飛行機に乗る際、巡航中に聞くことができる「パイロットからのアナウンス」。ANAでは、これに厳密なマニュアルは存在せず、フライトに応じたアレンジをしているそうです。実は奥深い機内アナウンスの裏側を、現役の機長に聞きました。

客層でアレンジするアナウンス…でも客室は見えない!

 飛行機が離陸したのち巡航に入ると、パイロットから現在の飛行状況や到着地の天候、搭乗のお礼などが伝えられる機内アナウンスは、ほとんどの便で頻繁に耳にします。なかには窓から見える景色の解説やユニークなメッセージなど、旅客への”粋な計らい”を盛り込んだアナウンスを実施するパイロットも。

 ANAの場合、機内アナウンスで話す内容は雛型にまとめられており、これはマニュアルではなく「文例集」と称するとのこと。実際のフライトではそれを参考にしつつも、そのときの状況にあわせて各パイロットが内容を多少変えてアナウンスを実施するそうです。

 ANAのパイロットは、「機内アナウンスを行う上で難しいポイントは、お客様の様子を直接目で見ることができないということです」と話します。

「フライトでは、ビジネス旅客が多いのか、観光客や年配のお客様が多いのかなど、お客様の層によってアナウンス内容を多少変えることがあります。たとえばビジネス路線であれば到着予定時刻についてはとくに関心があるでしょうし、アナウンスは比較的簡潔に実施します。一方で、年配のお客様やふだん飛行機に乗り慣れないお客様などが多ければ、機内アナウンスはできるだけ丁寧に、とくに揺れの状況や窓から見える景色もしっかり伝えます」(ANAのパイロット)

 ただ、路線ごとにおおまかな客層の傾向はあるものの、実際には前述の通り、コックピットから乗客の様子を見ることはできません。そこで、「ボーディングブリッジ(搭乗橋)やタラップ(搭乗に用いられる階段付きの車両)で搭乗されるお客様を見て、その層をできる限り把握しています」とのことです。

 また同氏は「もちろんこれはアナウンスのためだけでなく、少し揺れがあっても定刻到着を優先するのか、少し時間が長くかかっても揺れのない高度を選定するのかなど、その便をどういう便に作り上げるのか、といった運航品質を判断するヒントにも用いています」と話します。

実は難しい「音量」 場面によっても微調整!?

 また、もうひとつパイロットが機内アナウンスで気を払っている点は、実は”音量”とも。

「自分が話している音量が大きいのか小さいのか、コックピットでは正確にわからないことも、機内アナウンスの難しさのひとつです。パイロットは機内アナウンスの声をヘッドセットで聞くことはできますが、コックピットでは客席のようにスピーカーで室内に響き渡ってはいません。もしもコックピットのスピーカーからアナウンスが響き渡ると、管制官との交信などの妨げになるからです。したがって、パイロットは自分の機内アナウンスのボリュームが正確にはわからない状態で話します」(ANAのパイロット)

 そのことから同氏は、経験で適切な声量を把握するほか、ときどき客室乗務員にアナウンス音量の意見を聞くようにして自分の感覚を確認・修正しているとのこと。また、上昇中と降下中でエンジン音の大きさが変わることを踏まえ、たとえば上昇中の機内アナウンスは少しだけ大きめの声を意識するなど工夫しているとのことです。

 また機内アナウンスを行うパイロットは同時に、もう片方の耳で管制官の自機や他機への交信を常に聞き、またもう1人のパイロットがどのような操作をしているかといった動向をモニターしているとも。実は旅客へアナウンスしている裏側では、パイロットがさまざまな工夫をしていました。

 もちろんアナウンスは巡航中の「ご搭乗ありがとうございます……」から始まるものだけではなく、場合によってはイレギュラー時や緊急時にも実施されます。そのようなケースでは、操縦の手順をこなしながら、内容を的確かつ簡潔に伝えることが重要で、難しいポイントとして挙げられるそうです。

「様々なケースを想定した機内アナウンスは、日頃からどのような感じで話すのかをイメージしていないと、いざというときに要領よく行うことができません。さらに、日本語のみでなく英語でのアナウンスが必要になる場合もあり、その内容も考えておく必要があります」(ANAパイロット)

 パイロットによる機内アナウンスは、利用者への単なる搭乗御礼だけでなく「イレギュラー時や緊急時の説明責任、安心や信頼の醸成といった意味合いも持っています」ということでした。

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