「春のスプリント王決定戦」高松宮記念は、重賞の中でも屈指の荒れるレース。毎年のようにフルゲートの18頭で争われ、枠順が結果を左右することも少なくなく、その上、雨に祟られて馬場が悪化することも多い。

良馬場でおこなわれたのは過去10年で3回しかなく、とりわけ、直近4年はいずれも重か不良馬場での開催。そして、2024年も例に漏れず重馬場での開催となった。

また、出走18頭中、スプリントGⅠ勝ち馬は2頭のみというメンバー構成で大混戦の様相。人気は割れて最終的に6頭が単勝10倍を切り、その中でルガルが1番人気に推された。

デビュー5戦目から芝に転向したルガルは、その初戦こそ2着に惜敗するも、続くリステッドの橘Sを圧勝。芝での初勝利をあげた。以後、オープンや重賞で勝ちきれないレースが続いたものの、前走のシルクロードSで重賞初制覇。57.5kgの重い斤量を背負いながら、2着に3馬身差をつける完勝だった。

中距離で強さを発揮するドゥラメンテ産駒ながら、母父ニューアプローチは1998年の当レース勝ち馬シンコウフォレストの半弟。血統面もむしろ短距離向きで、GⅠ初制覇が期待されていた。

これに続いたのが牝馬ナムラクレア。小倉2歳Sを制して以降、毎年のように重賞を勝利し、1200mの重賞を計4勝。2023年の当レースでも2着するなど、頂点まであとわずかのところまで迫っている。

前走の京都牝馬Sは勝ち馬とタイム差なしの2着に惜敗したものの、スプリントGⅠの前哨戦に1400mのレースを選んだのは今回が初めて。これまでと違うローテーションで、悲願のビッグタイトル獲得が期待されていた。

そして、3番人気となったのが同じく牝馬のママコチャ。GⅠ3勝ソダシの半妹である本馬が初めてスプリント戦に出走したのは、わずか3走前。その北九州記念で2着に好走すると、続くスプリンターズSでGⅠ初制覇を成し遂げ、いきなりこの路線の頂点を極めた。

前走の阪神Cは5着に敗れるも、前走から距離短縮で臨むパターンは4戦3勝2着1回とパーフェクト。秋春スプリントGⅠ統一なるか、注目を集めていた。

以下、重賞2連勝中で充実一途のトウシンマカオ。香港からの刺客ビクターザウィナー。スプリンターズSでママコチャにハナ差の惜敗を喫したマッドクールの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、わずかに好スタートを切ったのがマッドクールとビクターザウィナーの2頭。その中からビクターザウィナーが逃げ、マッドクールの外にウインカーネリアンがつけてルガルが4番手。さらにママコチャが差なく続いて、その後ろはトウシンマカオなど3頭が横一線となった。

一方、中団はメイケイエールが単独で9番手を進み、その1馬身半後ろを、同じミッキーアイル産駒のナムラクレアがソーダズリングとともに併走。一方、そこから3頭を挟んだ後方4頭は先団に比べてややバラバラの隊列となり、モズメイメイが最後方を追走していた。

600m通過は34秒9で、重馬場を考慮してもやや遅いペース。前から後ろまでは13、4馬身ほどの差で、出走18頭でもそこまで縦長の隊列にはならなかった。

その後、3〜4コーナー中間でママコチャが3番手まで進出。ただ、それ以外、隊列に大きな変化はなく、4コーナーで逃げるビクターザウィナーが馬場の中央に進路を切り替える中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、内から5、6頭分のところに進路をとったビクターザウィナーが逃げ込みを図り、リードは1馬身。外からウインカーネリアン、内ラチ沿いからマッドクールが迫り、坂の途中で今度はマッドクールが先頭に立った。

一方、ビクターザウィナーとウインカーネリアンの2番手争いに加わってきたのがナムラクレアで、残り100mで単独2番手に上がると、そこからさらに末脚を伸ばしてマッドクールを猛追。ゴール直前では一完歩ごとに差を詰め、最後は馬体を併せたものの、これをアタマ差しのいだマッドクールが1着でゴールイン。わずかに及ばなかったナムラクレアが2年連続2着となり、3馬身差3着にビクターザウィナーが続いた。

重馬場の勝ちタイムは1分8秒9。2走前のスプリンターズSでハナ差涙を飲んだマッドクールが、今度は接戦をものにして重賞初制覇とGⅠ初制覇を同時に達成。春のスプリント王に輝いた。

また、同馬を所有するサンデーレーシングは、史上初となる障害を含む国内GⅠ完全制覇となった。

各馬短評

1着 マッドクール

好スタートから番手を確保し、枠を最大限に活かした競馬。流れが落ち着いたことで展開にも恵まれ、最後は2着馬に迫られるも、死闘の末にスプリンターズSの雪辱を果たした。

およそ1年間勝利から遠ざかっていたが、まだキャリア12戦目の5歳馬で、今回を含めて全6勝中4勝を中京であげているコース巧者。大切に使われているため消耗も少なく、前走から体重を18kg増やしていながらの勝利だった。

2023年の覇者ファストフォースがそうだったように、スプリント路線は高齢馬でも活躍する馬が多く、まだまだ成長中の本馬のさらなる活躍を期待したい。

2着 ナムラクレア

道中は中団に待機し、マッドクールと同じく内ラチ沿いを追走。直線も、同馬が通った進路をなぞるように末脚を伸ばし、残り100mから一気に差を詰めたものの、わずかに届かなかった。

