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北陸の幸を堪能できる〜極上ネタの金沢まいもん寿司


横浜市・たまプラーザ。駅から歩いて5分ほどの閑静なエリアに、週末には1日およそ700人が訪れるという人気の回転寿司店「金沢まいもん寿司」たまプラーザ店がある。

「金沢まいもん寿司」は1999年に石川・金沢市で創業。首都圏にも進出し、現在は全国で21店舗を展開している。普通の回転寿司ではなくグルメ回転寿司。値段を見てみると一番安い皿で165円、高いものは1540円になる。客単価で見ると100円系の低価格回転寿司チェーンの2倍から3倍だ。

客が「ちょっと奮発してでもおいしい魚が食べたい」と言うように、ここには少々高くても食べたい金沢をはじめ北陸産の絶品ネタが揃っている。

例えば「がすえび」(680円)。甘エビより甘いと言われるが、足が早いため通常、生では北陸以外にはめったに出回らないという。

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「北陸最強の貝」というのは「ばい貝」(570円)。近年、漁獲量が激減している希少なネタで、上品な甘さとコリコリした食感がクセになる。

魚も極上のものを取り揃えている。例えば「かさご」(680円)。通常、煮付けにされるが、寿司にしてもおいしい高級魚だ。これらの寿司ネタは主に金沢から直送される。

新鮮なだけではない。多くの回転寿司店では、工場で下処理した魚を使っているが、ここでは職人が店で一から捌いて握っている。職人のひとりは「魚をいじっているのは楽しいです。『お客様に食べてもらいたい』という気持ちになる。寿司店は基本がそこだと思います」と言う。

人気の高級魚ノドグロは長崎から。「関東の回転寿司で最初にノドグロを出したのがうちだと思う」とのこと。脂の乗ったノドグロは炙りが人気で、「のど黒あぶり」(900円)はたまプラーザ店だけで1日に150皿も売れるという。

王道の「本まぐろ大とろ」(1010円)の本マグロは熊本の天草から。「かにがんこ盛り」(1010円)は、カニがてんこ盛り。「山形牛サーロインあぶり」は一皿1540円の最も値が張るグルメ寿司だ。

米は数種類の石川県産を寿司に合うようブレンド。酢も石川県で100年続く老舗の蔵に、専用の寿司酢を調合してもらった。

誕生日などの記念日にたまのプチ贅沢を求めるファミリー層もつかんで「金沢まいもん寿司」は繁盛店となった。

わざわざ東京から金沢本店に〜高級魚を仕入れて差別化


拠点となっている石川・金沢市。北陸の海の幸が集まる近江町市場には寿司店が多い。実は金沢は寿司の年間支出額が日本一。そんな寿司王国・金沢でいつ行っても行列の絶えない店が「金沢まいもん寿司」本店だ。

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「東京から来た」という客に聞けば、わざわざ本店に来るのは、他所では滅多に食べられない珍しいネタが味わえるからだという。

例えば幻の高級魚ともいわれる「なめら」(570円)はもっちりした食感と甘味が特徴。ヒレが翼のように大きく変わった形の「ほうぼう」(455円)も希少な高級魚だ。高級店でも出てこないネタのオンパレードに、客は遠くからでも足を運んでくる。

その本社は、住宅街にあるログハウス風の建物だった。「れっきとした寿司屋の本社ですよ。前に設計事務所をやっていた時の名残です。もともと建築家でした。お寿司は一切握れない」と言うのは、「金沢まいもん寿司」を運営するエムアンドケイ社長・木下孝治(70)だ。

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木下は一級建築士の資格を持ち、ここで工務店を開いていた。それが43歳で突然回転寿司店を始めたのだ。建築士でもある木下がこだわったのが店舗のデザインだ。

「非日常空間にして、家庭や他の和食店とは違う設えにしました」(木下)

店内は加賀百万石の伝統をふまえた作り。茶屋街で見られるベンガラの赤に、輪島塗の黒。そして金箔をイメージさせる彩色を施した。

「付加価値でどこまで差別化を表現できるか。『3万円する店に行ってきたけど、よっぽどこっちのほうがうまい』となればいい」(木下)

