北陸も九州も北海道も、最高速度は50歳の東海道新幹線より遅い260km/h。そこにはある合理的な理由がうかがえます。またそんな「260km/hの壁」を破る動きも始まりました。

50歳の東海道より遅い北陸

 2014年9月13日(土)、長野〜金沢間の開業を来春に控えた北陸新幹線で、JR西日本の新型車両W7系が初めて、同新幹線の営業最高速度である260km/hで走行試験を実施しました。

 現在、各新幹線の最高速度は東北が320km/h、山陽が300km/h、東海道が270km/hなどとなっています。今年10月で開業50周年を迎える東海道新幹線より遅い、最新の北陸新幹線。普通に考えれば妙な話です。しかも東海道は北陸が開業する来春、最高速度を285km/hにアップします。

 2011年に全線開業した九州新幹線、東北新幹線のうち2002年以降に開業した盛岡〜新青森間も、最高速度は260km/hです。なぜ新しく造られた新幹線が、50歳の東海道新幹線より遅いのでしょうか。

 北陸新幹線、九州新幹線(鹿児島ルート&長崎ルート)、北海道新幹線、東北新幹線の盛岡〜新青森間は「整備新幹線」と呼ばれ、それら路線は「全国新幹線鉄道整備法(全幹法)」という法律に則り、建設費を抑制するため最高速度260km/hで設計されています。

 そのため「なぜ最高速度が260km/hなのか」の答えとして「整備新幹線は『全幹法』、建設費抑制のためそう設計されているから」というのが、ひとつの解答です。

 しかしだからといって、それ以上の高速化が技術的に不可能なわけではありません。東海道新幹線では開業後50年を迎えても、さらにスピードアップします。にもかかわらず、どうして整備新幹線は260km/hのままなのでしょうか。

最高260km/hに留まる本質的な理由

 技術的に不可能ではなくとも、整備新幹線の最高速度を260km/hから引き上げるには次のような問題があります。

・260km/h対応で設計されている現在の線路設備、また騒音や振動などの対策を、より速いスピードでも十分なものに改良する必要がある。
・スピードアップに伴って線路設備や車両の消耗、ダメージが大きくなるため、メンテナンス費用が増える。
・整備新幹線の線路は独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)」が所有し、それをJRが借用している形。そのためJR独自の判断でスピードアップはできない(最高速度が260km/hより上の東海道、山陽、上越、東北(東京〜盛岡)は各JRが所有)。
・スピードアップによって、JRが鉄道・運輸機構に支払う線路のリース料が増大する可能性がある、など。

 これら諸問題をクリアし高速化したとしても、そのコストで料金が高騰、乗客が減少するなどして収益の悪化を招いては意味がありません。またそうしなくとも航空機などライバルに対し所要時間、料金といった面で「商品」として価値がある状況ならば、乗客にとっても運行するJRにとってもそれで十分、バランスがとれているという見方ができます。

 つまり、なぜ北陸新幹線など整備新幹線の最高速度が50歳の東海道より遅い260km/hであるのか。スピードアップしないのか。その本質的理由は、コストやライバルなど様々な要素を勘案した上で、その速度でも「商品」として十分な競争力、価値を持っているから、スピードアップの必要性が乏しいからなのです。

 北陸新幹線は最高速度260km/hで、東京〜金沢間が最短2時間28分で結ばれます。対し航空機は羽田〜小松間が1時間。それに空港までのアクセスや搭乗手続き等に要する時間、手間を考えると、新幹線は現状の260km/hで十分な競争力があると思われます。

 また上越新幹線の最高速度は現在240km/hですが、設備的にはより速く走ることも可能で、かつては最高速度275km/hという当時の日本で最も速い列車が走っていました。しかし現在240km/hに留まるのは、それで十分だからと考えられます。

「260km/hの壁」を破る動きも

 ただ整備新幹線の最高速度が、「260km/hの壁」を打ち破る可能性も見え始めています。

 北海道新幹線が札幌まで開業すると、東京〜札幌間の所要時間は5時間1分と試算されています(東北新幹線の東京〜盛岡間は最高320km/h、整備新幹線である東北新幹線の盛岡〜新青森間と北海道新幹線の新青森〜札幌間は最高260km/h、在来線と共用になる青函トンネル区間は最高140km/h)。

 同様に現在およそ5時間を要している東京〜福岡間について、その旅客輸送に占める新幹線のシェアは、JR西日本のデータによると8.2%しかありません(2012年度)。

 福岡は空港の立地が便利で航空機の優位性が高いなどの要素もありますが、東京〜札幌間の輸送で新幹線に十分な競争力を持たせるならば、所要時間を試算の5時間1分より短くすることが必要です。約4時間を要する東京〜広島間は新幹線のシェアが56.5%、約4時間半を要する東京〜山口間は41.3%(2012年度)あるため、もし30分でも短縮できれば新幹線の商品価値、競争力は飛躍的に高まることになります。

 つまり東北新幹線と北海道新幹線については、「商品」として高速化すべき理由があるのです。実際にJR東日本は2014年、最高速度260km/hの整備新幹線区間である東北新幹線の盛岡以北において、320km/hでの走行試験を実施。騒音などのデータを収集するといった、将来のスピードアップを見据えた動きを始めています。