ハリウッド屈指のヒットメーカーであるトム・クルーズを主演に迎えた映画『ザ・マミー/呪われた砂漠の女王』。ユニバーサル・ピクチャーズが展開することを明らかにした、名作ホラー映画のリブート・プロジェクト「ダーク・ユニバース」の先陣を切る本作には、世界中の映画ファンから熱視線が注がれていることだろう。しかしながらその出来は、「ダーク・ユニバース」の行く末に一抹の不安を抱かせるものとなった。



物語は現代の中東で幕を開ける。米軍関係者のニック(クルーズ)は、考古学者のジェニー(アナベル・ウォーリス)とともに、謎の地下空洞を発見。ここに隠されていた巨大な棺を空輸するが、この棺には呪われたエジプトの王女アマネット(ソフィア・ブテラ)のミイラが封印されていた。封印から解き放たれたアマネットは、自身の封印を解いたニックを生き神とし、世界中の人々に災いをもたらそうと暴走を始めるーー。



(C)Universal Pictures

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マーベルとDCがスーパーヒーロー映画をクロスオーバーさせながら「マーベル・シネマティック・ユニバース」「DCエクステンデッド・ユニバース」を展開して大ヒット作を量産し、ワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズと東宝がゴジラやモスラなどの怪物を交錯させる「モンスターバース」を始動している中で、メジャー・スタジオの一つであるユニバーサルがこれに続きたいと考え、「ダーク・ユニバース」を企画したことはいたって自然な流れに思える。その幕開けを飾る以上、本作には世界観のイメージを構築し、映画ファンの心を奪うことが求められるわけだが、ユニバーサルが描いたであろう青写真と現実の間には明確なギャップがある。



主たる原因となったのは、脚本にほかならない。まず、アマネットが単純な悪でしかないことが大きな問題だろう。彼女はエジプトにおける第一王位継承者であったものの、ファラオである父親が息子を授かったことで王位継承できなかったため、悪の神セト(キリスト教におけるサタン=悪魔)に魂を売り、一族を皆殺しにしたという忌むべき過去がある。



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設定自体はなかなかドラマティックなものだが、劇中ではその過程が極めて煩雑に処理されている。アマネットの悲しみや挫折感といった悲劇的な想いではなく、怒りや恨みといった激情のみが映し出されるため、観客が何らかの形で感情移入する余地を見出すことができないのだ。また、『ダークナイト』におけるジョーカーや、『ウォッチメン』におけるオジマンディアスなど、魅力的な悪には部分的に感情移入できたり、はっとさせられる何かを見出すことができるものなのだが、彼女にはこういったものが皆無に等しい。



クルーズふんするニックは、そんなアマネットの暴走を止めようと、ジェニーと共に奔走する。その過程では、“ニックの拝金主義者からの改心”と“ジェニーとのロマンス”が挿入されるのだが、このどちらにも、観客の心を揺さぶるほどの力はない。そもそも、ニックという主人公の内面があまり掘り下げられないため、彼が改心したところで大きな感動は生まれないし、ジェニーとのロマンスも味付け不足な感が否めず、クライマックスにおける想いの告白にも説得力を感じることはできなかった。



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もちろん、物語に魅力がないわけではない。キャラ付けは物足りないものの、アマネットにふんしたブテラの妖艶かつ獰猛な演技には目を見張るものがあるし、無類の強さを誇るキャラクターを演じることが多いクルーズが、アマネット、そして共闘するものの二重人格を持つヘンリー・ジキル博士(ラッセル・クロウ)にぶっ飛ばされるシーンは、なかなか新鮮な印象を与えてくれる。あちこちに散りばめられたジョークも、決して悪くない。インダストリアル・ライト&マジックや、MPC、ダブル・ネガティブといった名門の映像製作会社が手掛けた映像表現も、流石と言えるクオリティだ。



しかしながら、やはり物語の骨子である主人公・悪役・ヒロインの設定における肉付け不足は、作品の魅力に致命的なダメージを与えている。このダメージは、小手先の技術でカバーしようとしてもカバーしきれないほど大きいものなのだ。付け加えて言うなら、ニックとアマネットの最終決戦における落としどころも都合の良さが目立ち、「本当にこれでいいの?」と拍子抜けさせられてしまう。



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監督・製作・原案を兼任したアレックス・カーツマンは、『アイランド』や『トランスフォーマー』で悪手の作劇を露呈していたが、本作の脚本にはデヴィッド・コープ(脚本:『ミッション:インポッシブル』『インフェルノ』)やクリストファー・マッカリー(脚本:『ユージュアル・サスペクツ』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』)も携わっている。これだけの面子がいて、なぜこんな仕上がりになったのか。正直に言って理解に苦しむが、それと同時に、スタジオからの要求が彼らの作家性を殺すほどに度を越したのか?とも訝しんでしまう。



「ユニバース」を展開するマーベルやDCが、いつもいつも秀逸な作品を世に出しているわけではないし、眉を顰めたくなる作品があることは確かだ。しかし、マーベルで言えば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』、DCで言えば『ワンダーウーマン』と、両スタジオが放った直近の作品は、目が離せないストーリーを持つ上質な映画だった。それは批評家の反応のみならず、興行収入によっても明確に証明されており、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』は8億6,000万ドルを、『ワンダーウーマン』は7億8,000万ドルをそれぞれ稼ぎ出している(7月26日時点※Box Office Mojo調べ)。



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これらの勢いづくアメコミ映画に対抗するために生み出された「ダーク・ユニバース」の幕開けを飾る以上、当然ながら本作にも大成功を収めることが期待されたわけだが、蓋を開けてみれば、興行収入はおよそ4億ドルにとどまっている。未公開の地域を含めても、最終的な興行収入は5億ドルに満たないのではないか? 1億2,500万ドルという膨大な予算から判断して、この興行収入は大成功とは言えない。とはいえ先述した通り、本作には明確な瑕疵が存在するため、この結果は至って妥当なものだと思えるのも確かだ。



そういうわけで、「ダーク・ユニバース」のスタートを切る映画『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』は、高い満足度を伴う映画体験を与える作品にはならなかった。アメコミ映画戦線に対抗しようというユニバーサルの心意気は否定しないが、近年ではヒット作に恵まれていないジョニー・デップが主演を務める『Invisibleman(原題)』や、大衆向きではない演技派のハビエル・バルデムを主演に迎える『The Bride Of Frankenshtine(原題)』、そして本作の続編、他の作品とのクロスオーバーでは、より上質なストーリーを用意する必要があるはずだ。



(文:岸豊)


映画『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』

公開中





監督:アレックス・カーツマン

プロデューサー:アレックス・カーツマン、クリス・モーガン、ショーン・ダニエル

エグゼクティブプロデューサー:サラ・ブラッドショウ

脚本:ジョン・スぺイツ、クリストファー・マッカリー

出演:トム・クルーズ、ソフィア・ブテラ、アナベル・ウォーリス、ジェイク・ジョンソン、コートニー・B・ヴァンス/ラッセル・クロウ

配給:東宝東和