丈夫で錆に強い金属であるステンレスを使った銀色車体の鉄道車両は、いまや日本中で見られますが、路面電車の採用例はほとんどありません。なぜでしょうか。クルマと一緒に走る環境ならではの理由があります。

丈夫だと不利? 路面電車の走る環境

 鉄道車両のうち、首都圏で定着した銀色のステンレスカー。ステンレスは錆に強く、薄くしても丈夫といった利点から、通勤形から特急形の車両まで幅広く採用されています。

 しかし、日本の路面電車には現在のところ、ステンレスカーはほとんどありません。2000年代に入ってから盛んに製造されている超低床路面電車も、すべて車体は鋼鉄製です。その理由は何でしょうか。

 先述の通り、ステンレスは薄くしても丈夫ですが、加工や溶接がたいへん難しい金属です。一般のステンレスカーであっても、形状が複雑な正面だけは鋼鉄やFRP(繊維強化プラスチック)が用いられるケースが多く見られるほどです。実はこの性質が、路面電車へのステンレス採用を阻んでいます。

 路面電車は道路を走るという特性から、クルマとの接触事故のリスクがほかの鉄道よりも高くなります。

 鋼鉄であれば、事故でへこんだ部分を切り取って新しい鋼板を溶接したり、反対側から叩いて形をならし、パテで成型したりすることで、比較的容易に車体を修復できます。しかしステンレスの溶接には専用の工具が必要です。また、へこんだ箇所を鋼鉄のように叩いても、曲げ加工の難しい性質が邪魔をして、折れ曲がった部分を元のように直すことはできません。そのため、路面電車では修復のしやすい鋼鉄製の車両がいまでも製造されているのです。

 なお、路面電車でステンレスを採用した例は、踏切を除き路面区間がまったくない東急世田谷線の300系ですが、車体の一部に使われているにとどまっています。

 このほか路面電車ではありませんが、道路を走る区間がある鉄道の江ノ島電鉄の500形が、車体の大部分にステンレスを採用しています。これは江ノ島電鉄が海辺を走ることから、塩害防止という観点で、錆に強いステンレスの利点を買われての採用です。