トヨタ新型「クラウン・クロスオーバー」は、ふたつのパワートレインをラインナップしています。排気量のわずかな違いとターボの有無という差はあれど、どちらもエンジンは4気筒。しかし、生み出される走りのキャラクターは全くの別物でした。

デザインもメカニズムも刷新した新型クラウン

 トヨタの新型「クラウン・クロスオーバー」は、ふたつのパワートレインを用意する。今回は2台の走り味の違いから、それぞれどんな人に向いているのかについてレポートしたい。

 それにしても新型クラウンのルックスは、過去の端正なモデルたちが幻だったのかと勘違いしそうになるほどブッ飛んでいる。その変わりように腰が抜けるほど驚いたのは筆者だけではないだろう。

 新型クラウンの開発はまずデザインありきでスタートし、デザイナーのイメージをしっかりと市販モデルへ反映させるべく、開発チームが一丸となって挑んだという。しかし、出来上がったデザインは拒絶されるどころかマーケットから好評で、多くのオーダーを受けているというから二度ビックリだ。

 そんな新型クラウンで変わったのはデザインだけではない。メカニズムも大幅に刷新された。何しろプラットフォームは、伝統のエンジン縦置き+後輪駆動ベースを止め、エンジン横置き+前輪駆動ベースへと一新。さらに駆動方式は、後輪をモーターで駆動する電動4WDとしている。

 その上で新型は、純粋なガソリンエンジンをラインナップせず、ハイブリッド専用車となったのも大転換だといえる。確かにクラウンは3世代前からストロングハイブリッドを用意し、近年はその販売比率が高かったとはいうものの、純粋なガソリンエンジン車をラインナップしないというのは大きな決断だったに違いない。

「これがクラウン?」と思うほど動きがスムーズで、爽快な走り味が魅力的なトヨタ「クラウン・クロスオーバーRS」

 そんな新型クラウンは、2タイプのハイブリッドシステムを用意する。「先代もそうだったのでは?」と思う人もいるかもしれないが、先代は燃費重視の4気筒エンジン+ハイブリッドと、パフォーマンスを重視した6気筒エンジン+ハイブリッドだったから、それぞれのキャラクター分けが明確だった。

 しかし、新型クラウンの2.4リッター“デュアルブーストハイブリッドシステム”と、2.5リッター“シリーズパラレルハイブリッドシステム”は、どちらも4気筒エンジンを組み合わせる。エンジンの排気量のわずかな違いとターボチャージャーの有無によるつくり分けが目立つ程度で、一見しただけではそれぞれの違いがわかりにくい。

 そんな両システムの違いをわかりやすく説明してくれたのは、ハイブリッド開発担当者が発した次の言葉だ。

「デュアルブーストに組み合わせる2.4リッターターボエンジンは、従来のV6エンジンに相当します」

 つまり、新型クラウンのデュアルブーストは、先代でいうところの3.5リッターV6エンジンを核とするパフォーマンス型に相当。一方、2.5リッター自然吸気エンジンを組み合わせるシリーズパラレルは、燃費重視というわけである。

 それは、スペックを見ても明らかだ。

 シリーズパラレルのエンジン最高出力は186psなのに対して、ターボエンジンを組み合わせるデュアルブーストのそれは272psもある。一方、カタログに記載されるシリーズパラレルの燃費は22.4km/Lなのに対し、デュアルブーストの燃費は15.7km/Lにとどまる。

 つまり、燃費がいいシリーズパラレルに対し、デュアルブーストは“燃費で劣るけれど動力性能で勝る”という位置づけなのだ。

デュアルブーストの走りは圧倒的にトルクフル

 新型クラウンが用意するふたつのハイブリッドシステムは、構造自体がそれぞれ全くの別物だということも興味深い。

2.4リッター“デュアルブーストハイブリッドシステム”

 シリーズパラレルは従来の“THS(トヨタ・ハイブリッド・システム)”の延長線上にあるもので、エンジンとモーターの力を効率よく配分して駆動力を生み出すのが特徴。トランスミッションには電気式無段変速機を組み合わせる。

