昨今の邦画界では、アニメや漫画の実写化が質の良し悪しを問わず量産されている。そうした流れに筆者は懐疑的な立場を取ってきたが、2015年に話題を呼んだ同名劇場アニメを、『君に届け』や『近キョリ恋愛』で知られる熊澤尚人監督が実写化した『心が叫びたがってるんだ。』は、実写作品の成功例だと認めざるを得ない。悲しい過去を背負う女子高校生が、心優しいクラスメートとの交流を通じて立ち直っていく姿を描く本作では、芳根京子、中島健人、石井杏奈、寛一郎という将来を嘱望される若手役者たちの好演と、オリジナル版に忠実な物語が溶け合い、原作のファンも納得できる物語が形成されたのである。



物語のヒロインは、内気な少女の成瀬順(芳根)。幼き日に父の不貞を意図せずして母に伝えてしまい、結果的に両親を離婚させてしまった彼女は、父から責められたショックで、言葉を発することができなくなってしまった過去を持つ。成長した順は誰とも話さない孤独な高校生活を送っていたが、坂上拓実(中島)、チアリーダー部の仁藤菜月(石井)、野球部の田崎大樹(寛一郎)とともに、地域ふれあい交流会の実行委員に選出される。不器用にも彼らと関わり合ううちに、順は少しずつ立ち直っていき、拓実に特別な感情を抱くようになるのだが...。



(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

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アニメを実写に変換するうえでは、キャストが元のキャラクターと親和したうえで、観客を引きつける演技を見せることが求められるが、主軸となった4人の役者は、それぞれのアプローチでこの課題を乗り越えてみせた。ヒロインを演じた芳根は、声を出したくても出すことができないもどかしさ、自分のことを初めて理解してくれた人となった拓実に対する仄かな恋心、そして拓実が胸に秘めていた想いを知った時の悲しみなど、順の心理を実に丁寧に表現している。セリフの間合い、表情の変化も見事だが、泣きに至るまでの感情の積み上げが特に素晴らしく、思わずもらい泣きしそうになる瞬間も少なくなかった。



「王子様キャラ」で知られる中島は、順にとってある種の王子となる拓実を好演。たびたび見せる微笑みには、観客の胸をときめかせる輝きがあり、劇中で披露する歌声とピアノの柔らかな響きも印象的だ。アニメとのイメージの乖離が大きいように感じられる石井は、ナチュラルな芝居でこれをカバー。拓実との複雑な過去を抱えながら、拓実と順の関係を応援するという第二のヒロインとしてのポジションに、控えめながら記憶に残る演技できれいに収まってみせた。寛一郎はビジュアルからしてオリジナルに忠実。挫折感に苛まれながら周囲に当たり散らす精神的未熟さや、ふがいなさから自己嫌悪に陥る大樹の姿をダイナミックかつ繊細に構築しており、その演技は「さすが佐藤浩市の息子」といったところ。



(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

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キャストの好演がみずみずしい輝きを放つ本作でペンを執ったのは、『近キョリ恋愛』や『君に届け』でも熊澤監督とタッグを組んだまなべゆきこだ。まなべは、アニメでイマジナリー・フレンドとして描かれ、物語における小道具として機能していた「たまご」の登場に変化を加えているものの、これ以外に原作からは目立った脚色を行っていない。結果として原作に極めて忠実なストーリーが構成されているため、不要な脚色に失望させられることはないはずだ。



アニメでもそうだったが、本作が見る者の胸を打つのは、物語の中に自分を見つけることができるからだ。誰かを好きになる者。自分の過去と向き合う者。好きな人の恋を応援する者。挫折から這い上がろうとする者...。この映画には、感情移入できる“誰か”がいる。そんな等身大で人間らしいキャラクターたちを、将来を嘱望される若手役者たちは、飾らずに、爽やかに演じ切った。だからこそ、本作は原作ファンを失望させないどころか、実写化の意味を感じさせる青春映画として成立したのだ。



(C)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (C)超平和バスターズ

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実写化というジャンルでは作品の明暗がはっきり分かれるものだが、原作のエッセンスを失わず、キャストが魅力的な芝居を見せた本作は、間違いなく成功を収めている。製作発表時には、「『ここさけ』を実写化するなんて」と難色を示していた原作ファンも多かったようだが、そんな人にこそ、本作を見てほしいものだ。



(文:岸豊)


映画『心が叫びたがってるんだ。』

公開中





監督:熊澤尚人

脚本:まなべゆきこ

出演:中島健人、芳根京子、石井杏奈、寛一郎

配給:アニプレックス