九州と四国が陸路でつながったなら――その「豊予海峡ルート」構想の実現に向けて、今も取り組みが続けられています。この構想はどのような効果があるのでしょうか。

具体的検討の前段階はクリア?

 九州と四国が陸路でつながったなら――その「豊予海峡ルート」構想の実現に向けて、今も取り組みが続けられています。

 愛媛県から大分県の方向には、細長い「佐田岬半島」が約50km先へ伸び、地図で見るとここだけ両県の陸地が極めて近くなっています。これが豊予海峡で、その離隔はわずか13km程度。津軽海峡が約23km、瀬戸大橋の部分が約9kmであることを考えると、非現実的な距離ではありません。

 そのためここに道路や鉄道を通す計画は、1960年代から幾度となく、国の方針として策定されてきました。1963(昭和38)年には海峡をまたぐように「国道197号」が路線指定。現状はフェリー航路でその機能を代替する「海上国道」となっています。

 近年では、1998年の全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」で打ち出された「太平洋新国土軸構想」で、東海地方〜紀伊半島〜淡路島〜四国〜九州をつないで「新たな東西軸」としようという方針が示され、いまでも個々の道路・鉄道整備計画の根拠となっています。

 さて、一般的に道路や鉄道の整備事業の「GOサイン」とは、国の事業化であると言ってもいいでしょう。正式に予算に組み込んでいくことが確定した瞬間です。

 その事業化の手前が、概略・詳細ルートの決定、都市計画決定と環境アセスメントの手続きです。そこまで行くまでに、まずは「そもそもコストを利益が上回るのか?整備する意味があるのか?」という調査が必要です。

「豊予海峡」においては、6年間にわたる調査が2022年に一段落したばかり。「ひとまず地元でやれることはやった」という状況で、あとは国が本腰になるまで「機運を高めていく」ステージに立っています。

 調査報告書では「豊予海峡ルート」の全体像が描かれ、費用対効果が算出されています。どういった計画になるのでしょうか。

道路に新幹線「豊予海峡ルート」その「全体像」とは

「豊予海峡ルート」の整備方式は「新幹線の場合(単線・複線)」「高速道路の場合(2車線・4車線)」「新幹線+高速」、また構造はそれぞれ「橋梁の場合」「海底トンネルの場合」を想定。工事期間は10年を想定しています。

【新幹線の場合】
 ルートは大分駅〜松山駅。所要時間はフェリー利用の238分からわずか38分に短縮されます。さらに「四国新幹線」が松山〜高松〜徳島、岡山方面へ開業済みと仮定すると、大分〜高松は237分から78分に、大分〜大阪は234分から136分に短縮されます。利用者は1日約1万8000人を見込んでいます。

 整備による便益がコストを上回る試算となるのは「海底トンネル・単線整備」の場合で、整備費は6860億円、費用便益比1.19とされています。

 ちなみに単線の場合、駅間距離が長いこともあって「行き違い設備」も必要になってきます。そのための「中間駅」も検討されていて、大分側では幸崎駅、愛媛側では八幡浜駅・伊予大洲駅などが提案されています。駅の線路構造は、片方が高速通過できる「1線スルー方式」で、2面2線(相対式ホーム)および1面3線(島式ホーム+通過線)とされています。

 トンネルは外径10.8mのコンパクトなシールドトンネルで、線路1本と非常通路を備えます。九州新幹線「さくら」に使用されるN700系8両編成が走ると仮定し、勾配やカーブは最高速度320km/hが可能な設計になっています。

【高速道路の場合】
 ルートは大分宮河内IC(東九州道)〜保内(大洲・八幡浜自動車道)。所要時間はフェリー利用の238分から167分に短縮、大分〜高松は360分→262分、大分〜大阪は486分から388分に短縮されます。料金は普通車1万500円・大型車1万7500円で、利用者は1日約11000人を見込んでいます。

 便益>コストとなるのは「海底トンネル・2車線整備」の場合で、整備費は6900億円、費用便益比1.27と試算されています。

 大分方面から関西・名古屋・東京への貨物移動も「豊予海峡ルート」への転換が見込まれます。その転換量は、トラックでは関門海峡ルートから年間1800万トン、その他交通では飛行機から1000トン、鉄道から4000トン、フェリーから187万トンとのこと。

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 もちろんこれらはざっくりと「事業は赤字にならない」と示すための試算条件で、多くは「絵に描いた餅」にすぎません。今後、構想に対して国が前向きの姿勢を示せば、具体的な検討が進められていくこととなります。

 それを実現すべく、地元は国への要望を続け地元の機運を高めています。取りまとめるのは大分・愛媛・広島・山口・高知・福岡・宮崎の7件および経済団体で組織される「豊予海峡ルート推進協議会」で、2023年度も大分市の1000万円をはじめ、各自治体が関連支出を行う予定となっています。