ホンダが2022年秋に発表、2023年春の発売を予定している新型SUV「ZR-V」を試乗しました。過酷なコースとして知られる群馬サイクルスポーツセンターで見せつけた軽快なフットワークは、SUVとは思えないハイレベルな仕上がりでした。

「シビック」をベースに開発されたミッドサイズSUV

 2022年秋の正式発表に先立ち、ホンダの新型SUV「ZR-V」を試乗することができた。

 ZR-Vは「『ヴェゼル』以上、『CR-V』未満」のボディサイズを持つ新型SUVで、日本向けとしては大きく、高価になりすぎたCR-Vに代わる存在として、多くの台数を売っていこうというホンダ期待の星である。

 プラットフォームやパワートレインは現行「シビック」がベース。つまり、ヴェゼルよりひとクラス格上だ。新型シビックの走りは素晴らしい完成度だったから、ZR-Vの走りも期待できる。

 パワートレインは、純ガソリン車である1.5リッターのターボエンジンに加え、2リッター直噴エンジンにふたつのモーターを組み合わせた“スポーツe:HEV(イー・エイチ・イー・ブイ)”が設定される。

 後者は先日「シビックe:HEV」でデビューしたばかりの最新ユニットで、モーターを走行の主体としながらもガソリン車のような加速感をつくり出した面白いユニット。一般的なハイブリッドカーの中では、いま、もっとも加速フィールが心地いい。なお新型ZR-Vは、ガソリン、ハイブリッド車ともに前輪駆動と4WDというふたつの駆動方式が設定される。

●SUVの試乗には適していない過酷なコース

 そんな新型ZR-Vの試乗にホンダが選んだコースは、型破りな場所だった。「正式発表前ですが、クローズドコースでいち早く試乗していただける機会をつくりました」というホンダからの案内を見て、思わず頭の中が「?」となった。なぜなら、指定された会場が群馬サイクルスポーツセンターだったから。通称“群サイ”と呼ばれるこの場所は、“日本のニュル”といえるほど過酷なコースなのである。

 ニュルとはもちろん、ドイツの山岳地帯にある険しいサーキット・ニュルブルクリンクのことだ。そんな“市販車開発の聖地”と同様、群サイは深く回り込むコーナーが連続する上、高低差があり、狭く、路面の舗装も荒れている。普通の公道やサーキットと比べ、クルマの動的性能の欠点が何倍も露呈しやすい悪条件のコースなのだ。そんな過酷なコースを新型SUVの試乗コースに選ぶとは……。

 そして迎えた当日。渡された資料を見てまた驚いた。リアシートが広いとか、リアシートを格納すると座面まで沈み込んで低くフラットなフロアが現れるとか、「ホンダe」のようなタッチスイッチ式のダウンライトを天井に組み込んでいるとか、新型ZR-Vには伝えるべき要素がたくさんあるはずなのに、そういった説明はほとんどナシ。ボディ、パワートレイン、4WD……と、資料に記載されている約9割が走りに関する内容だったのだ。

 LPL(ラージプロジェクトリーダー=開発責任者)のプレゼンテーションも、ほぼ走りの内容に終始。聞いていて思わず「デザインや実用性などはアピールしなくていいの?」と、思わず心配になったほどだ。ただし、LPLの熱い説明で「新型ZR-Vは走りにとことんこだわったクルマなんだな」と理解できたのも事実である。

純粋にドライビングを堪能できるハンドリングマシン

 まいった! SUVなのに、過酷な群サイをこんなに楽しく、気持ちよく走れるなんて!! これが今回、新型ZR-Vをドライブし終えた直後の素直な感想だ。

過酷なコースである“群サイ”も涼しい顔で駆け抜ける、SUVとは思えないハンドリングが魅力的なホンダ「ZR-V」

 群サイは路面のいたるところに凹凸があり、足を乱そうとするが、そんな状況でも新型ZR-Vは不安定な動きを微塵も見せることなく、ドライバーの思いどおりに右へ左へとスイスイ曲がり、スポーツカーかと思うような心地よいコーナリングを披露してくれる。ドライバーの期待に必要以上に応えてくれるから、気づけばどんどんスピードが上がっているのだ。

 もはや新型ZR-Vは、SUVどうこうではなく、純粋に“ドライビングを楽しめるハンドリングマシン”といっていい。クラスは違うけれど、スポーツメーカーのポルシェが手がけるSUVに通じるものがあるとさえ感じさせるドライビングプレジャーだ。

●ドライブしていて楽しいe:HEVと4WD

 そんな新型ZR-Vをドライブして意外だったのは、ハイブリッドの方が楽しくドライブできたこと。

 e:HEVはガソリン車よりもアクセル操作に対するレスポンスに優れる上、アクセルペダルを踏んだ瞬間からグッと太いトルクが立ち上がる。そのため、車速とエンジン回転数が落ち切ったタイトコーナーからの立ち上がりでも、グイグイと前へと進んでいく。エンジン回転数が高まるまでは強い駆動力を得られないガソリンターボ仕様との差は歴然だ。

 そしてもうひとつ意外だったのは、ドライ路面における4WDの貢献度が高いこと。新型ZR-Vの4WDシステムは、コーナリング時にもリアタイヤへと積極的に駆動トルクを伝達する。これにより、前後トルク配分における後輪の最大比率は、CR-Vやヴェゼルのそれよりリアタイヤ寄りとなっている。

 そのため、新型ZR-Vは後輪駆動車のようにリアタイヤで大地を蹴り、フロントタイヤの曲げる力をより引き出し、グイグイ曲がる走行特性を実現している。その違いは、コーナーから立ち上がる際のアクセルオンで明確に感じられる。4WDは雪道などすべりやすい路面で大きなメリットを得られるシステムだが、新型ZR-Vは走りの楽しさにも活用しているのである。

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 日本のニュルで新型ZR-Vをドライブしてみて実感したのは、走りの楽しさこそがZR-Vの個性だ、ということ。いま、SUVは百花繚乱の時代であり、将来的に生き残るためにはなんらかの個性が必要とされる。

 その点において、新型ZR-Vは走りという個性を備えたSUVなのだ。だからこそホンダは、あえて新型ZR-Vの試乗コースに過酷な群サイを選んだのである。