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埼玉・熊谷市にある「おふろカフェ ハレニワの湯」(入館料1580円/平日10時〜深夜2時)。数年前まではどこにでもあるスーパー銭湯だったが、自然や緑をテーマに大リニューアル。館内には、ボルダリング設備やハンモックなど、他にはない楽しみ方がいたるところにある。今や若者や家族連れなど、週末には1000人以上がやってくる注目のスーパー銭湯だ。


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肝心のお風呂はごく普通。もともとジャグジーや露天風呂など一通り揃っていて、リニューアル前からほぼ手を入れてないという。では何が客を魅了するのか。

人気の秘密1〜独自の仕掛けで1日中楽しめる!

この夏、屋上にある、「水あそびエリア」を覗いてみると、大砲から大量の泡が飛び出してきた。これは石鹸水で作った「泡バズーカ」(500円/夏季限定)。子ども連れの客は「子どもが入れるお風呂は少ないので助かります」と言って楽しんでいた。

この日は別のイベントも開かれていた。設置されていたのはヨーロッパ製の大型サウナテント(1500円)。中でタオルを振り回しているのは熱波師という専門職。熱風を直接浴びると極上の爽快感が体験できる。

連日のようにさまざまなイベントを開催。それを目的に客はわざわざ県外からもやってくる。

人気の秘密2〜人目を気にせず、ダラダラできる

その最大の理由は、休憩スペースに工夫をこらしていること。たとえばフロアにある穴のような窪みで、客がくつろいでいる。中に入ると、周りからの目線が気にならない絶妙なつくりになっている。天井近くには大きな鳥の巣のような箱があり、その中にも人の姿が。まるで秘密基地のようで、ここも人目を気にせずくつろげる。

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他人の目を気にせずダラダラ過ごせる場所がいろいろあるから、客の滞在時間は平均6時間を超えるという。

また、スーパー銭湯の食事といえば、風呂あがりにビールと枝豆というイメージだが、ここのメニューはちょっと違う。例えば鉢植えに見立てたティラミス「ハチウエ」(1479円)。飾りの花も食べられて、中にはマンゴーなど季節のフルーツがたっぷり。屋上ではバーベキューもできる(4000円/春夏限定)。

風呂から食事や遊び、イベントまで、一日中いても飽きない仕掛けが満載なのだ。

「おふろカフェ」は埼玉を中心に全国に広がり始めている。しかもその一つ一つに全く違う特徴がある。

例えば三重・四日市市にある「おふろカフェ 湯守座(ゆもりざ)」(入館料1408円/平日10時〜深夜2時)は、江戸時代の宿場町をイメージした作りになっている。その奥にあるこの店最大の特徴が芝居小屋。お風呂とエンタメが楽しめるスーパー銭湯なのだ。

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赤字施設がV字回復〜脱お風呂戦略の舞台裏


「おふろカフェ」を展開するスーパー銭湯の再生請負人、温泉道場社長・山﨑寿樹(39)は、全国2000カ所以上の風呂に入ってきたマニアだという。

「温浴施設は、近くで流行しているお店をコピー&ペーストした開発になりがちですが、温泉道場では"普段体験できない"ことや、"家で体験できないこと"を大事にしています」(山﨑)

山﨑はこれまでに20カ所以上の温浴施設などを再生してきた。そこには独自の再生法があるという。

「湯守座」では昔ながらのステージ付きの大広間を、桟敷席や升席もある本格的な芝居小屋に改装。大衆演劇にふさわしい雰囲気の空間にした。また、円形の吹き抜けに沿った通路には半個室の休憩スペースを設置。そこにハシゴをつけて隠れ家的な空間もつくった。

風呂以外にコストをかけて、よそではできない体験を提供する。それが山﨑流なのだ。

「"非効率"をすごく大事にしています。効率が良くないものは、『遊び心』だったり、お客様にとって『変わってるな、他にはないな』と思っていただけるものなので、店作りでは大事にしています」(山﨑)

今では地方自治体からも施設再生の依頼がくる。

埼玉・越生町の「オーパークおごせ」。1995年に町が「ふれあい健康センター」として開設した日帰り温浴施設は、利用客は年々減少し、年間1000万円の赤字を出す負の遺産となっていた。それを山﨑はたった1年で黒字化した。

その秘密は屋外に設置されたテントの数々にあった。以前は「日帰り型」だったが、宿泊設備を作って「滞在型」に変えたのだ。

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泊まり方も多種多様。トレーラー型の「グランピングキャビン」の中には、キッチンからリビング、ベッドルームが2つ。5人で利用すれば1泊3520円〜泊まれる。

ちょっとリッチに過ごしたいという人には「サウナスイート」(1泊1万450円〜/4名利用時)。広々としたリビングには暖炉を完備。ジャグジーまでついている。

予約すれば夕食も届けてくれる(「朝・夕食オプション」1人8250円〜)。箱の中からは、サラダや前菜に続いて、メインの肉は生のまま。備え付けのグリルで焼いてバーベキュー気分を味わってもらおうという趣向だ。

ときにはスペシャルな体験イベントも。ヘリコプターの遊覧体験(不定期開催)までできるのだ。

温浴施設再生のカギは「風呂以外」にあると山﨑は言う。

「お風呂以外の部分でお客様により楽しんでいただけるキラーコンテンツを、いろいろな形で作ることによって、ビジネスとしてまだまだ未来はあると思うし、チャンスかなと思ってます」(山﨑)



