「夜行バス」「深夜バス」「深夜急行バス」、夜間に走る3つのタイプの路線バスには、それぞれ明確な違いがあります。それだけに、西鉄「はかた号」の異名「キングオブ深夜バス」には、ちょっとモヤモヤする部分もあります。

車内で夜を明かすのが「夜行」

 都市間を結んで走る高速バスのうち、夜に出発し、翌朝、目的地へ到着する便が「夜行高速バス」と呼ばれます。寝ている間に移動できて効率的なことや、格安タイプから個室型の高級タイプまで多様な座席を選択できることなどから、特に若年層の帰省や旅行などで人気です。

 毎日約1万5000便(新型コロナウイルス感染症拡大前のデータ。以下同じ)が運行される高速バスのうち、1割強が夜行高速バスです。片道300〜400km程度の東京〜仙台線や名古屋線、大阪〜広島線などは、夜行便と昼行便の両方が走り、それ以上の距離となると、ほとんどが夜行便です。逆に、おおむね300km以下の路線だとほぼすべて昼行便です。

 夜間に走る高速バスすべてを夜行と呼ぶかというと、そうではありません。福島県や長野県と東京、熊本県と福岡を結ぶ路線などでは、地方側からの始発便の発車時刻は早朝4時台、都市側からの最終便は22時台という便が見られます。地方から都市への出張や、国際空港の利用といったニーズに応えるものです。

 ただ、これらの路線は所要時間が2〜4時間程度で、日中は30分間隔など高頻度で運行されています。4時台に発車して7時台に到着する便、22時台に発車して25時台に到着するような便は、「早朝の始発便」「夜遅い最終便」という位置づけで、夜行便とは呼ばれません。

 これらの便の乗客は、車内でうたた寝くらいはするでしょうが、乗車の前後に自宅などで睡眠しているはずです。早起きして早朝便に乗車する、あるいは深夜の便で帰宅してから寝るというパターンです。逆にいうと「夜行」と呼ばれる便には、「車内で夜を明かす」という意味があると言えるでしょう。

 高速バス以外でも、旅行会社のパッケージツアーで、夜に集合し、貸切バスを使って翌朝までに目的地に着くコースがあります。スキーツアーや登山ツアーが代表格で、これらも「夜行バス」「夜行ツアー」などと呼ばれます。

夜行バス運行のウラ側 「深夜バス」は全然違うもの

 法令上は、夜行バスについて明確な定義はありませんが、「交替運転者の配置基準」というルールの中で、「昼間運行」「夜間運行」と分けています。実車(乗客を乗せて走ること)が深夜2時から4時までにかかるものを夜間運行と呼んでいます。夜間運行が含まれると、安全性を確保するため乗務員の勤務シフトや休憩の取り方のルールが厳しくなるのです。

 このようなルールもあって、夜行バスの運行はコストが高めになりがちです。高速バスで言えば、短・中距離の昼行路線だと一人の乗務員が1日に1往復以上を担当できるのに比べ、夜行便の場合、多くは二人乗務です。しかも1往復で3日間分の勤務シフトを必要とするので、2人×3日=のべ6人分の人件費が発生します。

 JRバス各社など一部の事業者では、中間地点の車庫などで別の乗務員と入れ替わるといった勤務体制を構築しコスト削減に努めていますが、夜行バスは高コスト体質で、昼行便に比べ収益性に劣るのは変わりありません。

 一方で、夜行バスによく似た「深夜バス」というものや、夜行高速バスによく似た「深夜急行バス」というジャンルもあります。これらは夜行バスと区別がつきづらいものの、業界では違うタイプのサービスとして扱われています。

 まず、深夜バスは、駅と住宅地などを結ぶ路線バスのうち、夜遅い時間帯に運行され、かつ、運賃が日中とは異なる便のことです。高度経済成長期に郊外の住宅開発が進んだことで、最寄り駅から自宅までの路線バスのニーズが、より遅い時間帯まで広がりました。さらにバブル期には、大手私鉄らが終電時刻を繰り下げた一方で、タクシーの規制緩和が進まず車両不足が発生し、深夜の足の充実を求める声が市民から聞かれました。そこで、政府の働きかけもあって深夜バスが充実したのです。

 路線バスの運賃は認可制であり、事業者の裁量で値上げすることはできませんが、深夜バスについては、通常運賃の2倍に設定されるのが一般的です。

飲んだ人の味方だった「深夜急行バス」は

 また、主に平日の終電後に、新宿や梅田といった大都市のターミナル駅から、高速道路などを利用して郊外の衛星都市へ運行する路線が、深夜急行バスと呼ばれます。

 先に述べた深夜バスでは、昼間に運行している路線バスの車両と乗務員がそのまま深夜バスの運用に入るのに対し、深夜急行バスでは、高速バスと車両を兼用にしたり、貸切バスの車両を転用したりするケースが一般的です。ただし、最近ではバリアフリー対応のため路線バス用の車両をベースにし、高速道路を走行できるようシートベルトを装備した専用車両を導入する例も増えています。

 深夜バスと同様、深夜急行バスも、昼間の路線バスに比べ運賃が高めに設定されます。しかし、どちらも収益性は十分とは言えません。これらの便を担当した乗務員は、25〜26時台に営業所へ戻ってきます。以前は、2日分勤務したという扱いで勤務終了というケースもありました。2日目は出勤扱いながらも実質的に休日で、乗務員からすれば「おいしい」シフトですが、会社から見ると収支が合いません。

 また、営業所で仮眠を取って2日目の乗務をする場合も、勤務と勤務の間は8時間以上確保することが法令で定められています(例外を除く)。1日目のシフトが「夕方出勤→26時終了」だとすると、2日目の出勤時刻は10時以降ということになります。これでは、車両がめいっぱい稼働する朝のラッシュ時には乗務できず非効率です。

 さらに、深夜急行バスは酔客も目立つことから、ターミナル駅に待機列の整理などを行う「立ち会い要員」を配置するケースも多く、なかなか利益を出しづらい状況です。現在はコロナ禍の影響でほとんどが運休中ですが、感染収束後も運行再開に至らない路線も多く出るのではないかと危惧されます。

避けては通れぬ「はかた号=キングオブ深夜バス」これ如何に?

 さて、夜行バス、深夜バスというと、新宿〜福岡線「はかた号」(西日本鉄道)に付けられた「キングオブ深夜バス」という称号に触れざるを得ません。テレビの人気バラエティ番組で出演者がこの路線に乗車し、そのように名付けたのです。しかし、前述の通り、同路線は厳密に言うと夜行高速バスであって深夜バスではありません。

「はかた号」は、国内最長距離路線の一つであること、個室タイプで電動リクライニング座席を備えた「プレミアムシート」が設定されていること、また運賃が予約状況に応じて変動するダイナミック・プライシングを導入したことなどから、記事で紹介することも多く、その際には必ずと言ってもいいほど「キングオブ」の称号が枕詞として使われます。

 番組では「キングオブ深夜バス」だったのだから記事でもそう紹介するのが正解なのでしょう。でも、実際には「はかた号」を深夜バスと呼ぶのはどうしても抵抗があるのも確かです。「キングオブ深夜バス」と書こうとして、キーボードを叩く指が勝手に「キングオブ夜行バス」と打ってしまった経験は、バス業界について記事を書く者に共通の「あるある」かもしれません。

【夜行バスとは言いません】夜中の3時08分に終点に着くバス 動画で(現在運休中)