言葉遊びやリズミカルな会話劇とともに、読者を想像だにしない結末へと誘う作家・西尾維新さん。唯一無二の世界を作り上げ、常に注目を集める存在となった彼の作家業15周年を記念した「西尾維新大辞展」が、7月27日(木)より開催される。



ロングインタビューで、その感慨とともに作家業を振り返ってもらうと、15年の間に起きた“3つの革命”。そして言葉遊びの意外な発想のきっかけ、前進し続けるパワーの源までが明らかとなった。



前記事⇒【西尾維新インタビュー:前編】西尾作品に欠かせないキャラクターの意外な共通点とは。「西尾維新大辞展」開催記念






「西尾維新大辞展」






作家業15年で起きた“3つの革命”



――人との関わり合いを通して、それぞれのキャラクターの個性や過去が見えてくることを考えても、一人ずつのキャラクターに並々ならぬ愛情がこもっていることがわかります。



そういった意味では、『クビキリサイクル』刊行時、登場するすべてのキャラクターを竹さんにイラスト化してもらったことが、スタートだったような気がしています。玖渚友と戯言遣いだけでなく、孤島に集められた天才たち、メイドたち、館の主人。その全員をヴィジュアライズしていただいたことは、とても大きかったと思います。たぶん今でもあんまりないことですよね。そのことによって、僕の中で、一種の革命が起きたんです。キャラクターを文のみならず絵で表現してもらえたことによって、また想像力が喚起されました。





『クビキリサイクル』

『クビキリサイクル』






そして『化物語』をアニメ化していただいたとき、キャラクターが動き、しゃべる姿を認識することによって、また革命が起きました。小説以外の表現方法を知ったことは、小説の書き方においても転換点となったと思います。





『化物語』

『化物語』






ターニングポイントの3つ目があるとするならば、週刊少年ジャンプでの連載を経験したことです(『めだかボックス』)。小説だったら、基本1冊分をまとめて、物語の完結までを書きますが、毎週ごとにおはなしの「途中」を提供する経験ができた。それに、最後まで書き切れるかどうかわからない怖さとの戦いも経験しましたね。だからこそ、途中の段階でどれだけ面白いおはなしを作るのかという手法を学ぶことができました。この3つは、15年の中での特筆すべき革命だったと思います。





『めだかボックス』

『めだかボックス』






『めだかボックス』

『めだかボックス』小説版






それと、自主的な革命がもう一つ。次巻予告をして、「次はこれを書きます」と言ってしまうこと。『クビキリサイクル』を出したときに、『クビシメロマンチスト』と『クビツリハイスクール』を出しますと予告したのが、すべての始まり。その後も本を出すたびに、次巻を予告しています。だから15年間続けられているということもあると思います。何より僕自身が、読者として次回作の予告を見るのが好きなんです。「次がある」と思うとワクワクしますから。そういったものを提供できればいいなと思っています。



「西尾維新大辞展」コラム「約束」

「西尾維新大辞展」コラム「約束」




「<物語>シリーズ」のアニメ化に衝撃!「もう“映像化不可能”とは絶対に言えない」



――「<物語>シリーズ」のアニメ化は、怒涛の会話劇を声優さんが熱演してみせた上に、様々な手法で文学的な香りを入れ込むなど、とても衝撃的な作品でした。西尾さんにとっても、驚きがあったのですね。



ええ、驚きました。「<物語>シリーズ」は、「映像化不可能な小説を書こう」という志のもと書いたものでしたが、今はもう、絶対に言えないです。逆に「アニメ化を見込んで小説を書きました」と言うようにしないと(笑)。まさか「<物語>シリーズ」がアニメ化してもらえるとは思っていなかったし、しかもこんなに素晴らしくアニメ化できてしまうんだと驚いて。一番、アニメ化に向いていない1冊だと思っていましたから。まだ『ニンギョウがニンギョウ』の方がしやすいんじゃないかって(笑)。





DVD『化物語』

DVD『化物語』






たとえば、最初のストーリーである「ひたぎクラブ」で出現している怪異は、人に見えない怪異です。どう表現するのかなと思っていましたが、ああ来るとは。あとはやはり会話の応酬。それこそ文字の強みだと思っていた部分を、キャストさんが素晴らしく演じてくれました。やはり実際にしゃべってもらうと、セリフの文面以上の感情が文字の中にこもるので、文字だけのときとは印象が変わってくる。発する声のニュアンスで、聞き手の想像力を変えてくる。このことには本当に刺激を受けました。