1400m以下で複勝圏内を外したのは2022年のスプリンターズSだけと非常に安定しており、高松宮記念は2年連続の2着。他、スプリンターズSと桜花賞で3着が1回ずつで、GⅠの舞台でも実績は申し分ない。

展開などを踏まえれば、今回、最も強いレースをしたのはこの馬。必要なのは運だけというところまできている。

3着 ビクターザウィナー

好スタートから先手を切ってスムーズな逃げ。ペースを上手く落とすことにも成功した。

その後、4コーナーから直線入口にかけて馬場の中央に持ち出されるも、1、2着は内を通った馬。結果論になってしまうが、内を通っていれば……と思わざるを得ないようなレースだった。

それでも、スプリント界では世界トップクラスの香港馬たる走り。地元のレースはもちろん、スプリンターズSに挑戦することがあればノーマークにはできない。

レース総評

前半600m通過は34秒9、同後半が34秒0=1分8秒9。スプリント戦にしては珍しく後傾ラップだった。

過去、JRAのスプリントGⅠで前半600m通過がこれより遅かったのは、不良馬場でおこなわれた2023年の当レースだけ。短距離戦は、ただでさえ逃げ先行有利であり、道悪ではなおさら後方待機組にとって厳しいレースとなるが、この展開ではお手上げ。10着までに入った馬のうち、4コーナーを10番手以下で回ったのはナムラクレアと5着ロータスランドの2頭だけだった。

また、前述したとおり、高松宮記念は枠順が結果を左右することも少なくないレース。中京芝1200mはスタートから3コーナーまでの距離が短く、基本的には内枠有利、外枠不利とされているが、2021年や23年のように、馬場が渋れば外枠勢が台頭することもある。

ただ、レース当週は土日とも重馬場ながら、内枠からスタートして直線でも内に進路を取った馬が複数好走。土曜日は、芝の6レース中4レースで。日曜日も、メインレースの前におこなわれた芝の6レース中4レースで、少なくとも1、2枠のどちらかが連対し、高松宮記念も結果的には1、2枠のワンツー。これら2頭は直近2回の国内スプリントGⅠ2着馬で、なおかつスプリンターズSの2、3着馬。実績は明らかに上位だった。

勝ったマッドクールはアイルランド産馬で、父はダークエンジェル。アイルランド産馬は3月好調で、重賞ではフィリーズレビューを制したエトヴプレ、ファルコンS3着のソンシに次ぐ好走だった。

一方、母マッドアバウトユーも同じくアイルランド産馬で同国の重賞勝ち馬。他、愛1000ギニーなどGⅠで2着2回や、フランスのGⅠマルセルブサック賞3着の実績がある。

また、マッドアバウトユーの父は、現在では直系がほとんどいないトウルビヨン系の種牡馬インディアンリッジ。その父アホヌーラはダークエンジェルの父母父でもあり、マッドクールはアホヌーラ4×3のクロスを保持している。

さらに、マッドクールと3着ビクターザウィナーは、サンデーサイレンスの血をまったく持たない馬。サンデーサイレンスをまったく持たない馬が高松宮記念で連対するのは、2019年1着のミスターメロディから数えて6年連続となった。

対して、4着以下に敗れた馬の中で触れたいのが、1番人気で10着に終わったルガルである。

まず、スタートに関しては前走ほどではなかったものの、五分に出てすぐに好位を確保。3コーナーでウインカーネリアンに寄られる場面もあったが、ほとんど影響のない範囲だった。

ところが、直線に向いて坂の途中で末脚が鈍ると、そこからはぱったりと止まり見せ場なく敗れてしまった。過去の戦歴を振り返ると、芝転向後は京都と新潟しか走っておらず、坂のあるコースは今回が初めて(ダートは中京と阪神で4戦1勝)。不良馬場の橘Sを5馬身差で圧勝しているだけに道悪が苦手とは思えず、坂が苦手なのかもしれない。

もしそうだとすると、スプリンターズSがおこなわれる中山競馬場でも力を発揮できない可能性がある。そのため、メンバーレベルはかなり高くなるが、直線平坦のシャティン競馬場でおこなわれる香港スプリントが、能力をフルに発揮することができる舞台なのかもしれない。

一方、スプリンターズSの覇者で3番人気に推されたママコチャは8着。

こちらも、1、3着馬に負けないくらいの好スタートで早々に好位を確保。勝負所では馬なりで上昇し前2頭に迫ったが、コーナリングで突き放されると、ルガルと同じく坂の途中で脚色が鈍ってしまった。

枠順が影響したのかもしれないが、管理する池江泰寿調教師が週中の共同会見で「なんとか雨が降らないように祈っています」とコメントしていたように、道悪の影響を少なからず受けた模様。

また、叩き良化型ではあるものの、今回は斤量や日程面で適当な前哨戦がなく、直行することを選択したそう(そのため、放牧先から早目に帰厩していた)。結果的に、前哨戦を使わなかったことで本来のデキになかったのかもしれない。

また、騎乗した川田将雅騎手からはレース後「暖かくなって来ないと、本来の走りはできないという印象」とのコメントも出ていた。そのため、春先や夏にかけての巻き返しを期待したいが、牝馬だけに、道悪で過酷なレースになったことや、敗戦がメンタルに悪影響を及ぼしていないか。その点は、今後に向けて気になる材料といえる。

写真:すずメ

著者:齋藤 翔人