ジェット旅客機の航続距離は、長距離タイプでも1万kmから1万5000kmくらいという状態が長年続いています。軍用機には「空中給油」という手法がありますが、民間機では実現できるのでしょうか。

737やA320で1万km以上?

 軍用機で行われる「空中給油」、旅客機でもできるのでしょうか。もし飛行中に給油ができれば、航続距離が飛躍的に伸びることも考えられます。

 とくに「空中給油」を旅客機で実施できれば、A320やボーイング737といった単通路ジェットでも、1万kmを超えるロングフライトができるかもしれません。

 近年ではサイズの小さい単通路ジェット旅客機でも航続距離延長型が生まれています。現在開発が進められている航続距離約8700kmの性能をもつエアバスA321XLRなどがこの例です。ただ、それでもなお長距離性能については、A350やボーイング787のような大型の複通路機のほうが断然優位。複通路機には1万5000km以上の超ロングフライトに対応しているものもあります。これは、極端にいってしまえば、機体が大きいと、その分燃料を多く積むことができるからです。

 ちょっと考えにくい、でも航空ファンであれば興味をそそる構図ですが、この「旅客機の空中給油」の可能性を探ってみましょう。

 そもそも軍用機の空中給油には、大きく分けて二つの目的があります。一つは燃料不足になった航空機に燃料を補給するため。もう一つは、離陸時は燃料よりも搭載量(武器含む)を優先させ、離陸してから飛行可能重量いっぱいまで燃料を搭載して目的地へ向かうことで、キャパシティと飛行距離の両立を図るためです。

そもそも「空中給油」とはなんなのか?

 軍民関係なく航空機には、設計上、最大離陸重量という制限が定められており、この値を超えて離陸することはできません。最大離陸重量を超過したために墜落した例もあったほど、この値はシビアです。最大離陸重量を決める要素は、機体自体の重さ(座席などの機内装備品なども含む)、乗客や荷物の搭載量(機内食なども含む)、もう一つが燃料です。

 この最大離陸重量は、「(離陸したのち)安全に巡航できる最大の重さ」より低い値が設定されています。なお、先述した空中給油の二つ目の目的は、最大離陸重量と「安全に巡航できる最大の重さ」の差を利用し、スペックを最大限発揮するためのものです。

 さて、旅客機で空中給油を行うことは、「技術的に不可能ではない」といえそうです。しかし、コストパフォーマンスが著しく悪いでしょう。

 そもそも旅客機の場合、実は燃料をいつも満載にしているわけではありません。これは、想定される飛行距離(予備などを含む)に必要な燃料を計算できるため、その分を搭載すればよく、余計に燃料を積む必要がないからです。それで、その分を客席数などの増大に回しています。軍用機の場合は国の命運がかかっていますが、民間機の場合は安全性さえ確保できれば経済性が優先されることから、「空中給油するほど差し迫ったシチュエーション」は考えにくいわけです。

 操縦技術の問題もあります。そもそも空中での給油作業は、主翼が上下2枚ずつある複葉機の時代から、2機が上下平行に飛行して、燃料パイプを受け渡すようにして給油する方法が試されてきました。ただ、その派手な見た目どおり、非常に高度な操縦技術が必要となるため、第二次世界大戦が終わる頃までは実用化されなかったほどです。

 この技術を実用化するには、パイロットへ超高度な追加訓練を課すことが必要となります。しかも単通路機の特定の機種だけで、使うフライトもごく限られるでしょう。もちろん民間機のパイロットは選りすぐりのエリートたちですので、クリア自体は可能でしょうが、それよりも、より大型の機体で長距離を飛んだほうが断然コスパが良いわけです。

「ハード」の面から見る旅客機の空中給油の可能性

 また、空中給油は、設備の面でもハードルがあります。空中給油を実施するためには、給油する側にも、される側にも特殊な装備が必要であり、通常は民間機には装備されていません。

 給油の方法は主にふたつあります。たとえばアメリカ海軍の場合、プローブ・アンド・ドローグという方式を採用しています。給油機側が先端に落下傘のような機構のついたパイプ(ドローグ)を出し、給油される側の機体は、それを空中で差し込みます。比較的運動性の高い機体で使用される方法です。

 一方、アメリカ空軍ではフライング・ブーム方式という方法が採用されています。ボーイング社が開発した、給油機の後部に装備された「ブーム」と呼ばれる太い管を用いて燃料を受け取る方法です。比較的大型機に対応できるというのが、この方式のメリットです。

 これらの実現にはいずれも、専用の機構が燃料供給を受ける側の機体にも必要です。旅客機の場合、燃料の給油口は主翼の下が一般的です。少なくとも、空中給油のための給油口の位置を機首上部に設け、そこから主翼の燃料タンクまでパイプを伸ばす機構を追加する必要があります。こうなると、結構抜本的な改造となり、費用も莫大ですし、重量もその分重くなり、その分搭載量が減ります。メンテナンスも大変なことになります。やっぱりコスパが悪い…となるわけです。

 となると、やっぱり今のまま「給油は地上でのみ行う」というのが一番安全で確実な方法です。航続距離は燃費の良いエンジンを積んだ新型機が開発されれば多少は伸びますので、そちらに期待した方が現実的なのかもしれません。

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 なお、ジェット旅客機の長距離性能は、この数十年間、頭打ち状態であったように思います。これは、旅客機として要求される長距離性能が、需要から判断すれば、アジア〜アメリカ線、アジア〜ヨーロッパ線の直行便をカバーできれば十分であるためです。距離にすると長くとも1万kmから1万5000kmほどの性能といったところでしょう。

 ただ、冒頭のA321XLRは単通路旅客機では世界最長の航続距離をもつとうたわれているほか、エアバス社からは、航続距離1万8000kmをうたう超ロングフライト使用旅客機A350-900ULRなども出現しています。これらは現代では特殊なタイプですが、こういった旅客機の出現は、航空業界の変化につながるのかもしれません。