西鉄など老舗のバス事業者が築いた九州の昼行高速バス路線に、ある新興事業者が真っ向から競合する形で新規参入しました。成功例が少ない昼行路線への後発参入、既存路線の乗客に振り向いてもらうには、何が必要なのでしょうか。

既存事業者には勝てない? 昼行路線の新規参入

 貸切バス事業を中心とするユタカ交通(大阪府池田市)が2019年7月20日(土)、高速バス福岡〜長崎線と福岡〜佐世保線の運行を開始しました。どちらの区間も、九州最大のバス事業者である西鉄をはじめ、老舗事業者による既存路線があるなかでの新規参入です。「高速バス王国」とも呼ばれる九州において、新旧両陣営の戦いが始まりました。

 新興事業者による高速バスへの参入は、これまで東京〜大阪間などの長距離路線が中心でした。1990年代設立のユタカ交通も、2012(平成24)年に大阪〜東京線へ参入し、大阪〜長崎線など長距離夜行路線を中心に事業を拡大しましたが、今回、短・中距離の昼行路線へ参入します。全国で毎日およそ1万5000便が運行される高速バスの約9割が昼行便であり、このような短・中距離の昼行路線は収益性も夜行便より高く、高速バス事業の柱といえるものですが、本格的な後発参入は全国的にも少なく、成功事例はほとんどありません。

 その理由はひとつには、便数の問題があります。30分間隔など高頻度に運行し、地元に定着している既存路線に対し、少ない便数で後発参入しても利便性で勝てず、後発参入はなかなか成功しません。過去には、貸切バス事業者が高速バス初参入で仙台〜福島線に挑戦し、既存路線に歯が立たず結果的に経営破綻に追い込まれた例さえあります。

 また、利用者が総合予約サイトなどで比較しながら予約することが定着している夜行路線と異なり、昼行路線はリピーターによる習慣的な利用が中心です。以前なら「地元事業者の予約センターの電話番号を記憶」、いまでは「地元事業者の公式予約サイトをブックマーク」といった具合です。そのため、後発参入してもなかなか認識してもらえないのです。

 今回、ユタカ交通が新規参入する福岡〜長崎線は九州急行バスが、福岡〜佐世保線は西鉄と西肥バスが運行に長い歴史を持ち、20分から30分間隔で頻発する典型的な昼行路線です。それに対しユタカ交通は、各8往復(おおむね1時間間隔)と、一定の競争力がある便数を最初から投入してきました。むろん、運賃は既存路線より安めです。ユタカ交通は「主に価格で先行路線との差異化を図り、切磋琢磨しながら両区間の交流人口拡大に寄与したい」としています。

成功には何が必要?

 迎え撃つ既存事業者としては、単なる値下げで対抗するのは得ではないと筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は考えます。きちんと収益を確保し、それを車両更新やサービス向上に回し続けるサイクルが止まれば、路線は衰退に向かってしまうからです。既存事業者の強みは、強固な顧客基盤と地元からの信頼、そして何より高頻度運行の利便性ではないでしょうか。

 その利便性をさらに追及するため、発車時刻直前までウェブ上で乗車便を変更できるようにすることや、繁忙日において着実に続行便を設定し「満席で乗車お断り」をなくす努力が求められるでしょう。高速バスの営業面の規制は以前に比べ柔軟になっており、座席管理システムも機能が充実していることから、上手に使いこなせば乗客のニーズにもっと応えられるはずです。他地方に比べ九州で遅れている、パーク&ライド駐車場(自家用車とバスを乗り換えるための駐車場)のさらなる充実も必要でしょう。

 ユタカ交通側にも、大きな課題があります。座席管理システムが、昼行路線に多い当日のフリー乗車(飛び乗り)や直前の便変更に対応していないという利便性の問題もありますが、何よりも、習慣的に既存路線を利用している乗客に、後発である同社の路線を「もうひとつの選択肢」として知ってもらうため、地元での積極的な情報発信が必要です。

 その情報発信の成功例として、海部観光(徳島県美波町)の徳島〜大阪線が挙げられます。同社は東京線用として運行している全12席の超豪華車両「マイ・フローラ」が、新聞やテレビで何度も紹介され有名になりました。その裏側で、着実に大阪線の増便を重ね、地元新聞に広告を毎週掲載し、パーク&ライド駐車場も整備しました。「徳島の先頭を走りたい」というタグライン(企業スローガン)も、地元重視の姿勢を表していて徳島県民の心に響きます。同路線は新興事業者が昼行路線へ新規参入し成功した数少ない例であり、2019年7月現在で13往復にまで成長しています。

 大阪に本社を置くユタカ交通ですが、社長(創業者)は佐世保出身とのこと。長崎県の企業になったつもりで、地元密着の営業活動を行えるかどうかに成功がかかっています。このような昼行路線には、就職活動の学生、単身赴任者や介護のための帰省客など、毎週のように利用する乗客が多くいます。利用頻度が高いぶん、運賃(価格)を重視し、周囲の口コミ情報にも敏感です。まずは、新聞やラジオを活用し、コアなリピーターに「知ってもらう」ことが重要です。

相次ぐ昼行路線の新規参入、いまは追い風?

 2019年7月はユタカ交通以外にも、高松空港〜四国中央線(西讃観光バス)、東京〜南相馬線(東北アクセス)と、貸切バスが中心だった新興事業者による昼行路線への参入が相次ぎました。背景のひとつは、国内客、訪日客ともに団体ツアーから個人旅行へシフトが進み、貸切バス市場が縮小していることです。こうした事業者が、体力に余裕のあるうちに新規事業へ挑戦しているというわけです。

 もうひとつ、これら事業者が都心や空港で停留所を確保できた点も、路線開設の背景にあります。高松空港をはじめ民営化された空港はバス路線誘致に積極的ですし、福岡では2018年12月、博多駅の近くでUR(独立行政法人 都市再生機構)による再開発の一環として「HEARTSバスステーション博多」が開業しており、ユタカ交通の新路線もここに乗り入れます。

 2013(平成25)年、新興事業者がおもな事業形態としていた高速ツアーバス(募集型企画旅行という形態を採りながら、実質的には都市間移動サービスを提供するもの)から、高速乗合バスに制度移行した際、新興事業者が福岡に確保できた停留所は期間限定の暫定停留所でした。暫定期間終了後の救済策を目的のひとつとして、「HEARTSバスステーション博多」が作られました。

 他都市では、既存のバス事業者が、新興事業者をあえて既存のバスターミナルに乗り入れさせるなど停留所確保に協力しつつ、発着枠や路線展開の住み分けを図り、結果として新興事業者の将来における路線拡大を縛った例が多くあります。逆に福岡では、新興事業者は当面の我慢を強いられたものの、あとになって駅前に立派なターミナルを得るという、予想外の出来事が起きました。

 3年後の2022年には、九州新幹線長崎ルートの暫定開業(武雄温泉〜長崎)が予定されています。福岡〜長崎間は直通の特急が廃止され、鉄道では乗り換えが必要となりますから、高速バスにとっては逆に成長のチャンスだといえます。新旧両陣営が健全に競合しながら、地元リピーターや観光客のニーズに応え、お互いに成長することが期待されます。