東京の隣り合う2つの交差点で、クルマが歩道へ突っ込む事故が相次ぎ発生。片や歩道の柵をなぎ倒し、片や強固なものに付け替えられた柵をすり抜けて横断歩道からクルマが進入しました。柵は何のためか――ここに国民の誤解が存在します。

横断歩道の柵は、「人が車道に出ない」ため

 東京都渋谷区の交差点で、運転を誤り歩道へと突っ込む交通事故が相次いでいます。2024年2月19日と2023年11月24日の渋谷区内の事故現場は100mも離れていない都道で発生しました。昨年の事故は歩行者4人が巻き添えになっています。
 
 こうした突然の事故に備え、「せめて横断歩道の直前ではなく、柵のある手前で信号待ち」する自衛手段を普段から考えている人もいるかもしれませんが、それは大きな誤解です。交差点に設置された、ほとんどの“柵”は、歩行者を守るために設置されているわけではありません。

 歩道と車道を分離する“柵”には2種類あります。車両の逸脱を防ぐ「車両用防護柵」と歩行者や自転車の逸脱を防ぐ「歩行者自転車柵」です。

 ガードレールに代表される「車両用防護柵」は、高速道路のセンター部分にも使われていて、一定のスピードで走行するクルマの衝突にも倒壊せず、車両をとどめることを想定して設置されます。

 一方、「歩行者自転車柵」は、人や自転車程度の外力を想定し、車重がある四輪車を押し戻す頑丈さはありません。別名「横断抑止柵」とも呼ばれるこの柵は、歩行者が車道を横断するのを防止することが目的です。そこに運転を誤った車両が突っ込んできた場合は、ほとんど無力です。

 人が揺らしたぐらいではびくともしないので、両者の違いを意識する人は少ないですが、問題は、人通りの多い交差点にこの脆弱な「横断抑止柵」が取り付けられていることです。その典型例が、東京都渋谷区の2件の事故現場でした。

 まず、2023年11月24日の渋谷区恵比寿西1でおきた人身事故を振り返ってみます。この事故は80代の男性がJR恵比寿駅方向に向かって緩やかにカーブする都道を直進して交差点を通過するはずが、何らかの理由で曲がり切れず交差点に突っ込み、歩道の20〜50代の男女計4人を負傷させました。運転者は自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕されています。

 乗用車は、歩道と車道を分離する柵をなぎ倒し、勢いが衰えないままビルの私有地境界まで進入。信号待ちの歩行者を巻き込みました。「柵をなぎ倒すほどのスピード」という受け止め方もできますが、もともと歩行者が横断しないための柵なのですから、耐えられるはずがありません。

 東京都道の場合、この横断抑止柵は、緑色のパイプで都のシンボルであるイチョウがあしらわれているので、誰でも見分けることができます。

車両防護柵に取り替えても、横断歩道からクルマが進入

 11月の事故から約3か月たった今、現場は乗用車の下敷きになった横断防止柵が地中の基礎部分からやり直して原状復帰されています。そのうえで「防護柵設置のお知らせ」が掲示され、横断抑止柵を「ガードパイプ」と呼ばれる車両防護柵に取り替える内容が示されています。

 工事終了が5月下旬までと少し長いことを除けば、強度が増して安心……と言いたいところですが、国民が誤解している道路の作り方の問題点は、もう一つあります。

 交差点の柵が車両防護柵に変わっても、まったく安心できない。そんな事故例となったのが、渋谷区猿楽町の代官山交番前交差点で今年2月19日に起きた事故です。昨年11月の事故現場からわずか100m、坂を上った場所がこの事故の現場です。

 50代の男性が運転する乗用車が、これも緩やかなカーブを曲がり切れず直進し、歩道からビルに突入。地下にある飲食店の階段の壁にぶつかって止まりました。助手席の同乗者が負傷をしましたが、信号待ちをする歩行者に被害はありませんでした。

 道路管理者である東京都建設局の建設事務所によると、この場所では歩道橋の鉄橋にあわせて強度のある車両防護柵に取り替えて、横断抑止柵を撤去しました。ところが、2月19日に起きた事故では、歩行者が使う横断歩道部分から乗用車が進入し、防護柵は役に立たちませんでした。過去に起きた事故については知らなかったので、対策はとれなかったと話しています。

 せっかく車両の進入を防ぐ防護柵を設置しても、横断歩道までふさいでしまうことはできません。スタンダードな横断歩道の幅は約4m。乗用車の幅は約1.7m。意図しなくても通り抜けることが可能で、実際そうした事故が起きているのです。事故が起きた場所を把握することはできないものでしょうか。

 では、どうすればいいのか。実は、事故が起きても、歩行者を最大限守るための道路設計に変わらないことが最大の問題なのです。

 事故は起こした人が悪いのであって、運転を誤らなければ事故は起きない。それは当然のことなのですが、交差点の柵は、歩行者が車道に出ないため。車両は歩道に侵入しないという旧来の考え方が変わらないと、この2か所のように柵の交換で終わってしまいます。

 2つの事故現場となった交差点は、いずれも道路が90度で交わる十字路ではなく、Y字路的な変則交差点でした。

 いつも通る道路の“柵”の違いを知れば、道路を管理する自治体が、道をどう考えているかがわかるかもしれません。