レクサスブランドの大黒柱ともなっているミッドサイズSUV「RX」。先ごろフルモデルチェンジした新型には、現状、3つのパワートレインが用意されています。気になるそれぞれの走行フィールをモータージャーナリスト・島下泰久さんが解説します。
目指したのはドライバーと対話できるクルマ
レクサス新型「RX」の日本仕様には、現時点で3つのパワートレインが用意されている。
走りのイメージを牽引する「RX500h“Fスポーツパフォーマンス”」は、2.4リッターのターボエンジンとトルコンレスの6速ATを組み合わせ、電気モーターで前輪を、高出力電気モーターによる“eAxle”で後輪を駆動する“DIRECT4”を採用する。
「RX450h+“バージョンL”」は、2.5リッターエンジンを用いるハイブリッドシステム“THSII”に大容量バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドのAWDとなる。
そして「RX350“バージョンL”」は、2.4リッターターボエンジンと8速ATを搭載し、前輪駆動車と4WDを設定。同じエンジンを積むスポーティ仕様の「RX350“Fスポーツ”」は4WDのみの設定となる。
筆者は2022年8月の国際試乗会でハイブリッドの「RX350h」も試しているが、半導体不足や部品供給問題などを背景に、現時点でのRXのラインナップは上記だけに絞られている。そもそもRXの販売自体、現在、順調とはいいがたい状況なのだから、まあ仕方がない。
それでも状況は次第に解消されるはず。普通に購入できる状況がじきに訪れることに期待して、ここでは新型レクサスRX、それぞれのグレードの走りの違いを再確認しておきたいと思う。
まずは、新型RXの走りの概要を軽くおさらいしておこう。
開発の際に目指したのは「ドライバーと対話できるクルマ」だったという。実際のところ、これまでのRXは決してそこに主眼を置いた存在ではなかった。静粛性や快適性の方に重きが置かれていたわけだが、“NEXT CHAPTER”を標榜してドライビングダイナミクスの向上をブランドテーゼとして掲げているレクサスの最量販車種がそれでは、ブランドの軸がブレる。
そんなわけで、実は先代モデルの後期型から、走りにも改めて磨きがかけられていた。新型は当然、企画当初からそれを念頭に開発されてきたわけだ。
変化はまず見た目に現れている。4890mmの全長は従来と同じだが、そのボディはホイールベースが60mm伸ばされ、その代わりにリアオーバーハングが切り詰められた。前端が立てられたボンネットフード、手前に引かれてロングノーズ感を演出するフロントピラー、伝統のクーペライクに寝かされたリアウインドウなどと相まって、サイドビューは躍動感が相当高まっている。

全幅は先代に対して25mmのプラス。リアのトレッドについては45mmもワイド化されていて、斜め後方から見たときにフェンダーが豊かに張り出し、タイヤもギリギリに踏ん張った姿は走りを予感させるに十分といえる。実際、それは後輪駆動力を積極的に活用するその走りを形態で表現したものといっていい。
車体の基本骨格にはTNGAのGA-Kプラットフォームを用いる。それ自体、レクサスではすでに「ES」、「NX」なども使っているものだが、今回、RXへ採用するに当たり、従来の前輪駆動ベースの4WD車とは次元の異なる後輪駆動力に対応するため、新たにマルチリンク式のリアサスペンションを開発。また、特にボディ後半部を中心に一層の剛性アップを図っている。
走りの質が大幅に高まったRX350と直4でもガッカリしないRX450h+
ここからは、3つのパワートレインそれぞれの走り味を紹介していこう。
まずエントリーに位置づけられるRX350系は、最高出力289ps、最大トルク430Nmというスペックは十分に強力で、その走りはエントリーモデル云々ということをまるで意識させない。

