テジクッパという名の食べ物がある。

韓国語学習者の多い日本なら、たとえ食べたことがなくても、テジ=豚、クッパ=汁かけ飯、だとわかる人が多そうだ。

テジクッパは文字通り、豚肉や豚骨を煮たスープをごはんにかけたもの。もともとは韓国第二の都市である釜山とその周辺地域で食べられてきた。

テジクッパの名が全国的に知られるようになったのはここ10年くらいだろう。

“ディスカバー・コリア”よろしく国内旅行者が増大し、地方の名物料理を食べる機会が増え、さらにグルメ番組がこぞってローカルフードを掘り起こすようになったため、認知度が上がったのだ。

ソウルでも「テジクッパ」の看板を見かけるように

ソウルの旧市街、鍾路3街に楽園商街という古いビルがある。ドラマ『マイ・ディア・ミスター』や『ビンチェンツォ』『最高の離婚』などに登場した世運商街に続くソウル第2の住商複合ビルである。

このビルの南東の脇道に、クッパの店が軒を連ねているのをご存じだろうか?

数年前まで、店先にはスンデクッパ(腸詰のクッパ)やネジャンクッパ(ホルモンのクッパ)、ソモリクッパ(牛頭のクッパ)の文字が掲げられていたのだが、最近はテジクッパの文字が目立つようになった。

これもテジクッパが全国区になったせいだろう。楽園商街一帯はもともと中高年男性憩いの場で、クッパ横丁でも若い人はあまり見かけなかった。

しかし、テレビで観たテジクッパがソウルでも食べられるとあって少しずつ若い客が増え、最近では若い女性YouTuberがクッパをすすっている映像を見ることも珍しくなくなった。

豚肉は臭い(!?)

日本の関西地方ではカレーライスに入れる肉は牛肉が当たり前だそうだ。逆に関東では豚肉や鶏肉が普通だという。

この話を聞いて思い出したのは、我が国における豚肉のポジションだ。今でこそサムギョプサルをはじめとする豚の焼肉は一般的だが、その一方で豚肉をスープにする文化はメジャーとは言えなかった。我が国の汁物の王道はソルロンタン、カルビタン、ユッケジャンのような牛肉を使ったものなのである。

かつては豚肉を煮ると特有の匂いがして食べられたものではないと感じる韓国人が少なくなかった。

その証拠に筆者が日本に留学していた1990年代後半、日本では全国区の人気を誇っていた九州式のとんこつラーメンは、韓国からの留学生や駐在員にはおおむね評判が悪かった。

しかし、それは韓国人に限らない反応だったと日本の知人(60代前半)から聞いたことがある。その人は80年代半ば、東京の西麻布にできたとんこつラーメン専門店で初めて食べたとき、やはり匂いが気になったという。

そのうち、食べ慣れて匂いが気にならなくなったのか、豚肉そのものが改良され匂いがなくなったのか、調理技術の進歩で匂いを消すことができるようになったのか、そのあたりは定かではないが、今やとんこつラーメンはインスタント食品になるまでに浸透している。

訪日韓国人が増えると、釜山の目と鼻の先にある九州を訪れる人も増える。

当然、とんこつラーメンを食べる機会も増えるのだが、最近の韓国人からとんこつラーメンに対す不評はあまり聞かれない。

それどころか、とんこつラーメンのチェーン「一蘭」は、韓国や台湾からの旅行者から見れば今や日本を代表するラーメンといえるくらい有名だ。

九州以外の日本人がとんこつラーメンに慣れたように、釜山や慶尚南道以外の韓国人も豚肉のスープに慣れたのかもしれない。

次回は映画に出てくるテジクッパや、テジクッパのダイナミズムについて書くことにする。

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