それまで「安い・早い」が売りだった回転寿司だが、木下は、よそにはない高級感という付加価値をつけて、業績を伸ばしてきた。その強さの源は仕入れ力にあるという。

金沢市中央卸売市場。バイヤーの仕入れ部・岡林潤が仕入れで心掛けているのは、「観光客のお客様がよく来られるので、できるだけ石川県産の魚を中心に探す」ことだという。

仕入れの力強い味方が仲買人の丸魚商店の北橋翔太さん。目利きの仲買人にセリ落としてもらうことが、いい魚を手に入れる一番の近道だ。

仲買人たちはセリ落とすと、ケースの中に自分の番号の札を入れていく。

「誰が一番、この競り場でいい魚を競り落としているか。『あ、この人が一番買っている』と。関係を築いていく中で、『まいもん寿司のために』となりました」(岡林)

この日、岡林は上品な脂が乗った人気の黒ムツや幻の魚とも言われるクエなど、狙っていた高級魚を手に入れた。

こうした独自の強みを活かし、「金沢まいもん寿司」の売り上げはここ10年、ほぼ右肩上がりで伸び続けている。

「大手の回転寿司チェーンと対抗して100円寿司で勝てるわけない。うちは大手が入ってこれない部分を深掘りしているんです」(木下)



一級建築士が「軽いノリ」で〜行列のできる寿司屋のオヤジに


11月6日、石川・金沢港。この日は待ちに待ったカニ漁の解禁日だ。「香箱がに」はズワイガニのメスで漁期は11〜12月限定。「金沢まいもん寿司」では、欠かせないネタだ。

解禁初日、北陸にある店のために仕入れた数は約1000杯。職人たちが大急ぎで寿司ネタ用に仕込んでいく。使う部位は、脚はもちろん、お腹をひらくと「外子」という成熟した卵が出てくる。さらに甲羅をあけると「内子」という卵巣が。脚の身はスリコギを使って出していく。「食べるのは一瞬ですが、そこまでの段取りに手間がかかります」と言う。

完成したのが、身をはじめ「外子」や「内子」など全ての部位を乗っけた冬限定の贅沢な「香箱がに軍艦」(1010円)。翌日の本店には、月曜日にもかかわらず、これを目当てにあふれんばかりの人がつめかけた。

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木下は1951年、金沢で工務店を経営する家庭に生まれる。25歳の時、難関の一級建築士試験に一発で合格。その後27歳で父の工務店を引き継いだ。

転機が訪れたのは40代になった頃。地元・金沢で開かれた異業種交流会だった。回転寿司のレーンを作っている会社の社長が、「素人のあなたが回転寿司をやってみるのも面白いかもしれない」と声をかけてきた。

「『じゃあちょっとやってみようか』という軽いノリなんです。とにかく自分がやった店にお客さんが来てくれるのは面白いのではないか、と」(木下)

木下は工務店を人に任せ、42歳にして全く畑違いの回転寿司へ参入することを決めた。

とはいえ、寿司王国の金沢でいきなり素人が始めるのはあまりにも無謀。そこで木下は「海なし県」の岐阜県に目をつけ、岐阜県羽島市に一棟のプレハブ小屋を作った。

「初めに戦略として鮮魚店をやったんです。魚の名前も知らないのに、金沢市中央卸売市場の仲買人に協力してもらって、10tトラックにいっぱいにして土曜日の朝一番に届けた。それを岐阜の羽島で並べました」(木下)

いざ始めてみると、いい魚を扱う店ができたと評判になり客が殺到。その時、手伝ったのが木下の妻、眞知子さんだった。

「全く別の世界で売り子になるのは結構、楽しかったです。お客様の接客や魚の知識もその時に得ました。でも家に帰る頃には疲れて、お風呂で寝て2、3回溺れそうになりました」(眞知子さん)

半年後、店の隣に回転寿司店を開くと「いい魚を売っている魚屋の回転寿司ならおいしいに違いない」と、たちまち行列ができる繁盛店になった。

自信を持った木下は1999年、満を持して金沢に回転寿司店を開業。グルメ回転寿司という新たなジャンルを切り拓き、3年後には首都圏に進出した。

勢いはとどまらず、2006年にはタイ、フィリピンに海外出店を果たし、東京・銀座の一等地にビルを借り切って高級寿司店も開業した。そこに2008年、リーマンショックが起きる。世界経済の大混乱は「金沢まいもん寿司」にも飛び火した。

「リーマンショックで銀座の灯が消えて、周りの飲食店も3分の1くらい撤退して、うちの店もお客さんが来ない」(木下)