低回転域からしっかりトルクを発生する2.4リッターターボエンジンは実用域から非常に扱いやすく、しかも、ターボエンジンらしい回すほどにパワーが倍化してくるような伸び感もある。
しかも、トランスミッションは“Direct Shift-8AT”。素早くキレのいい変速、アクセル操作に対してダイレクトに駆動力を伝達する優れたレスポンスがそこに加わって、小気味いい走りを可能にしているのだ。
先代の「RX200t」(後の「RX300」)は2リッターターボエンジンを積んでいたが、パワー的にはひとクラス下のNXには十分でも、RXにはやや物足りない印象があったし、音や振動についてもV型6気筒が恋しいと思わせた。しかし、新型のRX350系は、静粛性の高い車体のおかげもあって走りの質が大幅に高まっている。コストパフォーマンスでいえば一番と思わせる仕上がりとなっているのである。
RX初のプラグインハイブリッドとなるのがRX450h+。18.1kWhのバッテリーを積み、WLTCモードで86kmの一充電航続距離を実現している。2.5リッターエンジンは最高出力185ps、最大トルク228Nm。これに最高出力182ps、最大トルク270Nmの電気モーターを前後に2基組み合わせる。システム最高出力は309psとされる。
充電状況が十分な状態であれば、RX450h+はエンジンを始動させることなく電気モーターだけで走っていく。車内が静寂に包まれたまま、速度だけが上がっていく様は、まさしくEV(電気自動車)のそれ。パワーも余裕があり走らせやすい。もちろん、充電量が減ってきたり、あるいは自ら切り替えたりすれば、HVモード(ハイブリッド)となり電気モーターとエンジンが協調した走行となる。

興味深いのは、基本的に同じハイブリッドシステムを搭載する(今のところ国内未発売の)RX350hとは走りの印象が結構異なることだ。
バッテリー容量に余裕がある分、発進からエンジンが始動するまでに走れる距離が長くなり、最高速も高くなる上に走行中のエンジン停止の頻度もさらに高まる。積極的な電気モーターのアシストによりドライバビリティも良好だ。要するに、単にEV航続距離が長くなるだけでなく、プラグインハイブリッドならではの走りのうま味、魅力もしっかりつけ足されているのである。
走りの上質感、特に静粛性はきわめてハイレベル。単に音量が低いのではなく、路面が変わっても、あるいは風が強まってもノイズレベルの変化が小さく、つまり耳障りにならないのがいい。
先代RXのハイブリッドモデルである「RX450h」は、3.5リッターのV型6気筒エンジンと電気モーターを組み合わせており、そのマルチシリンダーならではのスムーズさはひとつの美点となっていた。それが新型では、同じ数字の車名ながら、エンジンは直列4気筒となった。そのため、ユーザーをガッカリさせてしまう恐れを危惧したのだが、実際に乗ってみて、これなら大丈夫だろうと確信できた。力強くなめらかで、非常に静か。決して名前負けしていないのである。
アクセルを踏み込むのが楽しいRX500h“Fスポーツパフォーマンス”
RX500h“Fスポーツパフォーマンス”は、新型RXが志向した走りの世界を最も忠実に再現したモデルといわれる。実際、その印象は、従来のレクサス ハイブリッドのイメージを覆すものだといっていい。

