韓国版のブルーインパルスにあたる「ブラックイーグルス」が、2か月にわたる欧州・アジアへの“出張”を終えて帰還しました。アジア諸国の空軍アクロバットチームでは初となった長期の海外遠征は、何が目的だったのでしょうか。

アジアの空軍で初 ブラックイーグルスのワールドツアー

 韓国空軍は2022年8月20日、同空軍の曲技飛行隊「ブラックイーグルス」(第239特殊飛行大隊)が、2か月にわたる海外ツアーを終えて本拠地の原州空軍基地に帰還したと発表しました。ブラックイーグルスは日本でいう「ブルーインパルス」にあたるアクロバット飛行チームです。

 ブラックイーグルスは6月に韓国を出発し、まずイギリスへ向かいました。イギリス空軍のボスコムダウン基地を拠点として7月9日と10日に開催されたサウスポート・エアショー、15日から17日まで開催されたロイヤル・インターナショナル・エア・タトゥー(以下RIAT)、18日から22日まで開催されたファンボロー・エアショーに相次いで参加。RIATではデモ飛行最優秀賞と人気賞を獲得しています。

 その後は27日にポーランドのデンブリン空軍基地上空で曲技飛行を披露した後、8月3日にはエジプトで開催されたピラミッド・エアショーに参加。そのまま東回りでフィリピンへと向かい、12日から15日までフィリピンに滞在し、同国空軍との親善飛行などを行っており、韓国空軍はブラックイーグルスの海外展開中の総飛行距離が2万km以上に達したと発表しています。

 アメリカ空軍「サンダーバーズ」やイギリス空軍「レッドアローズ」など欧米諸国の空軍の曲技飛行隊は、複数の国を訪問して曲技飛行を披露するワールドツアーを行っていますが、アジア諸国の空軍の曲技飛行隊でワールドツアーを実施したのはブラックイーグルスが初めてです。

 ブラックイーグルスは2012年7月に開催されたRIATでもデモ飛行最優秀賞と人気賞を受賞しており、今回のRIATでのダブル受賞とワールドツアーの成功で、世界でも屈指の曲技飛行隊となったと言えるでしょう。

 韓国国防部はブラックイーグルスのワールドツアーの経費を明らかにしていませんが、80日間に及ぶツアーの経費は小さなものではないと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。にもかかわらず韓国国防部と同国空軍がブラックイーグルスをワールドツアーに送り出した背景には、韓国の防衛装備品の輸出戦略が存在します。

ブラックイーグルスが長い長いワールドツアーに出た理由

 ブラックイーグルスが使用しているT-50練習機はF-16と高い互換性を備えているため、F-16パイロットの訓練に適しています。

 エジプト空軍は180機以上のF-16を保有しており、かつ老朽化したチェコ製のL-39、L-59を後継する新高等練習機の導入を検討しています。ピラミッド・エアショーへのブラックイーグルスの参加は、エジプト空軍と同国の国民に対するT-50の絶好のアピールの機会であったと言えます。

 また、ポーランド政府は7月27日、T-50から派生した軽戦闘/攻撃機型FA-50の48機導入を決定しています。ブラックイーグルスのポーランド訪問は、それを記念して行われたものだと韓国の聯合ニュースが報じています。

 T-50ならびにFA-50のメーカーであるKAI(Korea Aerospace Industry)は、ロシアのウクライナ侵攻により、中欧を中心とするヨーロッパ諸国で軽戦闘/攻撃機の需要が高まったと分析しています。そうしたなか行われたファンボロー・エアショーでKAIは、NATO(北大西洋条約機甲)とEU(ヨーロッパ連合)加盟国の要求を反映した改良型のFA-50を発表しました。

 どちらも世界有数規模のエアショーであるRIATとファンボロー・エアショーには、各国の空軍関係者が多数来場しており、ブラックイーグルスの参加は、FA-50のプロモーション活動という側面もあったものと見られています。

 最後の訪問地となったフィリピンはどうでしょう。フィリピン空軍はFA-50を導入しています。同空軍にはFA-50の追加調達計画があり、フィリピン訪問はそのプロモーション活動の一環と見られていますが、同時にKAIが主契約社として開発を進めているKF-21「ボラメ」、さらに言えば韓国の防衛装備品輸出の促進という側面もあると筆者は思います。

「KF-21いいんじゃないか」 開発動向を注視するフィリピン

 フィリピン空軍は既存のレーダー・システムとの統合により、250海里以上の空海域を防衛する新戦闘機の導入プロジェクト「MRF」を立ち上げています。

 このMRFではF-16のほか、サーブのJAS39「グリペン」なども候補として名前が上がっていますが、2022年8月の時点では予算化されておらず、実現は2020年代後半にずれ込むとの見方もあります。

 こうしたなか、フィリピンの国営フィリピン通信は8月16日、フィリピン空軍でスポークスパーソンを務めるイナード・マリアーノ大佐が、同国空軍がKF-21の開発状況を注意深く見守っており、KF-21がMRFの候補となる可能性があると述べています。なお、KF-21の韓国空軍への配備は2028年から開始される予定です。

 フィリピン空軍がFA-50を導入する際には、「なぜ実績の乏しい韓国機を購入するのだ?」という批判もあったようですが、マリアーノ大佐は2017年に発生したイスラム原理主義勢力との戦いにおけるFA-50の働きぶりを例に挙げて、FA-50導入の選択は正しかったと述べています。

 なお、KF-21は共同開発国であるインドネシアでの国産化が決まっていますが、今のところ輸出の具体的な話はありません。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月19日の演説で、世界第4位の防衛装備品輸出国となることを目指すと述べています。FA-50の働きぶりを高く評価し、かつ韓国が得意とする手ごろな価格の防衛装備品の需要が大きいフィリピンとの関係強化は、KF-21だけでなく韓国の防衛装備品全体の輸出を促進する上で重要であり、それ故にブラックイーグルスはエジプトから直接帰国せず、フィリピンに立ち寄ったものと考えられます。