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東京・墨田区のスカイツリーの商業施設「東京ソラマチ」にできた期間限定ショップ、クラダシに長い行列ができていた。客のお目当てはスーパーに並んでいそうな食料品だが、その値段が衝撃的だった。


「マロニーちゃん」は58%引きの194円。「キッコーマン」の鍋つゆ「具鍋 豚キムチ」は71%引きの114円。「BOSCO」のオリーブオイルは24%引きで売られていた。しかも賞味期限はちゃんと半年以上残っている。どうしてこんなに安く売れるのか。

クラダシの取引先の一つ「ニコニコのり」。家庭用ではトップシェアを誇る海苔メーカーだが、豊島区の東京支社に営業から戻ってきた営業1課・村田昂生さんは浮かない顔。車には山ほど返品が積まれており、卸先の問屋から40箱、引き取ってきたところだと言う。

「3分の1ルールと呼ばれるもので、賞味期間の3分の1を過ぎると、返品の引き取りが必要になってきます」(村田さん)

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例えば賞味期限が9カ月の青のりの場合、「ニコニコのり」はまず問屋に売る。問屋はこれを小売店に卸すのだが、製造日から3分の1、すなわち3カ月を過ぎたら小売店は仕入れてくれない。賞味期限が6カ月も残っているのに、「ルールだから」と返品されてしまうのだ。

「ニコニコのり」などのメーカーは、こうして行き場を失った商品を、クラダシに格安で買い取ってもらっているのだ。

「まだまだ賞味期間が残っているので通常品と変わらない香りと品質になっています。もったいないし、食品を粗末にするのはよくないなと」(村田さん)

これまでメーカーは、在庫を抱えるとディスカウント・ストアに投げ売りしていた。しかし「安売りする商品」だと思われたくないメーカーは、コストをかけて廃棄していた。そこでクラダシは会員制で、しかも社会貢献になる仕組みを作り、「それなら」と、メーカーは在庫を格安で売ってくれるようになった。

日本のフードロスは年間500万トンを超える。約9000億円分もの食品が、まだ食べられるのに捨てられ続けている。こんなフードロスを減らしたいと作られたクラダシは創業して8年のベンチャー企業だ。

東京・品川区。お昼時にその本社を訪ねると、扱っている食品を使ったランチ試食会の真っ最中。おなじみ「松屋」のカレーや「大阪王将」のチャーハンなどが並ぶ。商談などで受け取ったサンプル品がたまると、こうしてみんなで味を確かめているのだ。

創業社長の関藤竜也(51)は、フードロス削減という課題にビジネスで立ち向かう。

「食品ロスは誰のためにもなっていないから改善したいという思いです。みんなでお得に削減していきましょう、と」(関藤)

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1000社と取引〜在庫に悩むメーカーの駆け込み寺に


クラダシユーザーの多くは会員制のショッピングサイトを利用している。期間限定ショップと違い、ネットでは箱売り。48本入りのカルピスウォーターは49%オフ。吉野家のレトルト牛丼は30袋入りで33%引き。賞味期限は半年あるから、量が多くても食べきれる。

扱うのは大手の商品ばかりではない。「人形町今半」の黒毛和牛ハンバーグや国産マグロの切り落とし800グラムといった商品も格安で並ぶ。思わず試してみたくなる食品が実に1000種類。このご時世にぴったりのサービスを展開している。

水産大手の「マルハニチロ」。通常1400円で卸している業務用の冷凍イカがだぶつき、クラダシに相談に来た。「気合を入れた価格」と自信満々だったが、バイヤーの荒正明から「通常の金額の50〜60%引きで販売したい。ご提示額から9%ほどの値引きを相談したい」。想定外の数字を求められ、困惑したが、「150キロを全量買取りできます」と言われて、もう一度電卓を叩く。結局、「7%の値引き」で商談は成立した。

「いつも予想の価格を超えてくるので、正直、厳しい部分もありますが、フードロスの削減や寄付などで、皆さんに喜んでいただけるのなら、クラダシさんにお願いしたい」(「マルハニチロ」担当者)

クラダシは売り上げの一部をさまざまな分野の社会貢献団体に寄付している。メーカーはこうした活動を支えているとアピールできるから、クラダシを選んでくれるのだ。

「単なる安売りではなく、ブランドや企業価値が向上できるように寄付の仕組みを入れたのが強みになっていると思います」(関藤)

