およそ22年ぶりに日本へ飛来したエアバスの巨大輸送機「ベルーガ」、このユニークな形状の航空機はなぜ生まれたのでしょうか。背景にはライバルであるボーイングとの競合の歴史がありますが、実はベルーガの“先祖”はボーイング機です。

22年ぶりに飛来したシロイルカ

 エアバスの大型輸送機A300-600ST「ベルーガST」が2021年12月、日本に飛来しました。1999(平成11)年以来22年ぶりのことでした。

 胴体上半分に巨大な貨物室を備えたユニークな形状のベルーガ(シロイルカ)、その存在は、めったに飛来することのない日本でも知られています。エアバスがこのような特殊な航空機を保有している背景には、同社の成り立ちが大きく関係しています。

 1960年代、ジェット旅客機時代の到来に伴う開発費の高騰によってヨーロッパ諸国の航空機メーカーは、アメリカの航空機メーカーへの対抗が困難となっていました。そこでヨーロッパの航空機メーカーが大同団結し、アメリカの航空機メーカーに対抗する旅客機を開発するため、1970年12月に設立されたのがエアバス社です。

 設立時のエアバスは、フランスのアエロスパシエルと西ドイツ(当時)のDASA(ダイムラークライスラー・エアロスペース)による合弁企業でしたが、その後イギリスのブリティッシュ・エアロスペースとスペインDASAの参加により4か国体制となりました。エアバスは参加した企業が一定の仕事を確保できるよう、各社で分担して胴体や機体の各部を製造する国際分業制を採用しており、それは現在も変わっていません。

 この枠組みで製造を円滑に進めるためには、ヨーロッパ各地で製造された機体の各部を、フランスのトゥールーズに設けられたエアバスの最終組み立て工場に運ぶ輸送機が必要でした。巨大で重量が大きく、かつ繊細な航空機部品を運べる航空機を開発する力は、設立間もないエアバスにはなく、ヨーロッパ各国にもそのような輸送機は見当たりませんでした。

ご先祖はボーイングの熱帯魚!?

 そこでエアバスは、後に世界市場で覇を争うことになるボーイングの輸送機をベースに開発された「スーパーグッピー」に目を付けます。

 スーパーグッピーはボーイングのレシプロ旅客機「377」の軍用機型C-97Jに、アメリカのエアロ・スペースラインが大規模な改造を加えて開発した輸送機です。NASA(アメリカ航空宇宙局)のサターンロケットなどの大型機材を輸送する目的でした。のちのベルーガと同様、胴体上半分に大きな貨物室を設け、機首部から大型の貨物を積み下ろしする仕組みとなっています。

 エアバスは、最初に開発した旅客機A300の製造と販売が軌道に乗った1970年代前半にスーパーグッピー4機を導入し、ヨーロッパ各地で製造された胴体や主翼などをトゥールーズへ迅速に輸送する体制の構築に成功しました。

 前出の通りスーパーグッピーはボーイング純正の輸送機ではないのですが、スーパーグッピーがエアバスの円滑な製造体制の構築に貢献したことから、「すべてのエアバス機はボーイングの翼によって届けられた」と揶揄されたという話もあります。

 ただスーパーグッピーは特殊な形状のため操縦が難しく、また原型機のボーイング377が1940年代に開発された航空機のため、部品の調達も困難となったことから、エアバスは1990代前半にベルーガを開発。これにより同社のスーパーグッピーはすべて退役しました。うち2機はエアバスの工場に隣接するトゥールーズ・ブラニャック空港とドイツのハンブルク・フィンケンヴェルダー空港で展示機として余生を過ごしています。

エアバスvsボーイング 今後は日本が焦点に?

 ベルーガの運航は1996(平成8)年に開始しましたが、その後エアバスの旅客機の生産数が急増したことから、同社は2011(平成23)年、運航の効率化により輸送機の飛行時間を増やし、輸送量アップにつなげる計画「フライ10000」を実施しました。それでも輸送需要を満たすことが困難となったことから、エアバスはベルーガの原型機より大型で航続距離も長いA330をベースとする大型輸送機「ベルーガXL」を開発し、同機は2020年1月9日から運航を開始しています。

 こうした流れは、スーパーグッピーでエアバスの飛躍に手を貸す形となってしまったボーイングでも同様です。

 ボーイングは767から、日本企業の製造分担を大幅に引き上げ、787ではそれが35%に達しました。またイタリアでも多くの部位が製造されていることから、ボーイングは日本とイタリア、アメリカ国内の工場で製造された787の部品を円滑に輸送するため、747-400に大規模な改造を加えた輸送機「ドリームリフター」を製造し、同機は日本にも頻繁に飛来しています。

 対するエアバスも、日本企業との連携を強化しようとしているようです。2022年1月7日付の「Wing Daily」はエアバス・ジャパンのステファン・ジヌー社長が「将来開発される次世代旅客機の日本企業の製造分担を20%以上にまで拡大したい」と述べたと報じています。

 エアバスの次世代旅客機の製造を、日本企業がどの程度分担できるのかは未知数ですが、もしジヌー社長が言う20%以上という製造分担が実現すれば、日本の空港でドリームリフターとベルーガXLが静かな火花を散らす光景を見られる……かもしれません。