『ブランカとギター弾き』ってどんな映画?



フィリピンのスラム街。窃盗や物乞いをしながら、路上で孤独に暮らす少女ブランカは、有名女優が自分と同じ境遇の子どもたちを養子に迎えたというニュースを目にし「母親をお金で買う」というアイデアを思いつく。偶然出会った、年老いた盲目の路上ギター弾きのピーターとともに旅立ち、見知らぬ街にたどり着くと、ブランカは早速“資金集め”に奔走する。そんな少女の様子を心配しつつ、ピーターの孤独も癒されようとしていたが…。



観るべき理由:1――試練と冒険、少女が見つける“大切な何か”とは?



親の愛を知らずに育った少女が、さまざまな出会いと別れ、試練と冒険を乗り越えながら、“大切な何か”を見つける…。映画はそんなシンプルな筋立てに、世間から黙殺されるストリートチルドレンの過酷な現状を浮き彫りにし、単なる少年少女の成長ストーリーに留まらない深い余韻を残す多面的なヒューマンドラマだ。



子どもの視点にフォーカスしながら、物事を美化せず、目の前にある真実を鮮やかに、ときに残酷に切り取る姿勢に好感を抱いた。それと同時に色彩あふれるフィリピンの情景、そこに響き渡る素朴だが、じんわり心に染み入る音楽が溶け合い、独特な映画的空間を生み出している。上映時間77分ながら、見終わった瞬間、普段見逃しがちな幸せの在り方を改めて考えたくなる作品だ。



観るべき理由:2――躍動する子どもたちを“路上”でキャスティング



というわけで、やはり本作で最も目を引き、心に強く刻まれるのはスクリーンで躍動する子どもたちの存在だ。主人公のブランカを演じるのは、2004年生まれのサイデル・ガブテロ。YouTubeに自身の歌唱動画をアップしたところ、本作のプロデューサーの目に留まり、演技初挑戦ながら主演に大抜てきされた。シビアな環境を生き抜く力強さとしたたかさ、時折見せる少女本来の可憐さと儚さ、何より劇中で持ち前の歌唱力を発揮する姿が、印象的だ。



ブランカと行動をともにする少年たちの多くは、舞台となるフィリピンの路上で見いだされ、出演が決まった。また、もう1人の主人公と呼ぶべき盲目のギター弾き、ピーターを演じるピーター・ミラリも、マニラの地下道で活動していた実際の路上ミュージシャン。おおらかにブランカを包み込む姿に、観客は「目に見えない愛の存在」を目の当たりにするはずだ。残念ながら、ピーター本人は映画完成直後に、突然の病で急死。本作はそんなピーターに捧げられている。



観るべき理由:3――メガホンをとるのは、世界が才能を認めた日本人監督



本作のメガホンをとるのは、本作が長編デビューとなる日本人監督の長谷井宏紀。映像作家、写真家として世界をまたにかけて活動しており、世界的巨匠であるエミール・クストリッツァ監督の出会いをきっかけに、日本人として初めてヴェネツィア・ビエンナーレ&ヴェネツィア国際映画祭の全額出資を得て、この作品を完成させた。



ヴェネツィア国際映画祭2015に正式出品され、マジックランタン賞(全上映作品を対象に、若者から贈られる賞)とソッリーゾ・ディベルソ賞(ジャーナリストから贈られる外国語映画賞)に輝いている。本作を生み出したのは、企画開発はヴェネツィア、撮影と編集はフィリピン、そして仕上げは韓国という国境を越えた製作体制。今後、才気あふれる日本人クリエーターが、監督デビューの機会を得るきっかけとして定着するか期待したい。



(文・内田涼)


映画『ブランカとギター弾き』

7月29日よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開





監督・脚本:長谷井宏紀

製作:フラミニオ・ザドラ(ファティ・アキン監督『ソウル・キッチン』)

制作:アヴァ・ヤップ

撮影:大西健之

音楽:アスカ・マツミヤ(スパイク・ジョーンズ監督短編『アイム・ヒア』)、フランシス・デヴェラ

<CAST>サイデル・ガブテロ / ピーター・ミラリ / ジョマル・ビスヨ / レイモンド・カマチョ

2015年 /イタリア/ タガログ語 / 77分 / カラー / 5.1ch / DCP / 原題:BLANKA / 日本語字幕:ブレインウッズ/