20年ぶりに海上自衛隊が主催した国際観艦式。その翌日には、日本に集まった外国艦艇も参加して大規模な多国間共同訓練が実施されました。中心を担ったのは海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」。同艦がどのように使われたのかレポートします。

シナリオは「超大型台風が直撃、関東で大規模停電が発生」

 2022年11月6日(日)に相模湾沖で海上自衛隊の観艦式が開催されました。今年は海上自衛隊創設70周年であるため、12か国18隻の外国艦艇が参加した「国際観艦式」として挙行されています。

 しかし今回、海上自衛隊が国際観艦式を行った目的は、華やかな海上パレードの披露だけではありません。翌7日(月)には、観艦式に参加した艦艇群による大規模な多国間共同訓練も実施されています。こちらには、海上自衛隊から護衛艦12隻以外に、前日の観艦式へ参加した外国艦艇からも10か国12隻が参加したほか、P-1哨戒機やUS-2救難飛行艇、各種ヘリコプターらも加わって、前日の式典的な趣とは一変した、実践的な大規模訓練を行っていました。

 訓練の内容は海上における要救助者の探索救難で、これを海上自衛隊と外国艦艇が共同で実施することで、探索救難の技量向上と参加各国との連携と信頼関係を構築しようというものです。

 近年、大規模災害による支援活動は世界各国の軍隊にとって重要な任務となっています。日本でも台風や大雨、地震などの大規模災害は現実的な脅威となっていることから、今回の訓練もそういった過去の事例を参考にしたリアルな状況設定の下、行われており、各国の役割分担や連携は非常に具体的なものとなっていました。

 訓練全体のシナリオは大型台風が関東に上陸するなか、伊豆大島の周辺海域にいた4隻の民間船舶が被災し、遭難信号を発していると想定。これに対し、災害派遣が要請された各国艦艇が海上自衛隊を中心に任務部隊(タスクフォース)を編成して捜索救難活動を実施するという内容です。さらに、台風の影響によって関東は大規模な停電が発生しており医療機関は復旧中のため、参加艦艇の1艦である掃海母艦「ぶんご」が海上医療拠点として洋上医療活動に従事するというものでした。

陸地の病院ではなく海上の医療拠点で応急処置

 訓練ではまず、被災船舶を演じる4隻が、バラバラの場所に移動していきます。それぞれ15平方マイルの海域が指定されており、その中から被災した船を捜索することから始まりました。それに対して、海上自衛隊のP-1哨戒機が空から捜索、被災船舶を発見すると随時、護衛艦や外国艦艇が連携して接近していきます。

 そして、被災船舶から遭難者を救助すると、艦艇とヘリコプターでリレーする形で海上医療拠点に指定された「ぶんご」まで輸送。艦内では遭難者の負傷状況を確認するとともに選別(トリアージ)が実施され、負傷具合に応じて艦内での医療行為とそこから航空機を使っての陸上への後送を行っていました。

 訓練初期の負傷者はダミー人形が使われていましたが、ヘリコプターが「ぶんご」に着艦すると、ここで負傷者役は海上自衛隊員へと代わります。4名はそれぞれ異なる負傷状態にあり、顔や手足に血糊でメイクまでされ、軽傷から重傷まで迫真の演技を見せていました。

 負傷者はまず、船体中央にある貨物用エレベーターで艦内へと下ろされ、倉庫エリアでトリアージが実施されます。軽傷者は士官室を転用した仮設の医療室で処置が施されましたが、重傷者については手術室のような処置準備室や、潜水病の治療のための減圧室なども活用され、応急処置が施されました。

 減圧室とは本来、機雷や海中の不発弾を処置する水中処分員が潜水病になったときに使われる部屋ですが、今回は民間人の治療室として、訓練では中に負傷者を入れて実際に動作まで行われていました。

「ぶんご」は本来、掃海母艦として、掃海任務時(逆の機雷敷設任務も可能)に他艦艇や航空機の指揮を執るほか、燃料や物資、真水などを補給したり、任務中に負傷した掃海艇の乗員や潜水員の治療などを行ったりするのが主な任務です。そのため、艦内には物資集積用の倉庫があるほか、医療設備も充実しており、それが今回の共同訓練で海上医療拠点に指定された理由と考えられます。

「母艦」としての機能を持つからこそ

 訓練の最後は治療を終えた負傷者をUS-2救難機に移動させ、陸上の医療施設へ移送させるというものでした。艦内で治療を終えた負傷者は担架に乗せられて船体後部の飛行甲板へと移動。ここでエレベーターから艦尾にあるウェル・デッキ(開閉して水面に直接ボートなどを出し入れできる艦内設備)に下ろされて、そこからボートに乗せられました。

 ちなみに、このエレベーターもウェル・デッキも、本来は大きな掃海器具を運用するための設備です。その後、2機のUS-2救難飛行艇が「ぶんご」上空に飛来。訓練では着水して患者を海上で回収する予定でしたが、悪天候で波が高いため、模擬着水(海面を低空低速で通過)を行って訓練は終了しました。

 本訓練は現実的なシナリオに則った有意義な訓練でしたが、それ意外にも複数の国々が参加することで国際間の交流を深められたことも大きいといえます。また、医療拠点となった「ぶんご」には各国の艦艇から医療関係者がオブザーバーとして派遣されていたことから、トリアージや医療行為などを至近距離で見学し、訓練後には海上自衛隊の隊員も交えて意見交換会を実施していました。

 日本だけ、もしくは限られた国だけで行うと、出てくる意見などがどうしても偏りがちです。せっかく国際観艦式に参加すべく10か国以上の国々が日本に集ったのですから、そのタイミングを活かすという意味でも、多国間訓練は意義があったといえるでしょう。海上自衛隊にとっても、ここで各国から聞くことができた現場レベルでの批評や提案は、大きな資産になるのではないでしょうか。