大きく異なるのは、打てば響くレスポンスのよさ、トルクのつきである。発進は力強い電気モーターが主役となり、十分な過給効果を得られない低回転域ではやはり電気モーターがターボラグを打ち消す。コーナリングなどでいったんアクセルを離して再度踏み込んだときなども、反応は非常に活発だ。
そして、中速域から先ではターボエンジンのパワフルで伸びのいい加速に、さらにeAxleまで加勢して豪快といっていいほどの加速を実現。“アクティブ サウンド コントロール”によるサウンドの演出はやり過ぎの感がなきにしもあらずだが、ドライバーがその気になっているときには、いい盛り上げ役になってくれる。
目覚ましいのは、実はコーナリングである。“DRS(ダイナミック リア ステアリング)”の採用により、低速域での動きは軽快。小回りもよく効くが、速度が高まってくるとDRSの存在感はそれほど強くなくなる。程よい安定感を土台に、正確性の高いフットワークを披露するという印象だ。背の高いSUVだけに、同じシステムを使うトヨタの「クラウン・クロスオーバー」のようには軽快感に振ってはいないのである。
実際、そのフットワークは、背の高いSUVであることを忘れさせる“意のまま感”を実現している。DIRECT4による前後駆動力配分制御も注目なのだが、実はこのクルマ、前後制動力を可変させて姿勢制御に活用する電動ブレーキシステムも搭載していて、これが過剰なピッチングなどを抑える役割を果たしている。制動力も駆動力も、フルに味づくりに活用しているわけだ。
何より気分がアガるのが、コーナーを抜けて加速していくときの挙動である。ステアリングを戻しながらアクセルを踏み込んでいくと、リアのeAxleが力を発揮して、わずかにリアを沈み込ませながら豪快に立ち上がっていけるのだ。この感覚は、まるでハイパワーの後輪駆動車か、それをベースにした4WDのそれ。従来の“E-Four”では決して実現できなかったこのダイナミックな走りの感触こそ、DIRECT4の目指すところの一端なのだろう。理屈抜きにアクセルを踏み込むのが楽しくなる走りである。

ここまで、新型RXの走りに関する部分にだけフォーカスして書き進めてきたが、随分、端折ったつもりでも、これほどの長文になってしまった。それはまさしく、新型RXの走りには、書き記すべきことが山ほどあるということの証明でもある。
開発のねらいどおり、そのダイナミクス性能は間違いなくこれまでのRXの枠を超えたところにある。そして肝心なこととして、RXの伝統的な美点といえる静粛性、乗り心地も同時に、想像以上に進化しているのだ。この点は、少々走りに振り過ぎた感もあったNXとの大きな違いといえるだろう。
本当は、購入を検討されている皆さんにも実際に乗り比べてもらい、その違いを味わってもらえればいいのだが、冒頭に記したとおり、新型RXの販売は変則的な状況が続いている。少しでも早く状況が改善し、レクサスの新しい走りの境地を多くの方が体感できるようになればいいのだが……。そのときが来たら、改めてこの記事を読み返していただければと思う。
●LEXUS RX350“F SPORT”
レクサス RX350“Fスポーツ”
・車両価格(消費税込):706万円
・全長:4890mm
・全幅:1920mm
・全高:1705mm
・ホイールベース:2850mm
・車両重量:1950kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
・排気量:2393cc
・変速機:8速AT
・最高出力:279ps/6000rpm
・最大トルク:430Nm/1700〜3600rpm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/50R21、(後)235/50R21
●LEXUS RX450h+“version L”
レクサス RX450+“バージョンL”
・車両価格(消費税込):871万円
・全長:4890mm
・全幅:1920mm
・全高:1700mm
・ホイールベース:2850mm
・車両重量:2160kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHC+モーター
・排気量:2487cc
・変速機:電気式無段変速機
・エンジン最高出力:185ps/6000rpm
・エンジン最大トルク:228Nm/3600〜3700rpm
・フロントモーター最高出力:182ps
・フロントモーター最大トルク:270Nm
・リアモーター最高出力:54ps
・リアモーター最大トルク:121Nm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/50R21、(後)235/50R21
●LEXUS RX500h“F SPORT Performance”
レクサス RX500h“Fスポーツパフォーマンス”
・車両価格(消費税込):900万円
・全長:4890mm
・全幅:1920mm
・全高:1700mm
・ホイールベース:2850mm
・車両重量:2100kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ+モーター
・排気量:2393cc
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:275ps/6000rpm
・エンジン最大トルク:460Nm/2000〜3000rpm
・フロントモーター最高出力:87ps
・フロントモーター最大トルク:292Nm
・リアモーター最高出力:103ps
・リアモーター最大トルク:169Nm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)235/50R21、(後)235/50R21