 それに対してデュアルブーストは、エンジンとフロントモーターとトランスミッションである6速ATが、クラッチを介してつながっているのがポイント。モーター走行する際はエンジンを切り離すなど、クラッチを切ったりつないだりしてパワーを伝える。

 もうひとつ特徴的なのは、前後モーターの力関係。シリーズパラレルはフロント119.6ps、リア54.4psと圧倒的にフロントモーターの方が力強いが、デュアルブーストはフロント82.9ps、リア80.2psとほぼ均等なのだ。

 この前後バランスこそが、デュアルブーストハイブリッドの“積極的に後輪へ大トルクを送る4WD”を成立させているポイント。ちなみに前後トルク配分は、最大でフロント40対リア60程度までのリア寄りとなる。

 モーター最高出力を見比べると、フロントモーターはシリーズパラレルの方が強力だが、モーター最大トルクを見れば、フロントがシリーズパラレルの202Nmに対し、デュアルブーストは292Nm、対するリアはシリーズパラレルの121Nmに対し、デュアルブーストは169Nmと、デュアルブーストの方が圧倒的にトルクフルな点も見逃せない。これも、後輪へのトルク配分を大きくできる理由のひとつであることはいうまでもない。

クラウンという名前からは想像もつかないドライビングマシン

 ハイレスポンスな加速フィール、ダイレクトでトルクフルな走り、加速の伸び感、そして、ドライ路面でも感じられる優れた4WD性能という美点を併せ持つデュアルブーストの魅力は、何よりドライバビリティの高さだと先の開発者はいう。

「これがクラウン?」と思うほど動きがスムーズで、爽快な走り味が魅力的なトヨタ「クラウン・クロスオーバーRS」

 実際、デュアルブーストを搭載する「RS」グレードは、とにかく元気よくグイグイ走ってくれる印象だ。しかも単に加速がいいだけでなく、シフトアップも含めたエンジンの回転上昇と加速との関係が良好で、シリーズパラレルよりもドライバーの感覚としてナチュラルなのがいい。このダイレクトで自然な加速フィールは、トヨタのハイブリッド史において最高峰であることは疑いようがない。

 加えて、高剛性ボディやしっかり調律されたサスペンションを土台とし、ドライ路面でもリアタイヤへ積極的に駆動トルクを伝達する4WD、加えて、後輪操舵システムのアドバンテージもあって、コーナリング時の爽快感がかなりのもの。直進と旋回を絶えず繰り返すワインディングロードでは、「これがクラウンなのか?」と思うほどクルマの動きがスムーズで、運転が上手くなったような錯覚に陥るほどだ。

 このように、新型のRSグレードは、クラウンというネーミングからは想像もできないほどのドライビングマシンに仕上がっていることに驚かされた。

* * *

 新型クラウンが用意する2種類のハイブリッドシステムを乗り比べると、キャラクターの違いが鮮明であることに誰もが気づくはず。

 低速域でのなめらかさを活かして快適に走れるシリーズパラレルを搭載するモデルは、従来のクラウンでいうところの「ロイヤルサルーン」に相当する正統派だ。リアシートに人を乗せる機会が多い使い人なら、迷うことなくベストセレクトだろう。

 一方、デュアルブーストを搭載するRSグレードは、かつての「アスリート」に相当するバリバリの体育会系。加速もコーナリングも動的性能が圧倒的に高いため、ドライビングを楽しみたい人はこちらを選ばない理由はない。

●TOYOTA CROWN CROSSOVER RS“Advanced”
トヨタ クラウン クロスオーバー RS“アドバンスド”
・車両価格(消費税込):640万円
・全長:4930mm
・全幅:1840mm
・全高:1540mm
・ホイールベース:2850mm
・車両重量:1920kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ+モーター
・排気量:2393cc
・駆動方式:4WD
・エンジン最高出力:272ps/6000rpm
・エンジン最大トルク:460Nm/2000〜3000rpm
・フロントモーター最高出力:82.9ps
・フロントモーター最大トルク:292Nm
・リアモーター最高出力:80.2ps
・リアモーター最大トルク:169Nm
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)225/45R21、(後)225/45R21