現代空母のトレンドと呼べる設備のひとつ「スキージャンプ」は、滑走距離の限られる飛行甲板から航空機を発艦させることができる便利な仕掛けです。実は、アメリカとイギリス以外の国が空母を保有できるのも、これが登場したおかげでした。

航空機を空母から発艦させる工夫 カタパルトとどう違う?

 近年、艦首の飛行甲板が大きくせり上がった空母をよく目にするようになりました。スキーのジャンプ台と形が似ていることから、このような形式の空母の甲板を「スキージャンプ」と呼びます。空母からの航空機の発進を補助するカタパルト(射出機)に代わるものとして登場したスキージャンプは、なぜ多くの国の空母に採用されるようになったのでしょうか。

 1970年代までは滑走距離の短い空母で航空機を発艦させるのにはカタパルトが使われていました。アメリカの空母が使用している蒸気カタパルトは、重さ30t以上もある航空機を2秒で300km/h超まで加速できます。カタパルトに使用する蒸気は艦のボイラーで発生する余熱を利用して作られますが、原子力空母は常に熱源が確保されているので、このような装備の運用が可能なのです。

 蒸気カタパルトはアメリカの空母のほかに、アメリカから技術供与を受けたフランスの「シャルル・ドゴール」だけが使用していますが、仕組みが大掛かりなため小型空母での運用は困難です。

スキージャンプを取り入れるもとになった「シーハリアー」

 1975(昭和50)年に旧ソ連が「キエフ」級航空巡洋艦を就役させるまで、空母はアメリカとイギリスのほぼ独壇場でした。ただし、イギリスは財政難で、アメリカのように大型の原子力空母を多数運用する力はありませんでした。

 そこでイギリスは自国の空母に合った軍用機を開発します。1960年代に登場した世界初の実用垂直離着陸機「ハリアー」の空母搭載型である「シーハリアー」です。

 ただ、シーハリアーは空母で運用するには問題がありました。垂直離着陸は発着艦時に大量の航空燃料を消費します。そのため航続距離と搭載兵器の量が犠牲になってしまいます。対策としてイギリス海軍は発艦を短距離離陸で、着艦は垂直着陸で運用することにしました。そして、その発艦のために「スキージャンプ」を取り入れたのです。

 そもそもイギリスは第2次世界大戦末期の1944(昭和19)年に、ドイツ戦艦を攻撃するためスキージャンプを仮設した空母から雷撃機を発艦させた実績がありました。

 スキージャンプから艦載機が飛び立つときは大きく機首を上げた姿勢になります。これは凧と同じ原理で、短い滑走距離でも平坦な飛行甲板よりも大きな揚力が得られるというわけです。

スキージャンプとF-35Bの組み合わせ

 こうして、イギリス海軍は通常動力型空母でスキージャンプが有効なのを証明しました。これに着目したのが旧ソ連でした。1990(平成2)年に就役した「アドミラル・グズネツォフ」はスキージャンプを装備し、通常の艦載機を発艦させました。これをきっかけに空母を保有する国が増えていきます。

 現在ではアメリカ以外で、インドやイタリアなど7か国の空母と強襲揚陸艦にスキージャンプが採用されています。

 シーハリアー以来となる垂直離着陸の実用機であるF-35Bは現在、空母を保有するアメリカの同盟国に配備が進んでいます。イギリスの新鋭空母「クイーン・エリザベス」は全長284m、排水量6万4000トンの大型空母ですが、F-35Bを搭載し、カタパルトの代わりにスキージャンプを採用しました。

 現在F-35Bは、スキージャンプを備えた空母だけでなく、平坦な飛行甲板の強襲揚陸艦でも使用されています。これは、スキージャンプのメリットは承知しながらも、保有する艦種と各国の戦術によって使い分けているということです。

 日本では「いずも」型護衛艦を改修してF-35Bを運用するのですが、船体の大幅な改造が必要なスキージャンプは取り入れられません。これと同様に、アメリカはスキージャンプのない強襲揚陸艦でF-35Bを運用しており、予算と改修期間の問題から艦首の形状を台形から四角に変更するにとどめています。日本がスキージャンプを採用するなら将来の新造空母になるでしょう。

 なお、中国が自国で建造した最初の空母「山東」はスキージャンプ式で、後継艦は原子力空母や電磁カタパルトの採用が噂されていますが、運用実績の積み重ねが必要なため実用化には時間がかかると見られます。

 建造と維持に莫大なコストのかかる空母を保有するのは国家にとって大きな負担であり、アメリカ海軍のように原子力空母にカタパルトを装備する、といったことはさらに容易ではりません。各国の海軍にとってカタパルトよりも導入が容易なスキージャンプは、ますます重宝なものとなっていくのではないでしょうか。