――映像化されることも、ご自身の刺激として、楽しんでいらっしゃる。



本当に素晴らしいものを作っていただいているので。それは『掟上今日子の備忘録』をドラマ化してもらったときにも思ったことです。ある意味、「<物語>シリーズ」は、原作の流れをそのままやっていただいたんですが、『掟上今日子の備忘録』は実写化するにあたって、話を組み立て直したり、設定をドラマに合う形にしていただいたんです。その上でちゃんと「忘却探偵」になっていた。驚きましたね。軸を変えないまま、現実の世界で物語を描いていただいた。「こんなことできるの!?」と思いました。



新垣結衣が主人公・掟上今日子を演じたテレビドラマ『掟上今日子の備忘録』

新垣結衣が主人公・掟上今日子を演じたテレビドラマ『掟上今日子の備忘録』




――映像化される際に、西尾さんからお願いすることはあるのでしょうか?



メディアミックスしていただくときは、基本的には専門外のことが多いので、あまり何も言いません。迂闊に何か言ってしまうより、専門の方に任せた方がいいと思っています。「これこれだと困ります」というような基準はあった方がやりやすいかもしれないですが、少なくとも「こういう風にしてください」という希望は言わない方がいいだろうなと。アニメやドラマから刺激を受けることができたのは、完全に作ってくださったみなさんが素晴らしいからです。



原動力は好奇心。結末を決めずに「謎を解きたい」との思いで書く



――展覧会では、決め台詞紹介のコーナーもありますが、やはり“言葉遊び”が西尾維新ワールドの大きな魅力です。“言葉の面白さ”に気づいたきっかけは、どんなことでしょうか。



やはり小説を読んでいて、ですね。僕がデビューした講談社ノベルスというレーベルの小説が、言葉の面白さをずっと教えてきてくれました。二段組の小説というのが、当時の僕にとって、衝撃的だったんです。これはどういう順番で読むんだって(笑)。活字が好きで、今に至るという感じです。



そして書いているうちに、どんどん言葉の面白さにハマっていきました。文章を書いていると言葉が思わぬ方向につながっていったり、書いてみないとわからないことがたくさんあるんです。頭の中で考えているだけではなく、手を動かしてみることが大事だと思います。書けばなんとかなると思っているところがあって。とりあえず、始めてしまえば書けるだろうと。



――ご自身としても、「これは面白い」という思いでどんどん筆を進めていくんですね。



それがまさしく、先ほど言った週刊連載で学んだことかもしれないですね。書いてしまえば、話がつながっていく。今度アニメにしていただく『終物語』にしても、あんな形で終わるとは、僕は想像だにしていなかったんです。でも一番きれいに終わったなと思っています。小説を書くときは、「どんな終わりになるだろう?」と、僕自身結末が読みたくて書いているところもあるんです。





『終物語』(上)

『終物語』(上)






『終物語』(下)

『終物語』(下)






――え!まさか!それでは、プロットは決めていないんですか?



決めないです。決めてしまったら、それで満足して書かなくなります(笑)。



――ミステリーだとしたら、伏線や結末が大事になるのでは!?



大事だからこそ、そのミステリーを解くために小説を書く。キャラクターの観点から言うと、例えば(「物語シリーズ」の)戦場ヶ原ひたぎという女の子を登場させてみたけれど、なんだかすごく凶暴だと。ならばどういう理由があるんだろう?ということを書きながら探っていくんです。だから、そのキャラクターを読み解いたときに、話が終わる。なかなか読み解けないキャラクターもいますよ。千石撫子には苦戦しました。あの子を読み解くまでには、8年くらいかかったと思います。影縫さんや斧乃木ちゃんというキャラクターはいまだに読み解けていないので、もっと掘り下げていきたいです。書き終わったときに、ちょっと気になるようなところで終わらせておけば、更なる次回作が書けます。





『撫物語』

『撫物語』






――なんともシビれるお話です! 解きたい、知りたいという好奇心が、西尾さんの一番のエンジンなんですね。



そうです。だから“先を決めずに”書きます。それは初期からやってきたことですが、だんだんと意識的にやるようになりました。今の段階でも、たぶんそれなりのストーリーに決めてしまえるけれど、もう少し答えを出さずに、半年後くらいの自分が決めた方がいいかもしれないと思ったり。例えば楽しみにしている映画が公開された後、それを観て視点の変わった自分の方がいい結論を出せるかもしれない。



――変化を恐れず、むしろ楽しんでいらっしゃるような気がします。今回、15年を振り返ってみてご自身の変化を感じたことはありますか?



