深夜の高尾駅。中央線の快速電車で寝過ごした人を八王子駅まで送り戻す「寝過ごし救済バス」を、西東京バスが臨時に運行しました。バスの乗客はどのような様子なのか、実際に乗って観察しました。

終電後、高尾駅から八王子駅まで送り戻す臨時バス

「上り方面の列車はすべて終了しました」

 2019年12月13日(金)の深夜(14日未明)0時半を過ぎた高尾駅(東京都八王子市)では、無情にもこんなアナウンスが流れていました。

 高尾駅は、東京駅から来る中央線快速の終着駅。飲み会を大いにエンジョイし、寝過ごしてしまった人たちが漂着する場所ともいえます。「回送」の方向幕を表示した列車から、駅係員に起こされた人たちがよろよろと降りていきます。車内捜索で見つかった忘れ物でしょうか、サンタクロースのイラストが描かれた包みを駅係員が携えていました。乗り過ごした人たちは高尾駅から電車で戻ることはできません。日中であれば明るい駅前の通りも真っ暗です。

 と、ここまで悲壮感あふれる導入でしたが、ご安心を。ここで希望のアナウンスが流れます。

「本日に限りまして、JR八王子駅北口行きの臨時バスがございます」

 この臨時バスは「寝過ごし救済バス」といい、忘年会シーズンの金曜深夜に西東京バスが運行しているもの。2014年に始まり、今年で6年目の運行です。中央特快の最終電車に接続し、意図せずして高尾駅に来てしまった人たちを、宿泊施設や朝まで過ごせる店舗のある八王子駅まで運ぶことがその使命。通常の路線バスの「深夜バス」という扱いで、西東京バスでは他路線でも、こうした深夜の増発を行っています。

座席は埋まり、立ち客もいる「寝過ごし救済バス」

 乗り場に向かうと、深夜バスを表す緑色で縁取られたなかに「深夜バス JR八王子駅」の方向幕を掲げた1台のバスが止まっていました。発車時刻の午前1時5分が近付いてきたので、筆者(蜂谷あす美:旅の文筆家)も乗車します。

 座席の定員が27人で、立ち客も含めると70人以上が乗車できる車内には、まばらにしか乗客はおらず、寝過ごし客は「意外に少ないのかな?」と思ったのですが、定刻を過ぎても発車する気配はありません。実はこの日、中央線ではダイヤ乱れが発生。「寝過ごし救済バス」は列車と連携しているため、最後の利用客が乗り込むまで、発車を待ちます。高尾駅に置いてきぼりにしない優しさを感じました。

 利用客の様子はさまざまで、JRの職員に支えられながら乗り込んでくる人もいれば、小走りに乗車する人、着席と同時に寝始める人など。列車での教訓を生かしてでしょうか、空席があるにもかかわらず、寝落ちしないようにと立っている人もいました。

 午前1時24分、ようやくバスが発車しました。立ち客もそれなりにいたため、正確な人数を把握するのは難しかったのですが、高尾駅発時点でざっと見ておよそ30人。優先席もぴっちり埋まっていました。バスは途中、24の停留所に停車します。高尾駅付近の停留所では、停車するたびに1、2人ずつ降りていく様子が見られました。

停留所を過ぎるたび、寝ている人の割合は増加

 大変だったのは、元八2丁目停留所でのこと。2人掛け席のうち、窓側の人が下車しようとするのですが、通路側の人が深い眠りについて微動だにしないため、降りようにも降りられません。添乗していた職員が、眠っている人の身体を少しずらし、空間を作ることで、なんとか通路に出ることができました。寝ていた人は……そのままずるずると横に倒れ、さらに深い眠りに落ちていきました。

 やがて、一人の男性のスマートフォンが光りました。家族から電話がかかってきたようで、「高尾まで来ちゃったから八王子までバスで戻る」と説明しているのですが、「八王子までバスで」をなかなか理解してもらえないらしく、何度も説明を重ねていました。

 乗客の数は気づけば20人ほどまで減っていました。停留所で乗客が下車していくたび、相対的に寝ている人の割合は増えていき、頭の角度から察するにおよそ半数は夢のなか。夜行バスではないため、車内は明るいままですが、かたかたとした揺れ具合と暖かな空調が深夜の身体に眠気を誘発します。中央線が飲み会帰りのにぎやかなグループの熱気で充満していたことを考えると、誰一人声を発することのない静かな空間は「遠足の復路」とよく似ている気がしました。年齢層はずいぶん高めですが。

八王子の駅前なら始発まで時間を潰せそう

 午前1時53分、チャイムとともに「次は終点、JR八王子駅北口です」のアナウンスが流れ、数人がむくっと顔をあげます。そして1時55分、八王子駅北口の停留所に到着。まず、第一陣「起きている人たち」が下車し、第二陣「職員に起こされた人たち」が続きます。乗車時にICカードをタッチしていない人も多く、精算に時間を要していました。

「これで全部終わりかな?」とバスの外から様子を見ていたところ、まだ2人の乗客が残っていました。このうち1人は、午前2時少し前に降りてきたものの、先ほど横に倒れて熟睡していた人は起きる気配さえありません。2時8分、2人の警察官が現れ、職員と一緒に起こしにかかります。

 午前2時15分、警察官に介助されつつ最後の1人もようやく下車。17分にバスは「回送」を表示し、去っていきました。

 一方、バスを降りた人たちはというと……ちょうど停留所の目の前にカラオケ店があり、数人がそこに入っていきました。始発までの過ごし方を思案しているのか、ペデストリアンデッキで夜風に吹かれていた人もいました。

 八王子駅前は、高尾駅前の真っ暗な雰囲気に比べ、前述のカラオケ店のほか、周囲には宿泊施設や深夜営業の飲食店も多く、また真夜中にもかかわらず、大勢の人がいてにぎやかでした。同じ朝まで過ごすのでも、高尾駅よりは八王子駅のほうが、まだなんとかなることを実感したものの、やはり救済されることなく帰宅できるのが何よりだと感じました。