創業から8年で、現在では大手を含め約1000社と取引。在庫処分に悩むメーカーにとって、駆け込み寺的存在となっている。外食業界が危機に陥ったコロナ禍でも貢献した。

東京・港区の「安ん座」は車海老の養殖会社が営む海老料理の名店だ。養殖事業を手掛ける車海老日本 社長・谷邊靖泰さんによると、コロナの影響で商品が売れなくなり、売り上げが8割ダウンしたという。30トンもの車海老が行き場を失い会社は危機に陥った。

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「エビが育っているのに出荷できない。在庫は外注の倉庫に預けるが、年間400万円の保管料が一時は1200万円になりました」(谷邊さん)

そんな八方塞がりの状況を打開したのがクラダシ。保管にお金がかかる車海老を1300万円で全て買い取った。

「在庫で寝かして毎月保管料を払っていたのが1300万円になった。救世主です。助かりました」(谷邊さん)

仕入先からも消費者からも喜ばれているビジネスだが、もちろんクラダシも「儲かっています。日本一安く仕入れて、お得な価格で提供する。私たちもその対価として一定の流通コストをいただける。これまでの廃棄する『マイナスのコスト』をプラスに変えることができるので、利益をメーカー、消費者、流通で配分できます」(関藤)と言う。

現在、サイトの会員は35万人まで拡大。コロナが追い風となり、売り上げは過去最高の20億円を超えた。



食品廃棄が年間500万トン〜「百連敗の男」が大逆転


「フードロス削減」を掲げるクラダシには「仕入れた商品は全て売り切る」というルールがある。しかし実現するのはそう簡単ではない。この日、販売期限を迎えていたのは「緑豆はるさめ」。59%引きで販売していたが、22箱がまだ売れ残っていた。大容量10袋のセット22箱を今日中に売らなければならない。割引率を67%まで上げたところ、10時間後、無事完売した。

大量の春雨を買った客のひとり、東京・調布市の大島直子さんはクラダシのヘビーユーザーだった。他にも、きし麺やそうめんの詰め合わせセットを3箱、冷凍の焼き芋「紅天使」5本入り8袋などを買っていた。そこへ、奥さん仲間がやって来た。あらかじめ連絡を取って共同購入しているのだ。こんな量でも、3家族でシェアすれば食べきれるというわけだ。

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1971年、大阪生まれの関藤。父・功介は曲がったことが大嫌いという熱血漢だった。

「頑固一徹で信念を通す人で、この世に生を受けたなら、『命を世の中のために使うんだ』と」(関藤)

関藤は食で世の中の役に立とうと総合商社に就職。赴任先は「世界の工場」と呼ばれていた中国だった。そこでその後の人生を左右する光景に遭遇する。現地の職員に連れられて食肉工場を視察すると、日本のコンビニ用のチキンがコンテナ単位で大量に廃棄されていたのだ。

「味は一緒で食べられるのに、形や重さの違いで大量に廃棄される現場を見て、衝撃的でした。『これを全部捨てるんだ』と」(関藤)

こんな食品廃棄は見過ごせない。「廃棄される食品なら安く買い取れる。それを売らせて下さい」と上司に提案した。しかし答えは「人の食いカスで商売するな」。大量生産に廃棄は付きもの。「効率のいいビジネスをしろ」と、諭されたのだ。

「これはいつか必ず大きな社会問題になる。目線の低さにもショックを受けました」(関藤)

父から言われた言葉が関藤を動かす。2014年、関藤はフードロスの削減を目指す会社クラダシを、たったひとりで立ち上げた。

関藤はまず食品メーカーを回り、廃棄する食品を売ってほしいと掛け合った。しかし、「安売りしてブランド価値を下げたくないから仕方なく廃棄してる」「うちの商品が売れ残っていると言っているようなもの。イメージダウンになる」と、100社ほど回ったが、全て断られた。

「本当に100戦100敗。100社に営業して1回も当たらない。なら1000回打席に立とうよと」(関藤)

