韓国人の食卓について語るコラムの4回目は、「一生食べてはいけない」と言われたら、多くの韓国人が怒り出しそうな食べものの筆頭、キムチチゲについて。

酸味は必須

母親が漬けたキムチが甕に収められる前のつまみ食いや、漬けたてのキムチと相性のよい食べもの、おなじみの韓国料理に合うキムチなどについて書いてきたが、今回は冷蔵庫で数週間保管され、発酵が進んだキムチが活躍する国民食、キムチチゲ(白菜キムチ鍋)について語っていこう。

韓国人に「好きな食べもの」を問うアンケート調査は多いが、キムチチゲはベスト3に入ることが多く、ときには1位になることもある。

1953年の朝鮮戦争休戦直後、我が国は世界最貧国のひとつだった。70年代になっても食糧事情は豊かとは言えず、学校に持って行くお弁当の中身は雑穀米とキムチだけという生徒も少なくなかった。

キムチ、そして、熱々のキムチチゲはまさに韓国人のソウルフードなのだ。

発酵が進んで酸味が出たキムチを鍋にすると言うと、酸っぱいキムチが苦手な日本の人は廃物利用のように感じるかもしれないが、それは違う。

酸っぱくなったから仕方なくキムチチゲにするのではなく、韓国人にとって酸味はキムチチゲに必須なのだ。

コロナ下で韓国旅行もままならず、本場でキムチを味わうのは難しいが、その代わり、日本で食べられるキムチも多様化し、直輸入品や韓国式に漬けたキムチも手に入りやすくなったと聞く。

新大久保などのコリアンタウンの食堂で出るキムチも本格的だ。

日本のみなさんも、甘味の少ない韓国式キムチに慣れれば、美味しいキムチチゲに必須のさわやかな酸味を楽しめるようになるだろう。韓国リピーターの多くはすでにその域に達しているはずだ。

キムチチゲに加えるもの

キムチが美味しければ、水と塩、唐辛子粉を加えて煮るだけでも、美味しいキムチチゲができる。実際、70年代に家庭で作るキムチチゲはそんなものだった。

80年代になって“漢江の奇跡”と呼ばれた経済成長期を迎えると、韓国の食生活も少しずつ豊かになり、キムチチゲに加える食材も増えてくる。

豚肉、ネギ、豆腐……。そして象徴的なのが、1982年に発売されたツナの缶詰と1987年に発売されたSPAM(ポークランチョンミート)の缶詰だ。この2品はキムチチゲの味を格段にグレードアップさせた。

脂っこいこの2品はさわやかな辛味と酸味のあるキムチチゲにコクをもたらした。今でこそダイエットのためにツナ缶の汁(脂分)はチゲに入れない人もいるが、当時は脂をありがたがった時代である。

庶民がよく出前をとって食べたチャジャンミョン(ジャージャー麺)もある意味、脂っこいカラメルソースを味わうものだった。ご自宅でキムチチゲを煮るときはツナ缶を汁ごと加えて、昔風の味を楽しんでほしい。

日本の人にもよく知られているプデチゲ(元はソーセージやSPAMなどの米軍放出品とキムチを煮た闇鍋)は、キムチチゲのバリエーションのひとつといえる。

後に韓国の食品会社、東遠(ドンウォン)からキムチチゲ専用のツナ缶も発売された。日本でも手に入るので、試してみるといいだろう。

同社の商品のひとつ「メウンキムチチゲヨン・ドンウォンチャムチ(辛いキムチチゲ用・東遠ツナ)」の缶には、「コチュジャンやテンジャンなど他の味噌類は加えず、ツナ缶1、水1、キムチ1の割合で煮込めば完成」と書かれている。この自信、「キムチチゲ専用」は伊達ではないようだ。

数年前に高視聴率を誇った旅行バラエティ番組『花よりおじいさん』では、海外でも韓国料理を食べたがるおじいちゃん(イ・スンジェ、シン・グ、パク・クニョン、ペク・イルソプ)のために、ガイド役の俳優イ・ソジンが宿でキムチチゲを作る場面があった。

イ・ソジンはツナ缶がないときは、サンマや鮭の缶詰を入れたりしていたが、キムチは多様な具の風味をひとつにまとめる力が強いので、日本のみなさんにもいろいろ試してもらいたい。

(つづく)

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