食物連鎖の頂点に位置する人間を喰らう存在が、人間のすぐそばに潜んでいたとしたら?このユニークなテーマを掲げたSFテイストのダーク・ファンタジー漫画『東京喰種トーキョーグール』が、窪田正孝の主演で実写映画化され、7月29日より全国公開を迎えた。SFやファンタジーというジャンルでは実写化の壁にぶち当たってきた邦画業界だが、本作は成功の基準の一つとなるかもしれない。というのも、アクションと映像表現には改善の余地があるものの、窪田をはじめとする役者陣の芝居と、人を喰らう怪人“喰種”になることの悲しみが深く掘り下げらたストーリーには、観客を力強く引き込むパワーが、確かにあるのだ。



物語の主人公は、平凡でひ弱な読書好きの大学生カネキ(窪田)だ。ある日、密かに思いを寄せていたリゼ(蒼井優)とのデートを楽しんでいたカネキは、リゼが人を喰らう怪人“喰種”であることを知る。カネキを襲ったのち、リゼは鉄骨の落下事故に巻き込まれて死亡するが、重傷を負ったカネキは、医師の独断でリゼの臓器を移植された結果、半喰種となってしまう。普通の暮らしを送ることができなくなり絶望したカネキは、喰種が集う喫茶店あんていくに身を寄せ、従業員のトーカ(清水富美加)や、マスターの芳村(村井國夫)から助けを得ながら、生きるべき道を模索していくが、彼らのもとには“喰種を狩る”CCG捜査官たちが迫っていた...。



(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社




漫画やアニメを実写の世界で再構築するうえでは、クリエイターは“二次元と三次元の壁”に直面することとなる。いわゆる“日常もの”ではこの壁はさほど厚くないのだが、SFテイストのダーク・ファンタジーである本作に立ちはだかった壁は非常に厚かったはずだ。しかしながら、本作はその壁を越えてみせた。その屋台骨となったのは、窪田を中心とするキャストが見せた熱演・怪演に他ならない。



主人公のカネキは、“普通の”人間ではないと同時に、喰種にもなり切れないという曖昧な存在だが、窪田はそのアイデンティティの崩壊に伴う悲しみや苦しみを、大胆かつ繊細に表現。絶叫や号泣といった描写は、強調しすぎて観客にストレスを与えないよう設計されており、見どころとして効果的に機能しているほか、自我を失って喰種としての側面が露見した際の狂気的な形相・言動、そしてこれを人間としてのカネキが認識した際に見せる後悔と自責の念には、原作以上に力強く訴えかけるメッセージ性がある。演技派として評価されている窪田だが、その芝居力の高さには改めて驚かされた。



(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社




窪田ふんするカネキを容赦なくど突くドSキャラがハマりまくっている清水も素晴らしい。原作からのビジュアルの再現性が高い(そもそも、ショートカットで勝負できる女優は少ない)ほか、アクションでもキレのある動きを見せており、物語の軸となる“笛口親子の悲劇”に対して抱く、怒りや無力感といった心理描写でも上手さを感じさせる。全く以て、邦画業界は惜しい女優を失ったものだ。また、出演の尺は少ないものの、カネキを喰種の世界に引きずり込むリゼ役の蒼井にも拍手を送りたい。彼女は映画に登場する最初の喰種であるため、観客を特異な世界観に引き込む重要な役割を担っていたわけだが、原作にはない生々しく色気のある、それでいてグロテスクなシーンにも果敢に挑み、これを果たしてみせた。



キャストが好演を見せている一方で、映像に物足りなさを感じさせられることは否めない。例えば、喰種の捕食器官である「赫子(かぐね)」や、これを基に製作されたCCG捜査官が用いる武器「クインケ」の映像表現は、“浮いている”(生身の役者や背景と親和しきっていない)感覚を与えるし(それでも、ひとまず見るに堪えるクオリティに仕上がってはいるが)、アクションのコリオグラフィーには、どういった戦術的優位性があるのか理解し難い部分が複数あった。特に、カネキとCCG捜査官・亜門(鈴木伸之)の戦いでは首をかしげたくなる振付が少なくない。よって、アクション映画としては、まだまだ改善の余地があるように思う。



(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社




とはいえ、そうした瑕疵が見受けられつつも、原作の1巻から3巻までを描く物語で映し出される、「喰うべきか? 喰わぬべきか(人間の尊厳を捨てるべきか否か?)」という疑問に葛藤するカネキを軸とする、悲劇的な“喰種模様”には、観客の心を奪うパワーが存在する。終盤にかけて訴求力を強めていく、正義と悪についての灰色な構図も、キャラクターのバックグラウンドが描き切れていないながら、味わい深いものがあった。また、本作では原作にないシーンが追加されているとともに、話の流れ・登場人物の役回りに一定の変化が与えられているのだが、物語の枠組みは破たんすることなく成立しているため、脚色の点で原作ファンが失望することはないとも明言しておこう。



CCG捜査官との激闘の末に迎える結末は実に印象的だ。人間の死を享受しなければ生きていけない喰種たちは、自分たちの存在の虚しさや悲しさを受け止めたうえで、最終的に生きることを肯定する。思わず目を背けたくなるような、ハードなシーンも多く挿入されている本作だが、その結末は爽やかで、生命賛歌を感じさせるものだった。生と死という普遍的な要素を複雑に絡めながら、希望を抱くことができる美しい結末を導いたからこそ、本作は見る者の胸を打つ、上質な映画となったのだろう。



(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社

(C)2017「東京喰種」製作委員会 (C)石田スイ/集英社




...白状すると、その特異な世界観から、筆者は本作が失敗に終わる確率が高いだろうと踏んでいたのだが、結果は真逆となった。本作は課題を残しながらも、コミックの実写化というジャンルにおいて、しっかりと成功を収めている。語られていない・明かされていない部分も多いため、続編の製作にも期待が高まってしまう。あれやこれやと書いてきたが、最後に一つだけ。



ああ、佐々木希が演じている喰種に喰われたい。



(文:岸豊)


映画『東京喰種 トーキョーグール』

公開中





原作:石田スイ「東京喰種 トーキョーグール」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)

出演:窪田正孝

清水富美加 鈴木伸之 桜田ひより 蒼井優 大泉洋

村井國夫 / 小笠原 海 白石隼也 相田翔子 栁 俊太郎 坂東巳之助

佐々木 希 浜野謙太 古畑星夏 前野朋哉 ダンカン 岩松 了



監督:萩原健太郎

脚本:楠野一郎

音楽:Don Davis

主題歌 : illion「BANKA」

配給:松竹