M1エイブラムス戦車を半分のサイズにした戦闘車「ロボティック・カウンター・アーマー」のイメージが公開されました。無人だからこそ実現できるものですが、今後の展開はウクライナ戦争の行方に左右されそうです。

重量・全長ともM1A2の半分!

 ウクライナに供与されるM1エイブラムス戦車はアメリカの主力戦車で、世界最強ともいわれます。しかし製造・維持コストも高い高級車で、大きく重くどこでも走れるわけではありません。そこで、このM1を半分のサイズに小さくしながら同等の戦闘力を実現できる戦闘車「ロボティック・カウンター・アーマー/ACT3205」のイメージが、アメリカ陸軍の戦闘車両研究機関「地上車システムセンター」(GVSC)から提案されました。

 M1A2は重さが62tもありますが、この戦闘車は半分以下の27t、全長も約半分です。しかしながら主砲にはM1A2と同じ口径120mm滑腔砲を装備し、射撃統制装置も同じ。外見も寸詰まり小型化した「ミニエイブラムス」といったイメージです。

 小型軽量化できれば機動性は高まり使い勝手も良くなり、燃費や維持コストも下がります。ユニットコストはM1エイブラムスの最新バージョン「M1A2SEPv3」の6分の1になると提示されています。良いことだらけですが、ロボティックとあるように、乗員不要のロボット戦闘車(RCV)にしたからこそ実現できたといえます。

 60tを超えるような重量級の戦車は、陸上の乗りものとしても限界に近いとされます。重くなったのは乗員を護る防御力を高めるため装甲をドンドン厚くしたからです。その重くなった車体を動かすため、エンジンもさらに大型化して重くなるというスパイラルです。

 しかし、車内に人間が乗っていなければこんなに重装甲させる必要はありません。乗員スペースも必要ありません。空では無人機が活躍していますが、パイロットを乗せないので人命リスクを顧みる必要のない柔軟な運用ができます。人間というファクターは、兵器の制約条件であることが分かります。

「有人無人戦闘チーム」って何だ?

 無人化というのは軍用プラットフォームのトレンドになっています。アメリカ陸軍はこれまでの戦車や歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車に代わるような次世代戦闘車(NGCV)を研究、開発。そしてNGCVが目指す戦い方の中には、「有人無人戦闘チーム」という考えがあります。

 これはオペレータの乗った任意人員配置戦闘車(OMFV)が複数のRCVをコントロールする戦闘団で、直接戦闘や捜索偵察など「99%分のリスクをRCVに負わせる」ことで人間の安全性を担保するもの。有人のOMFVを核にして、幾重ものRCVがOMFVを守りながら、見通し範囲外はドローンが上空から偵察して情報を集め、ネットワークで連携しながらRCVが敵と直接戦闘します。

 RCVには任務に応じて、主に偵察用の軽量級(RCV-L)、偵察と戦闘用の中量級(RCV-M)、対戦車戦闘や火力支援を行う重量級(RCV-H)が設定されています。「ミニエイブラムス」はRCV-Hのコンセプトモデルです。

 しかし有人無人戦闘チームには戦車に相当するようなカテゴリーがありません。RCV-Hは戦車のようですが、戦車とは違う使い方が考えられています。主砲は直接射撃だけでなく、大きな仰角が取れ、間接照準の視程越え(B-LOS)射撃も可能な軽量化120mm滑腔砲(XM360)を搭載しています。ドローンやほかのRCVなどとの情報共有で、直接見えない目標を攻撃できます。戦車と自走榴弾砲の両用といったところです。

ロボット戦闘車技術はロシアの方が上?

 有人無人戦闘チームのコンセプトは、人間のリスクを最小化し理想的に見えますが、肝心なRCVの実用化は、同じ無人プラットフォームであるドローンのような無人航空機よりはるかに使用環境が複雑で、技術的ハードルが高いようです。アメリカ陸軍はハードウエア、ソフトウェアの実証を繰り返して、RCVが使い物になるのか2023予算年度中に見極めようとしています。

 ロシアはロボット戦闘車技術においてアメリカより先行しているとされ、シリアに「ウラン9」というロボット戦闘車を持ち込みました。市街戦で人間の代わりに先兵となることが期待されましたが、電波障害や機器不具合のため、結局は兵士が近くで面倒を見てやらねばならず、先兵どころか「お荷物」となり実用化には時期尚早と判断されています。実際、現行で戦闘が続くウクライナに、ロボット戦闘車が投入されている様子はありません。

 ロシア・ウクライナ戦争では当初、ロシア軍戦車が対戦車ミサイルやドローンで損害を受け、戦車はもう時代遅れだという「戦車不要論」が一部で喧伝されました。しかし実際には、戦車は戦場で主導権を握るためには必要で、ウクライナもロシアも戦車の補充に必死です。しかしNGCVには戦車は無く、RCV-Hや移動防護火力(MPF)という軽戦車のような戦闘車が構想されています。このコンセプトは正しいのでしょうか。

 アメリカのRCVは、技術的に実用化できる目途があるのかを今年度中に見極めることになっていますが、仮に目途があるとされても、予算や戦車の必要性が強調されるウクライナの戦訓によっては、コンセプトの見直しを迫られる可能性も否定できません。判断によっては、将来の戦車や戦闘車の進化の潮流が変わるかもしれません。