関藤は諦めず、取引してくれるメーカーを求め、足を棒にし続けた。そしてついにきっかけをつかむ。それが飲料メーカーの「ダイドードリンコ」だ。

当時の担当者で、現社長の中島孝徳さんは、関藤の粘りが強く印象に残ったと言う。

「『そうですか、では引っ込めます』ということはないんだろうなと。諦めるという感じがしなかったです」(中島さん)

中島さんも最初は取引を断っていたが、ある訳あり商品が流れを変える。それが備蓄用の水。賞味期限が1年に迫る中、3万ケースが返品され、廃棄の決断を迫られていた。

「ちょっと腕の見せどころ、チャンス到来と思いました」(関藤)

関藤は格安の値をつけクラダシのショッピングサイトで販売。3万ケースを半年で売り切った。

「あれを自社で全部売るのは難しかった。すごいなと思いました」(中島さん)

その後、フードロスへの関心が高まると、大手メーカーも続々と参加。関藤は新たな社会貢献ビジネスを作り、父親の言葉に答えた。

「『世の中の仕組み上、それは仕方がない』と言われるが、それも誰かが決めたんでしょう。そこは改善したいと思うし、『仕方がない』では終わらせない」(関藤)

一次産業を救う新戦略〜食品以外にも拡大中


厳しさを増す漁業。和歌山県の漁師町・すさみ町も「昔は60隻ぐらい漁船があったのが今は20隻ない。この仕事は儲からない」(漁師のひとり)と言う。

そんな町で、関藤は新たな取り組みを始めていた。暗いうちから漁船に乗り込む。一緒に来たのは社会貢献に興味を持つ大学生たちだ。

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沖に出ると、疑似餌を使ったこの地域伝統のカツオ漁が始まった。あがったのはトロのような身を持つ高級魚、スマガツオだ。

関藤が取り組むのは、学生たちにこうした一次産業を体験させ、問題点を肌で感じてもらうインターンシップの「クラダシチャレンジ」という企画。交通費、宿泊費などは全てクラダシ持ちだ。

早速、学生たちも釣り糸を引き上げる。魚がかかっている様子。だが、揚がったのはカツオではなくオキザワラ。体はサワラ、顔はカマスに似た白身魚だ。

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実はこれが漁師には大問題だった。カツオの水揚げ量は10分の1ほどに激減し、こうした外道が目立つようになった

「浜値で1キロ200〜300円。カツオの10分の1ぐらいにしかならない」(関藤)

あまりの安さに捨ててしまう漁師もいるほど。燃料費も高くなっていて、商売にならないと言う。これが日本の漁業の現実なのだ。

「初めて知りました。値段がつかないのはすごく残念」(中京大学・梶本彩葉さん)

「もったいないし解決しないといけない課題だと思いました」(立教大学・川原紀春さん)

関藤は社会の課題にビジネスで立ち向かう人材を育てようとしている。

一方で、フードロスにとどまらず、関藤は新たな課題解決に向かって販売アイテムを拡大している。

食品以外の商品も販売。例えば国内トップシェアのメーカーが作った高機能スーツ「クリアエフェクト」。特殊素材でできていてケチャップまで弾く優れものだ。だが、売れない。

「コロナによるリモートワークなどでスーツを着る機会が減り、いわゆる冠婚葬祭などのイベントも減ってスーツを出荷できなくなりました」(大栄既製服 社長・小川哲央さん)

そこでクラダシの出番。このスーツを68%オフの9900円で売った。

「おそらく200着強は売れた。非常に助かっています」(小川さん)

食品以外の「もったいない」もなくしていこうというわけだ。

〜村上龍の編集後記〜
会員になって商品を買った。最初は焼き菓子にしたが支援金額が20円だった。次は「馬刺し・特選霜降り」にした。300gで9720円で、支援金額も300円近かった。焼き菓子も馬刺しも、おいしいので、社会貢献として支援しているという気持ちがどこかに行っていた。しかし、恐ろしい手間がかかっている。メーカーを説得して商品を買い取り、買い手に商品を届けるまで、ややこしいことがいくつもある。賞味期限がパンクしたら一発で信用を失う。物流と流通に深い知見が必要だ。

<出演者略歴>
関藤竜也(せきとう・たつや)1971年、大阪府生まれ。1995年、京都外国語大学卒業後、住金物産(現 日鉄物産)に入社。2002年、コンサルティング会社に転職。2014年、グラウクス(現クラダシ)設立。

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