独自ルールに常連客が熱狂〜苦境の日帰り温泉が大躍進


山﨑の浴施設再生の原点となったのが埼玉・ときがわ町の「玉川温泉」(入館料880円〜)だ。昔から地元客に親しまれている日帰り温泉だが、ここ数年、休日には、遠くから人がやってくるようになった。

客を引きつけているのは「昭和」という時代を感じさせる館内のレトロな風景。昭和にタイムスリップできる日帰り温泉なのだ。

ここにも山﨑が独自の視点で生み出したイベントがある。カラオケ大会だ。ただし、普通のカラオケ大会とはちょっと違う。

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真剣な表情でカラオケを聞いていた客たちが、小さな用紙に数字を書き込んでいる。途中でスタッフがその紙を集めてまわる。実は、このカラオケ大会、歌の上手さを競うのではなく、歌った人の点数を予想する大会なのだ。予想が当たれば200円分の食事券がもらえる。

この点数予想にハマる人が続出。常連客は皆、独自にデータを集めるようになった。歌った人の名前と歌った曲、その時予想した点数と実際の点数を細かく記録するのだ。

何かを「する時間」でなく、「何もしていない時間」に注目する山﨑。埼玉で生まれ育ち、大学卒業後の2006年、コンサルティング会社の「船井総合研究所」に入社。そこで担当したのが温浴施設のコンサルティングだった。

当時、スーパー銭湯は全盛期。風呂に入って食事も楽しめる手軽なレジャースポットとして注目され、全国に1万8000もの施設が乱立する事態に。結果、業績が悪化する施設が続出。山﨑は生き残りのための改革案を提案して回った。しかし、聞き入れてくれるオーナーはほとんどいなかったという。

「あくまで我々はアドバイザーなのでというか、サポーターでしかないので、『本当はこうやったらいいのにな』と思うことが実現できませんでした」(山﨑)

ならば自分でやってみたい。そんな思いを膨らませている時、客足が伸びない玉川温泉から「事業を引き継いでほしい」と声がかかる。そして2011年、温泉道場を立ち上げ、玉川温泉の再生に乗り出したのだ。

「メラメラと燃えるものがあって、『僕がやってみせますよ、見ていてくだい』と」(山﨑)

しかし、目立った改革もできないまま、時間だけが過ぎていった。そこに転機が訪れる。それは仲間うちから客を増やそうと友人を誘った時のこと。答えは「結構、遠いしな。温泉以外に何か面白いものあるのか?」だった。その言葉に、温泉がいいだけでは客は来てくれないのだと気づいた。

全面改装する資金もない中、どうすれば客に来てもらえるのか。考え抜いた山﨑がたどり着いたものこそ、「昭和レトロ」というコンセプトだった。

「今の自分たちができる制約条件の中で、店づくりをしていこうと思った時に、もともとの建物を生かせる。これしかないですね」(山﨑)

山﨑は、建物の古さを逆手にとって懐かしいアイテムを少しずつ買い集め、昭和を疑似体験できる空間を作り上げていく。

食事のメニューも変えた。「給食おやつ」(500円)は給食で人気だった「揚げパン」入り。「レトロプレート」(1380円)には喫茶店の定番メニュー「ナポリタン」などが入っている。昭和の味を楽しめるようにしたのだ。

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売店も一新。今ではあまり見かけなくなった駄菓子を並べて、中高年には懐かしく、若い世代には新しいと感じてもらえる場所に変えた。

そうするうちに常連客にも変化が。懐かしい昭和のアイテムを客がどんどん持ってきてくれるようになったのだ。

10月10日は銭湯の日、玉川温泉であるイベントが行われた。始まったのは綱引き。近隣の人々や常連客を巻き込んだ運動会だ。地元と客が交流できる秋の風物詩にと、温泉道場が仕掛けた。汗をかいた後は昭和レトロなドラム缶風呂へ。

お風呂を柱にして地域を盛り上げる。それが温泉道場のやり方だ。

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日本初!海なし県の埼玉で意外すぎる新ビジネス


埼玉・神川町にある「おふろカフェ 白寿の湯」。ここで山﨑は、お風呂とは関係ない新たなビジネスを始めていた。

巨大な水槽の中で泳いでいるのはサバ。海なし県の埼玉で、あえて海の魚、サバの養殖に乗り出していたのだ。

「最初はみんな二度聞きされます。『サバ?』って」(山﨑)

海なし県でのサバの養殖は日本初。人工海水をろ過し、循環させるから、アニサキスなどの寄生虫の心配もないという。

今後は客に釣ってもらったり、食堂のメニューとして提供するという。この事業で雇用も増やしていく予定だ。

〜村上龍の編集後記〜
通算約2000カ所以上の温浴施設を利用する中で、山﨑さんは不満に感じることがあった。風呂以外、のんびりくつろげるスペースがない。そう言えば、わたしも子どものころ、家族で温泉に行ったが、風呂に入ったあとは何もすることがなく、家に帰っていた。そこで「おふろカフェ」が生まれる。おしゃれにだらだらした時間を過ごせる。これは革命的だった。極端に言えば、風呂に入らなくてもいい。ただし、風呂はいつもお湯をたたえている。幸福感の核として風呂はひっそりと存在する。

<出演者略歴>
山﨑寿樹(やまざき・としき)1983年、埼玉県生まれ。2006年、専修大学を卒業後、船井総合研究所に入社、温浴ビジネスチームに所属。2011年、温泉道場創業。

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