わずか数年で、銀座や海外からの撤退を余儀なくされた。それでも地道にいい寿司を出し続け、今では全国に21店舗を構えるまでになった。

全国大会で優勝者を輩出〜寿司職人の技と接客力


回転寿司業界は大激戦。生き残るため木下は職人の教育に力を入れ始める。

この日は職人の実技試験。課題は2分以内に8皿を完成させること。速さはもちろん、出来栄えも求められる。合格すると給料にも反映されるから、モチベーションアップにつながる。

寿司職人は客との会話も多いから、「トーキングゲーム」という研修も。トランプのようなカードを裏返しにすると「将来どんな仕事をしてみたい?」など、さまざまな質問が書いてある。それに職人が答えるのだ。

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「話す力の訓練です。なぜお客様に話しかけられないかというと、言葉をどう使えばいいのか、表情をどうすればいいのか、不安だから怖い。それを繰り返し訓練するんです」(人財開発教育部・渡部晃市)

こうした人材育成が、今年大きな花を咲かせた。東京・世田谷の三軒茶屋店の入り口には「全日本回転寿司MVP選手権優勝」のポスターが飾られていた。これは握りの技術やスピード、盛り付けの美しさ、さらには接客も審査してグルメ系回転寿司職人の日本一を競う大会だ。

この大会で今年、三軒茶屋店の店長、職人歴22年の内添浩が優勝したのだ。

その腕前がいかほどのものか。例えば寿司の重さは「2貫で66グラム。大会では一皿プラスマイナス5グラム以内でボーナス点が入る」(内添)という。

内添が店で次々と握っていく寿司は66グラムか67グラム。修練で手に染み込ませたのは「1グラム米28粒ぐらいの感覚」(内添)だという。

「金沢まいもん寿司」の職人はみな、この境地を目指している。

地方の回転寿司店を救え〜まいもん寿司流経営術


「金沢まいもん寿司」は地方の回転寿司店の支援もしている。群馬・伊勢崎市にある「群馬いちもん」というローカルチェーン。店先の看板には「金沢まいもん」の文字がある。

「『いちもん』創業者の社長が体調を崩された。そこで『金沢まいもん寿司』に『経営してくれないか』と委任が来ました」(取締役・木下隆介)

数年前「いちもん」は、経営者の体調不良や近隣への大手チェーンの出店が原因で、経営不振に喘いでいた。そこで、従業員を守るため「金沢まいもん寿司」が経営を引き継いだ。

そのときに方針としたのが「群馬を盛り上げよう。そこで『金沢まいもん寿司』でやって来たことを、形を変えて群馬でやろう、と」(木下)。

そこで始めたのが群馬の食材を使った寿司の提供だ。さまざまな地元企業を巻き込んで、コラボ商品を開発。個性的なネーミングで売り出した。

例えば「たむらや握り」(380円)。真鯛をめくってみると、群馬県民にはおなじみの老舗漬物店「たむらや」の味噌漬け大根が。「ギンヒカリ」(380円)は群馬の養殖場が開発した、銀色に輝くブランドニジマスだ。こうした群馬ならではの寿司を生み出している。

中でも一番人気が「ブラックダイヤ」(280円)。その正体は大粒の国産大豆を使った黒豆納豆だ。これも群馬・甘楽郡のメーカー、下仁田納豆とのコラボで実現した。

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赤松を薄く削った経木(きょうぎ)で包む、昔ながらの製法で今も作り続けているこだわりのメーカーだ。

「『よし、今週はこんなに注文が来たぞ』とガッツポーズをしたりしています」(「下仁田納豆」南都由美さん)

地元企業を巻き込んだ寿司で群馬の活性化を目指している。

〜村上龍の編集後記〜
木下さんは、回転寿司一筋ではないのに、回転寿司のことを誰よりも考えている。42歳で「回転寿司を素人がやったら面白いぞ」と言われ、デザインが好きだったので、店舗デザインやプロデュースをするのは確かに面白そうだと参入することにした。参入のフットワークが軽い。創業するにあたり、まずは鮮魚市場を開き、魚屋が展開している寿司屋を演出した。ビジネスは大成功したが、自分の魂が喜ぶことをやっている。朝起きて瞑想を続けているらしい。何を想うのだろうか。ぜひ聞いてみたい。

<出演者略歴>
木下孝治(きのした・こうじ)1951年、石川県金沢市生まれ。1970年、金沢市立工業高建築科を卒業後、父の建設会社に入社。1978年、(株)木下建築デザイン事業所社長就任。1999年、株式会社エムアンドケイを創業し社長に就任。

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