先日、試乗レポートをお届けした日産の新型「フェアレディZ」。あまりの人気ぶりに2022年7月31日をもって受注が一時停止となるなど、話題に事欠かないモデルです。そんな注目のスポーツカーを高く評価するモータージャーナリストの岡崎五朗さんは、新型Zをはじめとする日本のスポーツカーラインナップは、日本の自動車産業の未来にとって極めて重要だと語ります。その理由とは?

新型フェアレディZは超一級品のスポーツカー

 日産「フェアレディZ」が14年ぶりに新型へと刷新された。爆発的な人気と昨今の情勢を踏まえて受注が一時停止となるなど、話題に事欠かない注目の1台だ。

 新型フェアレディZは、車両型式名がZ34型のまま(正確にはRZ34型)であることを根拠に“ビッグマイナーチェンジ”とする記述もあるが、それは利益を出すことが難しいスポーツカープロジェクトで日産社内の承認をとるための“方便”であり、実際には内外装、エンジン、トランスミッション、サスペンション等々、8割以上のパーツを新設計した完全なる新型である。

 実際、乗ってみると、新旧モデルは完全に別モノだ。なかでも飛躍的に向上したのがエンジン性能とボディ剛性。これにより先代のあらっぽさは見事に消え去り、洗練された乗り心地と高度な操縦安定性、目の覚めるような速さ、そして最高のエンターテインメント性を備えた現代的スポーツカーへと進化した。歴代Zへのリスペクトを感じさせるデザインも秀逸だ。これはもう贔屓(ひいき)目なしに「世界に誇れる超一級品のスポーツカー」だと断言できる。

 新型フェアレディZの魅力を語りはじめたらいくらでも語れるが、詳しい車両解説と試乗レビューは先に掲載した記事を読んでいただくとして、今回は新型Zが日本の自動車産業にもたらす文化的意味合いに焦点を当ててレポートしていこう。

●スポーツカーはまさに自動車文化の産物

“乗用車の終わるところにはじまり、レーシングカーのはじまるところに終わるクルマ”。こいつを古典的スポーツカーの定義とするならば、僕の考えるスポーツカーは少々異なる。レーシングカーの唯一にして究極の目的は先頭でチェッカーフラッグを受けることであり、いくらスタイリッシュでも勝てないマシンに価値はない(勝ちつづけているうちにカッコよく見えてくることは往々にしてあるが)。

 それに対し、スポーツカーの存在理由はオーナーをワクワクさせることにある。たとえサーキットでのラップタイムが遅かろうと、そんなことは大した問題じゃない。重要なのはルックスやドライブフィールにどれだけのエンターテインメントが込められ、それがドライバーをどんな気分にさせてくれるか、なのである。

 そう考えると、スポーツカーの価値がはっきりと見えてくる。芸術や娯楽など、生命を維持していく上ではとくに必要のない、しかし、もっとも人間らしい営みを“文化”と呼ぶのなら、スポーツカーはまさに文化の産物だ。地をはうような低い車体と強力なエンジンの目的は、ただただドライバーを歓喜の渦に巻き込むこと。そのためだけに、多くの人々がありったけの知恵を注ぎ込むのだから、考えようによってはこれほど文化的な乗り物はない。フェラーリ、ポルシェ、アストンマーティン、シボレー「コルベット」といった世界の名だたるスポーツカーが、モータリゼーションをリードし、自動車文化を育んできた西欧諸国から輩出されているのはこの文脈で説明できる。

 日本はどうか。諸説あるが、日本初のスポーツカーといわれているのは、いまから70年前、戦後間もない1952年に発売された「ダットサンスポーツDC-3」だ。開発のきっかけになったのは「たとえ、もうからなくても自動車メーカーにはスポーツカーが必要だ」という考えだったという。これを主張したのが、後にフェアレディZの生みの親として知られる初代の米国日産社長、片山豊氏である。

 1960年代に入ると、日本のスポーツカー文化は本格的に花開く。1964年にはホンダ「S600」、1965年にはプリンス「スカイライン2000GT」、トヨタ「スポーツ800」、ダットサン「フェアレディ1500(SR311)」、1966年には、ホンダ「S800」、1967年にはトヨタ「2000GT」、マツダ「コスモスポーツ」、1969年には日産から「スカイライン2000GT-R(ハコスカ)」と初代フェアレディZが登場するのだ。その後、1980年代の末以降には、日産が「スカイラインGT-R」、ホンダが「NSX」、マツダが「(サバンナ)RX-7」に「ロードスター」など、日本の自動車メーカーは常にスポーツカーをつくりつづけてきた。

