インド空軍が60年以上も使い続けてきたMiG-21戦闘機の退役が迫っています。あまりの事故率の高さから「空飛ぶ棺桶」などと呼ばれた機体であっても使い続けてきたのは、それなりの理由がありました。

ようやく退役するMiG-21

 インド空軍は2023年10月30日に、第4飛行隊が運用していた旧ソ連製のMiG-21戦闘機を退役させたと発表しました。MiG-21は国産機の「テジャス」への置き換えが進んでおり、今回でインド空軍に残ったMiG-21戦闘機を運用する部隊は2個飛行隊となりました。残る飛行隊の機体も2025年までには退役することが確実となっています。

 MiG-21がインド空軍に初めて引き渡されたのは1963年のことで、既に就役から60年が経過しています。近年はトラブルも相次ぎましたが、それでもインド空軍が使い続けた理由は、特に優秀な機体だったからというわけでもないようです。

 配備当初は優秀な機体でしたが、少なくとも20年前の2000年代に入った頃には、老朽化によりほとんどの国で二線級になっていました。そうしたなかインドは、1990年代にイスラエル、ロシア、フランスなどの手を借りて近代改修を施し、一部の機体をMiG-21「バイソン」としますが、それでも根本的な解決にはなりませんでした。

 インド空軍のMiG-21は計870機ありましたが、インドメディアの報道によると、ここ数十年の間で、約500機が“戦闘以外”のトラブルで失われたそうです。しかも、そのトラブルのほとんどが墜落事故で、殉職者はパイロットと地上勤務の兵を合わせ約200人にも上るとされます。

 そのため、「空飛ぶ棺桶」や「未亡人製造機」などの不名誉なあだ名がインドではつくことになりました。そこまで悪名が広まっていたのにも関わらず、なかなか退役できなかったのには理由があります。

国産機開発の異常の遅れが主原因か?

 まず1980年から始めていた国産軽戦闘機の開発計画が著しく遅れていたことです。「LCA(軽戦闘機:Light Combat Aircraft)」と名付けられたこのプロジェクトは、現在配備が進められている「テジャス」を指すものですが、元々はかなり前のプロジェクトでした。

 プロジェクト開始当初は、アメリカのロッキード・マーチンやゼネラル・エレクトリック(GE)も関わっていましたが、開発費高騰などの課題から、計画は遅々として進みませんでした。さらに、1998年にインドが核開発したことを受け、アメリカが制裁の一環としてロッキード・マーチンとGEを撤退させたため、初飛行に成功したのは2001年にずれこみました。その後も政治や財政の問題で計画は二転三転し、開発開始から約40年後の2021年1月、ようやく作戦機としての能力を有した機体の配備が始まりました。

「テジャス」の開発が難航する間にも、代替機が考えられていなかったわけではなく、2000年代から調達を始めていたロシア製のSu-30MKIが代役を担うはずでした。しかしこれも、インドでライセンス生産できる機体ではありましたが、ロシアからパーツを調達する必要があり配備は進まず。パキスタンや中国など対立関係にある国との国境周辺に配備されはしたものの、MiG-21を全て置き換えることは不可能でした。

 インドとしては、パキスタン空軍と中国人民解放空軍から弱体化されたと見られないためにも、とりあえず数だけは揃えて均衡を保つ必要がありました。これは運用的には賛否が分かれますが、インドでMiG-21のパイロットとして最も有名なアミット・ランジャン・ギリ元空軍中佐も「インド空軍は、パイロットを失い続けるという大きな犠牲を払いながらも、持っているものを活用したことは評価に値する」としており、戦略的に正しかったと考えられています。

 そして、今後の配備計画も狂う可能性がないわけではありません。インド空軍は2030年までに123機「テジャス」を保有し、MiG-21に加え、MiG-29も段階的に退役させる考えを示しています。しかし、最初の「デジャス」が納入されたのが2015年なのに関わらず、2023年までに初期モデルのMK.1が40機納入されたのみで、改良型の開発は国産エンジンの開発が難航していました。

 2023年6月には、日米豪印戦略対話(クワッド)のなかで、主に中国に対するけん制として、GEが「テジャス」向けにF/A-18「スーパー ホーネット」やスウェーデンのサーブ「グリペン」にも供給するエンジン「F414」を提供することが決定しました。これにより「デジャス」はようやく改良型の供給目途が立ちましたが、依然として予断は許されない状態です。