがされていたそうです。

車でも橋でもない乗り方 まだ日本にもあった

 このほか、機体に搭載するスタイルのタラップとして、「エアステア」も、ジェット旅客機の時代になってもなお、一部の機種で採用されています。

 JAL、ANAともに導入された3発機、ボーイング727をはじめ、ANAで導入されたロッキードL-1011「トライスター」などでは、実はエアステアが標準装備でした。とはいえ、「トライスター」の場合、日本の空港ではあまり使用機会がなかったように筆者(種山雅夫:元航空科学博物館展示部長 学芸員)は記憶しています。

 ちなみにターボプロップ機ではあるものの、戦後唯一の国産旅客機、YS-11の左最前方ドアには、ローカル空港での運用を考慮して、旅客タイプには原則として内蔵のエアステアが装備されていました。なお、2021年現在でも、コミューター会社が運航するターボプロップ機などでは、国内でもエアステアが健在の旅客機もあります。

 なお、「ジャンボジェット」の愛称で知られるボーイング747-200をベースにした、アメリカ大統領専用機VC-25「the presidential aircraft」では、特殊装備として機体前方左側に開くエアステアが追加装備されていたようで、それを用いるシーンはニュース映像などで確認できます。

 近年、駐機しているシップが出発する際、シップをけん引するトーイング・カーの世界では、ラジコン式のものが出現しているようです。ボーディング・ブリッジも、最新のものだと、ボタンひとつで最適な位置につけられるようになってきています。

 そのうち自動車の自動運転のように、タラップ車の世界でも、ボタンひとつで指定位置まで行くようになるのかもしれません。便利になる一方で、いわゆるグランド・ハンドリング業界の「花形作業」が、ボタンひとつに代わってしまうのは、それはそれで少しさみしいような気がするのは筆者(種山雅夫:元航空科学博物館展示部長 学芸員)だけでしょうか。