韓国初の空母導入計画、それが具体化する前に、国産戦闘機の艦載機モデルとして開発されたKF-21Nが公開されました。肝心の空母はどうなるのでしょうか。艦載機の先行公開から、政権の立場が浮き彫りになってきます。

空母決まらず艦載機KF-21Nを先に発表

 韓国の航空機メーカーKAI(Korea Aerospace Indutries)が、2022年9月21日から25日まで同国で開催された防衛総合イベント「DX Korea 2022」で、KF-21「ポラメ」の空母艦載機型KF-21Nのコンセプトモデルを発表しました。

 KF-21は現在韓国空軍が運用しているF-4E戦闘機とF-5E/F戦闘機の後継機として開発が進められている国産戦闘機です。9月23日付の乗りものニュースに掲載された布留川司氏の記事「あれ、空母は…?韓国最新戦闘機の空母搭載モデル「KF-21N」全容明らかに 現地でメーカーを直撃」によれば、KAIの担当者は以前からKF-21Nの研究を行っていたと述べていますが、このタイミングでのコンセプトモデルの発表は、韓国の空母導入計画をめぐる政治的な駆け引きの一幕なのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 韓国国防部は2019年7月に発表した韓国軍の戦力導入計画「長期戦略所要」で軽空母の建造計画を初めて盛り込んでいます。この時点では軽空母の導入時期を2026年以降としていましたが、当時の文在寅政権はこの計画に修正を加え、同年8月14日に発表した「2020-2024年国防中期計画」にて、F-35Bを搭載できる排水量約4万トンの強襲揚陸艦「大型輸送艦-II」の導入計画を盛り込みました。

 その後、この計画は2021年2月に再度修正され、純粋な軽空母「CVX」の導入計画へと変貌しています。しかし、韓国海軍の軽空母導入計画には、その必要性を疑問視する声も少なからず存在していました。

このため2022年5月に誕生した尹錫悦政権は、2023年度国防予案からCVX計画を除外しています。

 リベラル政権と見なされていた文在寅政権が軽空母計画を推進し、保守政権と見なされている尹錫悦政権が軽空母計画を見直すのは、日本人にとっては理解が困難かもしれません。しかし、韓国のリベラル政権は保守政権よりも、アメリカへの依存度を下げる自主国防路線に基づいた防衛力の強化を進める傾向があり、文在寅政権が自主国防路線に基づく軽空母の建造計画を推進していたのは、不思議なことではありません。

「むしろもっとでっかいのを!」の声

 韓国では前に述べたKF-21の導入計画に加えて、UAS(無人航空機システム)やUGV(無人車両)、AI(人口知能)を使用する意志決定システムなどを取り入れた陸軍の新戦闘システム「アーミータイガー4.0」、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)の運用機能を持つとも言われる海軍の島山安昌浩級潜水艦など、多額を要する防衛装備の更新計画が多数存在しています。

 筆者はこれらに比べれば優先順位の低いCVX計画の見直しは合理的な判断だと思いますが、この見直しに対しては、文在寅政権の決定を蔑ろにしたことに対するリベラル側からの批判に加えて、尹錫悦政権の支持基盤である保守派や軍関係者などからも批判の声が上がっています。

 尹錫悦政権による2023年度国防予算からのCVX計画の排除が明らかになり、それに対する批判の声が大きくなった2022年の夏以降、韓国ではにわかにCVXよりも大型の空母と、その艦載戦闘機としてKF-21の空母艦載機型の導入が取りざたされるようになりました。

 KF-21NとCVXよりも大型の空母が導入されれば、韓国の防衛産業、とりわけKAIの利益は大きくなるはずで、防衛産業にとってはこの計画を否定する理由はないと考えられます。

 筆者が知遇を得ている韓国人ジャーナリストは、あくまでも自分の推測だと断った上で、次のように話しました。

「KF-21Nが開発されることになったとしても、その作業が本格化するのは、早くても空対空戦闘能力を備えたKF-21の第一次生産分の開発が完了する2026年以降になる。尹錫悦政権の任期は2027年5月までの予定だが、KF-21Nの実現可能性の検討を進めている間に同政権の任期は終了する可能性が高い」

このことから、KF-21Nと同機を運用する大型空母の導入計画は、「CVX計画の後退に対する批判をかわし、かつ任期中に空母導入計画の意志決定をしないという尹錫悦政権の思惑によるものなのではないか」と述べています。

 この推測が正しいのかを判断するだけの材料を筆者は持ち合わせていませんが、韓国海軍の空母導入計画は韓国国内の様々な勢力の思惑が絡み合う、複雑なものであることは確かだと思います。