約20年前から欧米を中心に世界中で使われるようになった軽量スポーツ機「LSA」。実績を積み重ねてきたことで、定員や積載量が緩和される見込みです。ただ、日本は相変わらず井の中の蛙とか。ますます世界から取り残されそうです。

LSAで人員&物資輸送も可能になりそう

 海外では「軽量スポーツ航空機」、通称「LSA」と呼ばれる新カテゴリーの航空機と、それを操縦する新しいパイロット免許制度が導入されてから、早くも20年が経とうとしています。この制度は小型機市場の活性化を目的に、機体規模を小型軽量に限定。これにより、型式の認証や操縦資格の取得に必要な要件を見直すことで新型機の導入を促し、同時にパイロットや整備士などの航空従事者も増やしていくことを目的にしたものです。

 こうした新制度の普及により、日本以外の国々ではLSAの普及が進み、LSAの開発や生産に参入する新たな企業も増えつつあります。未来のエアラインパイロットを養成する飛行学校でも競ってLSAを練習機として採用する動きが顕著になっています。

 諸外国では、LSAの普及が着実に進むようになって10年あまり経ちますが、その間にLSAは安全性の面でも実績を積み上げてきました。そのため、制度としてのLSAが高く評価されていることは各国共通の認識です。こうした状況を背景に、LSA制度の適用範囲を拡大することが数年前から議論されてきました。

 具体的には、「2名に制限されてきた定員を4名まで可能にする」「機体の総重量にかかわる制限を現行の600kgから倍増する」「最大速度や機体の仕様についても条件を見直す」などです。この流れを見ると、いよいよLSAは第2段階へ進むことになったといえるでしょう。

 FAA(アメリカ連邦航空局)ではこれを「MOSAIC」(モザイク)と呼んでいます。

 この正式名称は「Modernization of Special Airworthiness Certificate」、日本語に訳すと「特定耐空証明制度の近代化」となります。この英文の頭文字をとって「モザイク」と呼称しているのですが、日本より遥かに進んだ航空行政を実践しているアメリカですら、さらなる「近代化」が必要であると認識していることに注目すべきです。

「セスナ」など小型機駆逐する勢いのLSA

 MOSAICの実現に向けてFAA、ASTM(工業規格標準化機関)、EASA(欧州航空安全機関)、ANAC(ブラジル国家民間航空局)などの組織間ですり合わせが行われてきました。そのMOSAICの大枠が昨年(2022年)FAAから発表されることが、各国の航空関係者の間で期待されていましたが、その発表は遅れています。

 そうしたなか、ブラジルのANACが先陣を切る形で昨年7月22日、“ブラジル版MOSAIC”の概要を発表しました。その中身は、最大4座席、機体重量1361kg(3000ポンド)以下、最大速度185ノット(約343km/h)などです。これらの数字を適用すると4人乗りの小型機ほぼすべての機種がLSAの範疇に収まることになります。

 このブラジルの発表に素早く反応したのがヨーロッパとオーストラリアのLSAメーカーで、早速、規則の改訂を織り込んだ新型機を市場に投入しています。なお業界では、FAAが近々発表するMOSAICの中身も、ブラジルANAC発表のものと大差ない内容になると考えられており、新規則を織り込んだ仕様のLSAがいくつも登場しています。

 航空関係の新しい基準や規則はいつもアメリカから発表され、世界がそれに追従するというのがこれまでの通例でしたが、今回は新しいLSAの規格がブラジルから世界に先駆けて発表されました。

 これは航空史に残る快挙といえるでしょう。エアバス、ボーイングに続く世界第3位の航空機メーカー、エンブラエルを育んだ航空大国ブラジルの自信と底力を象徴する出来事であると筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は捉えています。

日本よ、ブラジルを見習え!

 そのブラジルと対照的なのが我が国の“惨状”です。臆病になるあまり、LSAという世界の新しい潮流に乗り遅れたうえに、国産旅客機の開発にも失敗してしまいました。

 LSAを活用して航空機産業の底上げ、航空従事者の育成が進む各国に対してLSAの活用を事実上放棄している日本は、世界からどんどん取り残されつつあります。

 日本においては、昨年(2022年)末に航空法の一部が改訂され、厳しい制約のもとではあるもののLSAの飛行が認められるようになりましたが、とてもLSAが普及する環境ではありません。諸外国のように新たな免許制度の導入もないため、この日本だけがLSAの恩恵を享受できない状態なのです。これはたいへん不幸な状況だと言わざるを得ません。

 日本は、旅客機生産への再参入を目指すのであれば、ブラジルの姿勢を見習うべきでしょう。将来の航空従事者確保という、避けることができない課題に向き合うためにも、LSA制度を全面的に受け入れていくこと以外、我が国に残された選択肢はないと筆者は断言します。