駅構内で立ち食いそば・うどんは数あれど、「駅カレー」は多いようで意外と少ないのが現状です。しかし、その名店は全国に存在します。スパイスや出汁の組み合わせなどに多様さが見られ、提供する店の様々な個性も発揮されています。

駅には向いているのに…なぜ「駅カレー」少数派なのか

 鉄道駅などの構内でさっと食べる「駅ナカフード」といえば、思い浮かべるのは「そば・うどん」かもしれませんが、その中で「駅カレー」(カレーライス)もちらほらと存在し、ひとつのジャンルとしてカテゴライズできるような多様さがあります。

 調理の効率が重視される駅構内において、ご飯にルーをかけるだけで完成するカレーの提供は、基本的には向いているといえるでしょう。ホーム上や構内でよく見かけるカレー専門店としては、京王電鉄系列の「カレーショップC&C」や、JR傘下だった「カレーステーション」「印度倶楽部」(現在は全店閉鎖)などが印象深いところです。

 かたや駅そば店舗では、出汁を効かせつつもスパイスが効いた「駅そば店のカレー」(カレー丼も含む)をサイドメニュー的に出すお店も見られます。しかしメインの麺類より出る数が少なく作り置きもできず、かつ提供直前の加熱などひと手間を要します。またご飯の美味しさも大切ですが、茹で麺機とダシ用の寸胴鍋がスペースを取る店内で、お米を美味しく炊けるガス炊飯器の追加導入は困難を伴います。

 このため、多くの駅そば店舗のご飯ものメニューは、店舗外から搬入できるおにぎり・いなりなどのほか、カレー関連はレトルトで対応、というケースが必然的に多くなります。駅でのカレー+ライスの提供は専門店なら効率が良いものの、麺類の脇役として提供するには手間がかかって不利、といえるでしょう。

駅じゃないけど絶対外せない! 新潟名物のカレー

 そうした条件の中でも駅や交通ターミナルで生き残ってきたカレーには、固定客を獲得してきた独創性があります。

 その代表例として挙げられるのが、鉄道駅ではないものの、新潟市にある万代シティバスセンター内の「万代そば」(旧称「浦浜農園そばコーナー」)のカレーではないでしょうか。いまや新潟のご当地グルメとして認知されているほどの人気ぶりです。

 通称「バスセンターのカレー」と呼ばれる万代そばのカレーは、強めのとろみ、独特の黄色と見かけも個性的です。食べている最中というよりは、家に帰った後や、新潟県を出た頃に食べたくなるほど後を引き、過去には「このカレーのために新潟を早々に再訪した」という芸能人の告白で、日本中に「思い出し“バスセンターのカレー”」が起こるほど。メディアでもしばしば紹介され、そのたびに遠方からの訪問が相次ぐそうです。

 2020年にはバスセンターの耐震工事により一時休業しましたが、営業再開後も固定客が離れることはなく、なかには10年20年と通い続けている人もいるのだとか。近年は新型コロナウィルスの感染拡大によってバスセンターの利用客そのものが減少しているようですが、「バスセンターのカレー」はレトルトカレーとしても販売されているため、お取り寄せでその味を堪能している人もいるのではないでしょうか。

環境が変わっても愛される「駅カレー」、東北に名店あり!

「バスセンターのカレー」もそば出汁を使用していますが、さらに出汁の香りを味わえるカレー丼が、JR常磐線 原ノ町駅前(福島県南相馬市)の「立ち喰いそば・まるや」でひっそりと提供されています。ほんのりそば出汁の風味とスパイスをまとった「カレー丼」のルーには、豚バラ肉や玉ねぎの旨みもほんのり加わっており、さまざまな香りや食感を味わうことができます。グリーンピースや福神漬けとの相性も良く、オススメ扱いされていないものの、隠れた“当たりメニュー“です。

「まるや」は、かつては駅構内でそば店を営むほか、ホームでは「野馬追弁当」など名物駅弁を立ち売りするなど、運転系統の境目でもある原ノ町駅において食の拠り所であり続けました。しかし2011(平成23)年の東日本大震災、福島第一原子力発電所の被災と、常磐線の長期運休で状況は一変。今では駅前の店舗のみで営業を続けています。同店の「カレー丼」はとろみが強くセットで頼んでも冷めにくいため、冷え込みが長く厳しい原ノ町で復興作業に携わった人々にとっては、とても印象に残っているのだとか。

 また東北では、かつて十和田観光電鉄 三沢駅(青森県三沢市)などの構内にあった「とうてつ駅そば」のカレーも忘れられません。「とうてつ」は会社の略称「十鉄」にちなみます。そば出汁を使用しつつも、食べ進めるにつれてうっすら汗をかくほどにスパイスが効いた「とうてつそば」は、2012(平成24)年に十和田観光電鉄線が廃止された後も、三沢では駅舎取り壊しまで営業を続けていました。現在は青い森鉄道 三沢駅前の交流施設内に移転し、その味を守っています。

「コーヒーと合うカレー」「牛乳と合うカレー」を駅ホームで!

 コストパフォーマンスでいえば、JR秋葉原駅6番線(総武線)ホームの「新田毎(しんたごと)」も見逃せません。毎週火・木・土・日曜日のサービスデーには、ほぼ半額(1200円→690円、2021年7月現在)となる「ステーキカレー」の注文が激増、店内は「そば派」と「ステーキカレー派」で二分されます。

 新田毎は、毎週月・水・金曜日には天丼セット(そばのみ)が大幅割引になるほか、平日データイムには格安になるメニューも存在するなど、いつ行ってもお得なことで知られています。通路を挟んで向かい側には、多い時で1日3000本もの牛乳が売れるというミルクスタンド「ミルクショップ酪」があり、スパイシーなカレーで満たされた人々の多くが、心なしかそのまま牛乳を飲みにきているのは気のせいでしょうか。

 関西では、阪神梅田駅改札横のカレー専門店「ミンガス」が50年近く歴史を重ねています。客船のコックから味を伝授されたという欧風のカレーはとてもまろやかで、甲子園球場の試合がある際はカツカレーの注文が増えるとも。2021年4月にいったん閉店し、6月に同系列の「阪神そば」とカレーの複合店として再オープンした後は、カレーだけでなく特製の「カレーそば・うどん」もコラボ商品として人気を集めています。

 ほかにも関西では、JR天王寺駅 阪和線9番ホーム(降車専用)に店を構える「カフェプレスト」(7月現在は休業中)や、駅カレー専門店の出店や駅弁仕様のカレー発売が話題を呼んだ米原駅「井筒屋」なども存在感を保っています。ほかにもJR駅の構内では、前出したカレー専門店「印度倶楽部」がかつてあったり、構内喫茶店での提供も多かったりしたため、「乗り換えついでにササッとカレー」という習慣が残っているのかもしれません。

 駅利用者は時間に追われていることが多く、構内での食事は効率とスピードが求められます。「駅カレー」は、まず大勢での会食となることもないため、これからの時代にはある意味向いているのかもしれません。