ロシア・ウクライナ戦争では、制式兵器には到底見えない魔改造兵器が多数投入されています。なかでもそれらのベースとなっているMT-LB装甲車は60年前のソ連製。改造が前提の設計で機動性や防御力もあるため、今なお重宝されるようです。

MT-LBの主任務は牽引すること

 ロシア・ウクライナ戦争の様相は多くの投稿画像で見ることができます。戦場のリアルを見せつけられ、どんな兵器が使われているのかも分かります。中には、とても制式兵器に見えないような魔改造兵器もあります。

 例えばとにかく使えそうな火器類を、現場で装甲車にポン付けしたものなどです。戦場では自分で動ける兵器というのが使い勝手が良くてありがたいのです。いくら強力でも、携行するのに重くて嵩張る兵器は歓迎されません。

 意表を突くような魔改造装甲車には目を惹かれますが、ベースになっている車体がほとんど同じことに気付くでしょう。それは平たい車体が特徴のMT-LBという装甲車です。

 MT-LBとは、ロシア語で「汎用軽装甲牽引車」の頭文字をつないだもの。その名の通り元々は野砲をけん引するトラクターとして開発されました。1964(昭和39)年に当時のソ連軍に採用されて以来5万5000両以上が生産され、現在でも20か国以上で使われている隠れたベストセラーです。

 そのセールスポイントは汎用性と多目的性で、軽便かつ頑丈なうえ、全地形対応能力や浮航能力も備えるため、意外と使えるのです。そもそも改造されることが前提の設計になっており、汎用の名のとおり車体を流用した各種の派生型が数え切れないほど開発されています。民間用でも全地形対応輸送車や森林火災用消防車などに使われています。

 しかしMT-LBの主任務は牽引車(トラクター)であり、装甲兵員輸送車(APC)や歩兵戦闘車(IFV)と形はよく似ていますが、戦闘にはあまり向いていません。装甲や武装、機動力はAPCやIFVに劣ります。しかしそれは戦闘力が劣るということを意味しません。6500kgまでの火砲または車両を牽引できるほか、車内後部区画には11名の兵員もしくは2000kgまでの貨物を積載できるからです。

対空砲に迫撃砲、榴弾砲搭載型、果てには救急車まで

 このキャパシティに加え、キャタピラを備えた装軌式のため機動力に優れること、軽装甲でも防御力があること、構造が簡単で扱いやすいことが特徴で、MT-LBは現場では何でも載せられるプラットフォームとして重宝されています。

 ロシア・ウクライナ戦争でもMT-LBは両軍で使われています。投入数は不明ですが、オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)サイト「Oryx」で損失数が分かります。

 これによると、ロシア軍でMT-LBが698両、MT-LBVMが201両、ZSU-23搭載型が41両、14.5mmBPU-1砲塔搭載型が2両、2M-7海軍用機関砲搭載型が1両、AZPS-60対空砲が1両、100mmMT-12対戦車砲搭載型が3両、82mm自動迫撃砲搭載型が2両、25mm2M-3海軍砲搭載型が1両、MT-LBuが14両失われています。

 ウクライナ軍ではMT-LBが65両、ZSU-23搭載型が12両、MT-LB-ATが1両、14.5mmBPU-1砲塔搭載型が1両、85mmD-44榴弾砲搭載型が1両、MT-LBuが6両、MT-LB-s救急車が23両失われています。かなりの数のMT-LBのバリエーションが戦場に投入されていることが損失数から推測できます。

 どの国の軍でも高価・高性能なハイエンドの装備だけをそろえるのは予算的にも難しいのが現実です。そこで比較的安価でもそれなりの性能のミドルおよびローエンドの装備と組み合わせる、いわゆるハイローミックスの考え方で装備を整えるのが一般的です。スペック面では当然、ローエンドはハイエンドに劣りますが、それは単純に弱いということを意味しません。MT-LBの数えきれないバリエーション自体が軍全体の戦闘力を向上させ、優れたコスパを実現しています。

 ただ、長期化する消耗戦の様相のなかで、戦力としてどこまで有効かは分かりません。ハイエンド兵器が払底しつつあるなかで、魔改造兵器はハイローミックスにもなっていない長期消耗戦の成れの果てにも見えます。しかし、古くて地味で非力でも多目的に使えるMT-LBが、現場では頼りにされていることは事実のようです。