航空自衛隊のF-4EJ改など、「ファントムII」の特別塗装機には時折、大きな帽子と長いローブに身を包む魔法使いのような、なにやら怪しげなキャラクターが描かれていました。名前は「ファントム ザ スプーク」……何者なのでしょうか。

F-4「ファントムII」と共に消えゆく「愛されキャラ」

 2020年度末をもって、日本からF-4「ファントムII」戦闘機はすべていなくなります。数少ない運用部隊のひとつであった航空自衛隊第302飛行隊は、2018年度末にF-4EJ改の運用を終了し、三沢基地でF-35戦闘機の運用部隊となりました。F-4戦闘機の偵察機型であるRF-4EやRF-4EJを運用している同第501飛行隊も2019年度末にその任務を終了し解隊となり、最後に残った同第301飛行隊も2020年度末までに、F-35への機種転換が行われます。

 これら消えゆく航空自衛隊のF-4「ファントムII」とともに、もうひとつ姿を消すものがあります。それが「ファントム ザ スプーク」です。

 前述のように2018年度末にF-4EJ改の運用を終えた第302飛行隊は、その最後の記念塗装として、胴体に大きなオジロワシを描いた白と黒の2機のスペシャルマーキング機をお披露目しました。そしてその翼には、魔法使いのようなキャラクターが描かれているのを見た人も多いでしょう。大きな帽子、長いローブ、堂々としたポーズ、怪しい表情。これがF-4のイメージキャラクター「ファントム ザ スプーク」です。

オバケのオバケ? 「ファントム ザ スプーク」誕生の経緯

「ファントム ザ スプーク」は、「ファントムII」を生んだマクダネル(現 マクダネル・ダグラス)の生み出したキャラクターです。

「ファントムII」がアメリカ海軍で運用を開始したのは1961(昭和36)年のこと。当初は「ファントム ザ スプーク」はまだなく、それがいつ生み出されたのか正確にはわかっていませんが、マクダネル社の技術デザイナー、アンソニー・「トニー」・ウォンさんが気まぐれに作った、ショルダーパッチ用にデザインしたオバケのようなイラストがその最初であったといいます。これは、アメリカ海軍のパイロットたちによって「スプーク(spook、幽霊)」と呼ばれるようになりました。ちなみに「ファントム(phantom)」にも「幽霊」という意味があります。

 そして「スプーク」は、いつしかF-4「ファントムII」のオフィシャルキャラクターとなりました。マクダネルのオフィシャルな書類や、広告、販売促進用のグッズなどには必ずその姿が描かれるようになり、非公式ながら「ファントム ザ スプーク」という名で呼ばれるようになります。

 やがてF-4は、海を渡り世界各地で運用される大ベストセラー戦闘機となり、同時に「ファントム ザ スプーク」も世界中に広まって行きました。

日本ではあまり知られていないかもしれないワケ

 日本の航空自衛隊でF-4の運用が開始されたのは1971(昭和46)年のことですが、当初は記念塗装などに「ファントム ザ スプーク」を用いることはあまりなかったようです。記念塗装やイベントなどで「ファントム ザ スプーク」がよく見られるようになったのは、2000(平成12)年以降のことです。ただ、航空自衛隊の各部隊にはさまざまな由来を持った部隊マークがあるため、なかなかメインキャラクターとして取り上げられることはありませんでした。

 それでも「ファントム ザ スプーク」は、部隊を超えたF-4のキャラクターとして、長く愛され続けていきました。世界的に見ても、部隊や国を超えて、愛され続けている戦闘機のキャラクターはほかにいないように筆者(凪破真名:歴史ライター・編集)は思います。「ファントム ザ スプーク」はF-4の広報担当としてしっかりと役割を果たしたといえます。

 2018年、航空自衛隊百里基地(茨城県小美玉市)でお披露目された第302飛行隊のF-4EJ改の翼には、大きく「ファントム ザ スプーク」の姿が描かれていました。また2019年には、引退を記念するRF-4Eのスペシャルマーキング機にも、小さく控えめにその姿が描かれています。エアインテークからひょっこり姿をのぞかせ、その手にカメラを構えており、偵察機であるRF-4Eの特徴を表しているようです。同年に見られた第301飛行隊のF-4EJ改記念塗装には、その姿は描かれていませんでしたが、百里基地の航空祭には、第301飛行隊のマークであるカエルと同じ黄色いスカーフを付けた、「ファントム ザ スプーク」のコスプレをした航空自衛隊隊員が、ファンからの撮影の要望に応じていました。

 2019年12月現在、F-4は世界中で退役が続いており、航空自衛隊から姿を消すのもそう遠くありません。しかしその来歴と、「ファントム ザ スプーク」という同機と共に愛されたキャラクターがいたことは、ずっと後世まで語り継がれていくことでしょう。