映画『トップガン マーヴェリック』に登場する試作ステルス機「ダークスター」。この機体、実際にステルス機の開発経験を持つロッキード・マーチンが監修したものとか。しかも運用する試験場も実在する海軍基地だといいます。

機体だけでなく試験場所までリアルさを追求

※※本記事はネタバレ要素を含みます※※

 映画『トップガン マーヴェリック』の冒頭では、主人公ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐は前作のような戦闘機乗りではなく、「ダークスター」と呼ばれる極超音速試験機のテストパイロットを務めていました。

 この「ダークスター」は実在しない架空の機体ですが、デザインや考証で本物の軍用機メーカーであるロッキード・マーチン社の開発部門スカンク・ワークスが協力しています。同部門は世界初のステルス戦闘機F-117「ナイトホーク」や、最高速度マッハ3を出したことで世界一速い航空機としてギネス認定された偵察機SR-71「ブラックバード」を開発した、航空機業界では名の通った開発チームです。

 映画の「ダークスター」も高速飛行という点でSR-71やその後継機として開発中とされるSR-72をオマージュしており、その開発部門に協力してもらうことで機体のリアリティーを高めたといえるでしょう。しかし、映画制作陣のコダワリはそれだけではありませんでした。「ダークスター」のテスト場所も、現実のアメリカ海軍組織に則ったものだったのです。

 劇中で「ダークスター」が発進した基地の名前はチャイナレイク。ここは実在するアメリカ海軍の兵器試験場です。場所はカリフォルニア州内陸部の砂漠地帯で、通常の基地と異なるのは兵器や航空機のための広大な試験場を有していることです。

 その広さはなんと110万エーカー(約4451.5平方キロメートル)にもなり、これは単一の敷地としてはアメリカ海軍で最大規模。それどころか、アメリカ海軍が全世界で保有する土地の38%にもなります。正直、島国の日本人からは想像すらできない桁違いの広さといえます。ちなみに、都道府県の面積でいうと、山梨県の4465平方キロメートルが近いでしょう。

広大な試験エリアが必要なワケ

 なぜ、アメリカ海軍がこれほど広い試験場を必要とするかというと、ここでの試験が戦闘機ならびに航空機で運用する兵器をテストするのには、ここまでの広さが必要だからです。現代の戦闘機は超音速で飛び、そこから発射される兵器は数十から100km以上の射程があります。それらが実戦で本当に使えるかどうかを判断するためには、単純に試射するだけでなく、実戦を想定した複雑な条件の下で試験を行う必要があります。

 広大なチャイナレイクの試験場ではそういったテストが可能です。なお、ここでの任務は航空機ならびに兵器の試験だけでなく、それを任務で実際に使うための運用や戦術の研究も含まれているそうです。

 一般には公表されていない新技術や装備品がテストされることもあるためか、基地内のセキュリティーレベルは非常に高く、兵士であってもテストエリアでの撮影はスマートフォンを含めて厳禁。一般人の立ち入りも厳しく制限されています。ゆえに、「ダークスター」のような極秘機のテストが行われていても不思議ではありません。

 なお、基地には航空試験評価飛行隊と呼ばれるVX-9「バンパイアーズ」とVX-31「ダストデビルズ」の2つが所在しています。試験の内容についてはVX-9が兵器試験、VX-31は航空機の試験を担当していると言われています。特にVX-9は海軍と海兵隊のすべての航空機搭載兵器の試験を行うために、1つの飛行隊で戦闘機から攻撃ヘリコプターまでを統合的に運用しているとか。この中には最新鋭のF-35BとF-35Cも含まれています。

独自に救難ヘリまで運用する試験飛行隊

 一方のVX-31は航空機試験が主体であり、F/A-18「ホーネット」戦闘機の各バージョンと海兵隊のAV-8B「ハリアーII」垂直離着陸機を保有しています。また、試験中の事故に速やかに対応できるよう、救難ヘリコプターMH-60S「シーホーク」も自前で運用しているそう。ちなみに同機は救難機として目立つように白と赤の救難カラーになっています。この機体は『トップガン マーヴェリック』の劇中にも登場しているので覚えている方も多いでしょう。

 映画で「ダークスター」のテストパイロットを担当するマーヴェリックは、フライトジャケットにVX-31の部隊ワッペンを付けていました。「ダークスター」は飛行試験が主体なので、このチョイスは実際の航空試験評価飛行隊の任務を反映しているといえます。

 アメリカ海軍は映画『トップガン マーヴェリック』の制作に大盤振舞いで協力しました。本物のF/A-18「ホーネット」戦闘機を飛ばし、俳優をそのコックピットに乗せての飛行や撮影用のカメラをコックピット内に装着する器材の開発も手伝ったといいます。作品内で描かれるクオリティーの高さは有名作品の続編という期待と、俳優および制作陣の熱量の高さゆえだと思いますが、それ以外にも全面的に協力してくれたアメリカ海軍へのリスペクトも含まれていると考えられます。

 そのため、劇中で描かれているシーンの多くには現実のアメリカ海軍やそのカルチャーが反映されています。「ダークスター」に限らず、それ以外のシーンでもアメリカ海軍のスタイルを再現した部分を見つけて、選ばれた理由を推測するのも楽しいかもしれません。