 ところが、環境問題や厳しさを増す騒音規制、SUVブームといったいくつかの外的要因によって、スポーツカーは冬の時代を迎えつつある。主だったところだけでも、メルセデス・ベンツ「SLC」、アルファロメオ「4C」、ロータス「エリーゼ」、「エキシージ」が生産を終了。アウディも「R8」と「TTクーペ」に次期モデルがないことをアナウンスしている。日本勢もNSXが販売リストから落ち、GT-Rも現在のところ受注がストップしている。

 スポーツカーと分類することに異論はあるかもしれないが、ハッチバックに高性能エンジンを搭載したいわゆるホットハッチも減少傾向にある。このように、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレン、ポルシェといったスポーツカーメーカーを除くと、購入できるスポーツカーの選択肢はかなり少ないのが現状だ。クルマを文化ととらえた場合、こいつはかなり寂しい状況である。

国産スポーツカーの歴史こそ新興ブランドにはないアドバンテージ

 ここであらためて、現在の日本のスポーツカーラインナップを眺めてみる。マツダのロードスターにはじまり、トヨタの「GR86」、「GRスープラ」、「GRヤリス」、スバルの「BRZ」、レクサスの「LC」、「IS500」、「RC F」、ホンダの「シビックタイプR」、ダイハツの「コペン」、そして復活したフェアレディZ。一部の富裕層をねらった高価なモデルだけでなく、手の届く価格帯のスポーツカーを数多くそろえているのも特筆ポイントだ。

新型フェアレディZは日本の自動車産業の未来にとって極めて重要な、国産スポーツカーラインナップのニューフェイス

 そう、いまの日本は、絶滅危惧種であるスポーツカーの保存にもっとも積極的に取り組んでいる国なのだ。経済的で信頼性の高い商品、いい換えれば文明の産物としてのクルマづくりで世界をリードしてきた日本だが、いまや文化面でも世界を牽引しているといっていいだろう。

 折りしも今年、2022年には、韓国のヒョンデ、中国のBYDが日本に上陸してきた。僕は、中韓の自動車メーカーが日本市場で成功するのはかなり難しいと考えている。が、海外マーケットでは今後、日本メーカーの強力なライバルになっていくのは間違いない。実際、ヒョンデの世界販売台数はすでにホンダを超えている。そんな強力な新興メーカーを相手に日本メーカーはどう戦っていくべきか。彼らが得意とするEV(電気自動車)領域で負けない商品を投入することも大切だし、日本の強みである信頼性や耐久性にさらに磨きをかけることも重要だ。

 しかし、日本の強みはほかにもある。過去70年間にわたってクルマ文化の担い手であるスポーツカーをつくりつづけてきた歴史だ。こればかりは新興メーカーには絶対にマネのできないアドバンテージである。「クルマを絶対にコモディティ商品にしないぞ」というつくり手の熱い想い、それを具現化する技術、センス、歴史、伝統……。スペックだけでは語れない魅力的なスポーツカーづくりに必要な有形無形のノウハウは一朝一夕で手に入るものではない。たとえスポーツカーが電動化する時代がやってきてもそれは同じで、魅力的なスポーツカーの存在はそのメーカーのブランドイメージを高め、結果として新興メーカーとの価格競争に巻き込まれることを防ぐ防波堤になるだろう。

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「たとえ、もうからなくても自動車メーカーにはスポーツカーが必要だ」。最近増えてきた、短期的な損得でしかクルマを見ない経営者には理解できない考えだと思う。しかし、フェアレディZの父が遺したこの言葉の意味は日本の自動車産業の未来にとって極めて重要だ。そして、それを見事に具現化してみせたのが新型フェアレディZなのである。

●NISSAN FAIRLADY Z Version ST
日産 フェアレディZ バージョンST
・車両価格(消費税込):646万2500円
・全長:4380mm
・全幅:1845mm
・全高:1315mm
・ホイールベース:2550mm
・車両重量:1590kg(MT)/1620kg(AT)
・エンジン形式:V型6気筒DOHC+ターボ
・排気量:2997cc
・駆動方式:FR
・最高出力:405ps/6400rpm
・最大トルク:475Nm/1600〜5600rpm
・燃料消費率(WLTC):9.5km/L(MT)/10.2km/L(AT)
・サスペンション:(前)ダブルウイッシュボーン式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ベンチレーテッド・ディスク
・タイヤ:(前)255/40R19、(後)275/35R19