新型コロナウイルスの影響による需要減退で大きくダメージを受けたバス業界、どう再建していくのでしょうか。路線バス、高速バス、貸切バスそれぞれの課題があり、また都市部と地方でも、求められる施策が異なるようです。

旅行需要はなかなか戻らない? 貸切バスの影響は続くか

 2020年5月14日(木)に多くの県で「緊急事態宣言」が解除されるなど、先の見えなかった新型コロナウイルス感染拡大の影響も、事態に少し動きが見られるようになりました。外出自粛により輸送人員が急減したバス業界ですが、今後、どのような対策を求められ、どのような展望を期待できるのでしょうか。

 政府や社会の対応は、まだ不透明な点はあるものの、社会活動や経済活動を厳しく制約する段階から、一定の範囲で行動の制約を緩和する段階へ進んでいます。その後、治療薬が安定供給されるなどすれば収束段階を迎えるでしょうが、テレワークのさらなる定着など、日本社会もある程度変化するでしょう。これらの対応段階は、双六のように前進と後退を繰り返すかもしれません。

 そうした社会情勢を受け、バス業界を取り巻く状況も変化することでしょう。ひと口にバスといっても、通勤通学など生活の足を支える路線バス、都市間輸送を担う高速バス、団体旅行中心の貸切バスと、おもに3つの分野があります。今回は、それら分野別に、また社会の対応段階別に分けて業界の今後を展望します。

 まず、インバウンドの急減や国内旅行の自粛により、3つのなかで最初に影響を受けた貸切バス分野は、5月中旬現在も、ほぼ休業状態です。国の助成金を得て雇用の維持に努めていますが、貸切バス分野は今後も厳しい将来が予測されます。

 遠足のような学校行事は授業時間の不足を補うために減るなど、今年度は団体旅行の需要が回復しそうにありません。例年、高校野球の「夏の甲子園」には全国から応援団のバスが多数集まりますが、大会自体が中止される可能性があるなど、大型イベントの需要も期待できなさそうです。

 旅行会社によるバスツアー人気を支えていたシニア層は、感染した場合に重症化のリスクが大きいとされ、出控える人が多いでしょう。インバウンド需要も回復は遅れるうえ、将来、感染が収束し世界的に海外旅行需要が回復したとしても、団体ツアーから個人自由旅行へのシフトはさらに進むと見られます。

高速バスは路線タイプ別に影響異なる 路線バスは?

 それに対し高速バスは、路線のタイプ別に、通常の運行体制へ順次戻っていくと考えられます。

 もともと、地方部で高速バスは大きなシェアを持っています。特に片道2時間から4時間程度の昼行路線は、地元から都市への足として根付き、老若男女幅広い利用が定着しています。また片道1時間程度の短距離路線は、通勤通学需要が中心です。このような距離の短い路線から順に需要が回復するでしょう。

 ただし、もともと高速バスを支えていた、大都市でのコンサートや有名店でのショッピング、出張など、地方の人が都市へ向かう需要自体が、以前のレベルまで回復しない懸念もあります。長距離の夜行路線は採算性に劣るため、乗車率が回復しなければ廃止もあり得ます。

 もし感染が順調に収束すれば、大都市発の旅行需要は、長い自粛の反動で回復が考えられます。当面、海外や遠方への旅行より近場に人気が集まるでしょう。富士五湖など大都市近郊の観光地や温泉、屋外型のテーマパークやアウトレットモールなどの目的地は、もともと都心や郊外住宅地から直行する高速バスが充実しています。

 旅行需要の回復のため、国の補正予算に観光産業支援が計上されており、そこには国が割引クーポンを発行する施策が含まれています。宿泊費や土産物だけでなく、渋滞防止のためにも往復の交通機関を割引の対象とすることが期待されます。

 一方、路線バス分野の展望は複雑です。「緊急事態」のあいだ、輸送人員はおおむね4割程度にまで減少したものの、地域公共交通という役割のため、赤字でも運行を続けました。このことが後日まで影響しそうです。

 大都市の大手私鉄系バス事業者は経営体力が大きく、即座に経営破綻などは考えられませんが、地方部が心配です。すでに、例年なら4月に売れるはずの定期券が一斉休校によって販売できず、当面の活動に必要な資金が不足気味です。さらに、もともと赤字の路線に対する国や自治体の補助金の額は、過去の赤字額を元に事前に決まっています。今年度は当然に赤字額が増加すると予測されるので、補助金制度の特例的な運用が望まれます。

「ラッシュ時」の変化は効率化のチャンス

 将来的に社会が平常に戻っても、前出のとおりテレワークや時差通勤がある程度定着すれば、朝夕のラッシュ時の輸送人員が減るはずです。大都市部のバス事業者は、車両や乗務員数を朝夕の「需要の山」に合わせています。朝夕だけに需要が集中するので事業の効率が悪く、乗務員の勤務シフトなどに無理が出ていることもあり、需要が分散すれば、経営の効率が高まるかもしれません。

 逆に地方部では、1便あたりの輸送人員などが補助金の要件を下回ってしまい、補助金が打ち切られる路線も出ることが危惧されます。「コロナ危機」を受けて、地方の地域公共交通をどう維持するか、本質的な議論が求められています。

 また、最優先されるべきは、乗客や乗務員への感染拡大防止と、乗客に対する安心感の提供です。バス事業者や研究者、筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)らコンサルの有志による団体は、感染拡大防止に向けた事業者の取り組み事例集や、乗客へのお願い事項を車内ポスターで示す際のひな型を作り、全国の事業者向けに公開しています。事業者においても、西日本鉄道のように、路線バスの混雑度合いを時間帯別に公表し、混雑していない便に分散乗車を呼び掛ける例も出てきました。

 緊急事態宣言解除後も、感染再拡大のリスクを忘れることはできません。需要に合わせて柔軟にダイヤ改正を行う準備をするとともに、頻繁なダイヤ改正をわかりやすく乗客に伝える仕組みを作ることが必要です。また、万一、営業所でクラスターが発生しても大規模な運休を回避できるよう、事業継続計画の策定も求められ、その計画は、当然、震災など別の危機にも応用できます。筆者が代表を務める高速バスマーケティング研究所では、バス事業者が対応すべき事柄を事業分野ごと、社会の対応段階ごとに整理してサイト上などで公表し、全国の事業者に活用を促しています。

 感染収束までの道のりは、まだ予断を許さない状況です。新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の危機に際し、バス業界は、刻々と変化する移動のニーズや再拡大防止という社会的要請に対し、情勢をよく観察し柔軟に対応することを求められています。