ありますね。その時々の文章を見てみると、書いていることが全然違ったり。それをわざとやってるときとそうでないときとがあって、書いた当時のことを色々と思い出しました。ただ今回、振り返ってみて改めて感じたのは「昔書いたものは否定できない」ということ。「この意見は今とは違う」「この文体は今だと認められない」と仮に思ったとしても、それは今の自分の意見でしかありませんからね。どちらも書けたことをむしろ楽しまなきゃ。



「西尾維新大辞展」年表

「西尾維新大辞展」年表




――単純に考えて、ものすごい執筆量になると思います。お身体は大丈夫ですか……?



ものすごく健康にやっていますよ。こう落ち着くのか、シビれるな……と自分でも楽しんで書いています(笑)。確かに年表を見てみても、単純な分量で言うと、むちゃくちゃなスケジュールの時期もありました。『刀語』を12カ月連続刊行する一方で、『傷物語』を書いているとか。週刊少年ジャンプで連載しているときに、「<物語>シリーズ」を数カ月おきに出しているとか。でも、僕はある仕事に挑むときには、他のスケジュールのことを考えないんです。それがそういう局面を乗り越える秘訣かもしれません。「今はこれだけを書いている」という気持ちでいること。あまり大変だと思わないようにすること。「これだけやっていればいいんだ」ということを積み重ねてきた結果だと思います。展覧会のお話をいただいたときも、展示するほどの量はないと思っていましたから(笑)。そうしたら意外と、フロアを使い切れるほどだと。返す返すも、こんなに仕事をしてきていたんですね。



――16年目からもますます楽しみです。展覧会に来られる方にメッセージをお願いします。



僕がその時その時、その場その場で点々とやってきたことを、15年の軌跡として線でまとめていただけました。おかげで僕自身、ここが転換点だったんだ、こういう書き方をしていたんだと、つかむことができました。それがきっと、ここから先に生きてくると思っています。いらした方々にとっても、意外と結構な数を読んでいたということがあるかもしれません。読んだ時に自分が何をしていたのかを思い出すきっかけにしていただければ。


映像化をはじめ、自らを取り巻くすべてを刺激に変える西尾維新さん。変化を楽しむやわらかさが、作品世界を豊かにしている。多作・速筆にして、仕事量は増える一方だが、そのキャパシティの広がりは驚くばかり。西尾さんの好奇心が、不可能を可能にしている。ぜひ「西尾維新大辞展」でその世界に浸ってほしい。



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西尾維新(にしお・いしん)



1981年生まれ。天才が集められた孤島で起きた密室殺人を描くミステリー『クビキリサイクル』で第23回メフィスト賞を受賞、デビュー。同作に始まる「戯言シリーズ」のほか、監督・新房昭之、制作・シャフトによってアニメ化された『化物語』など、著作多数。驚異的な速筆で知られ、今もっとも活躍するクリエイターの一人。




(インタビュー・文:成田おりえ)



■開催情報



「西尾維新大辞展」



開催期間:2017年7月27日(木)〜8月21日(月)



<東京会場>

開催期間:7月27日(木)〜8月7日(月)

時間:10:00〜20:00(入場は閉場の30分前まで。最終日のみ17:00閉場)

会場:松屋銀座 8Fイベントスクエア(東京都中央区銀座3丁目6-1)



<大阪会場>

開催期間:8月9日(水)〜21日(月)

時間:10:00〜20:30(入場は閉場の30分前まで。最終日のみ18:00閉場)

会場:大丸心斎橋店 北館14Fイベントホール(大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目7-1)



料金(税込):東京・大阪会場ともに4種類の絵柄のチケットを期間ごとに用意。詳しくはチケット日程表を展覧会公式サイトからチェック

前売券/一般1,000円、高校生700円、中学生500円

グッズ付き3,000円

音声ガイド付き1,700円

グッズ+音声ガイド付き3,700円

当日券/一般1,300円、高校生700円、中学生500円

グッズ付き3,300円

音声ガイド付き2,000円

※グッズは「辞典型メモ帳」を予定しております

※入場口もぎりの際に前売券と引換えに絵柄付きチケットの半券をお渡しいたします

※グッズ付、音声ガイド付きは一般チケットのみとなり、ローソンチケット限定での販売となります

※グッズ付前売券/当日券のグッズは引換券と交換で会期中会場でお渡し致します。

なお、グッズ付前売券/当日券は、数量限定の為、完売する場合がございます。

また、グッズ付前売券が完売した場合はグッズ付当日券の販売はございません。

※小学生以下無料(大阪会場では小学生のみの単独入場ができません)

※音声ガイドは当日会場でもお買い求めいただけます(1台700円)



公式サイト



公式Twitter:@nisioisin_ex