メルセデス・ベンツ現行「Cクラス」のラインナップに、AMGモデルであるハイパフォーマンスのセダン&ステーションワゴンが加わりました。F1由来の電動ターボチャージャーを採用した2リッター直4ターボを搭載するなど、デジタル技術を活用しながらアナログな魅力も凝縮。その実力や魅力を探ります。
マイスターが組み上げるF1由来の技術を活用した直4ターボ
先ごろ、メルセデス・ベンツの現行“W206型”「Cクラス」のラインナップに、初のAMGモデルとなるメルセデスAMG「C43 4マチック」が加わった。
メルセデスAMGは、メルセデスのモータースポーツ活動を担うほか、それを通じて培った技術を市販車へとフィードバックしたトップパフォーマンスモデルの開発、さらに高性能エンジンの生産を手がける部門だ。
新型C43のハイライトは、エンジンにF1由来の新技術を採用した点にある。実は先代のC43が3リッターV6ツインターボエンジンを搭載していたのに対して、新型の心臓部は2リッター直列4気筒ターボへと大幅に排気量がダウンサイジングされた。AMGをよく知る人なら、「C43が2リッター4気筒になるなんて」と嘆くかもしれないが、排気量は小さくなっても最高出力は408psへと向上している。
AMG謹製のエンジンには、熟練のマイスターがひとりで1基を担当し、手作業で組み上げる“One man, One engine”という伝統があるが、新型C43に積まれる“M139”と呼ばれる4気筒ユニットもそれが受け継がれている。
さらに新型C43では、そのエンジンに電気モーターと48V電気システムを組み合わせている。世界初となる“エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー”はF1由来の技術であり、ターボシステム内に電気モーターを一体化。低回転域やアクセルペダルをオフにしたり、ブレーキを踏んだりした場合でも、モーターが電子制御でターボチャージャーの軸を直接駆動し、常にブースト圧を維持できるという優れものだ。いわゆるターボラグがなく、低回転域から全域にわたって自然吸気エンジンのように加速していく。
また、この48V電気システム内にある“BSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)”は出力を16ps高めるブースト効果のほか、高速走行時などにアクセルから足を離すとエンジンとトランスミッションを切り離して燃料消費を抑える“セーリングモード”や、回生ブレーキにより燃費効率を高めるマイルドハイブリッドとしても機能する。
4WDながら後輪駆動車のようなドライブフィール
エクステリアでは、クロームの縦ルーバーが特徴的な“パナメリカーナグリル”がAMGモデルであることをアピールする。

加えて、ワイドなフロントスプリッターを備えたフロントバンパーや、フェンダー上に配置された「TURBO ELECTRIFIED」のエンブレム、リアのディフュザーからのぞく4本出しのエグゾースト、専用の19インチホイールなど、AMGモデル専用パーツが随所に散りばめられている。
インテリアには、運転席に備わる12.3インチの大型コックピットディスプレイや使い勝手のいい11.9インチの縦型メディアディスプレイを装備。さらに“MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)”や最新の運転支援システムなど、コンフォート性、安全性能はいずれも削がれることなくベースのCクラスのものを踏襲する。
一方、サポート性に優れた専用のスポーツシートや、走行中に手を放すことなくドライブモードなどを切り替えられる“AMGドライブコントロールスイッチ”を備えた“AMGパフォーマンスステアリング”を標準装備するなど、ドライバーとの一体感を高めている。
ドライブモードは、「Comfort」「Slippery」「Sport」「Sport+」そして、個別で選択可能な「Individual」がある。メディアディスプレイで詳細を見ていくと、出力特性やサスペンションの減衰力をはじめ、横滑り防止装置や4WDシステム、LSDなどをトータルで制御する“AMGダイナミクス”なども段階的に設定が可能で、本格的なサーキット走行なども余裕でこなせる。
そんな新型C43 4マチックのスタートボタンを押すと、野太くて軽快な4気筒らしい音でエンジンが目覚める。「Comfort」モードで走り出してみてもパワフルさが伝わってくる。
ステアリングの操舵感はずっしりと手応えがあり、絶大な電子制御ダンパーの効果で、硬さはあるけれどしっかりとダンピングが効いた乗り心地を提供してくれる。
「Sport」モードに切り替えてアクセルペダルに力を込めると、猛烈な勢いでダッシュする。切れ味の鋭いトランスミッションは、従来、AMGの「63」モデルにのみ搭載されていた9速の“AMGスピードシフトMCT”。トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを搭載しており、よりダイレクトなシフトフィールを味わえる。シフトダウン時には“オートブリッピング機能”が働き、気分が一層盛り上がる。
近年、自動車の電動化が進む一方、騒音規制はより厳しくなっている。新型C43のようなハイパフォーマンスカーも例外ではなく、マフラー内に可変エグゾーストフラップを備えており、走行モードに応じて音を切り替える仕組みになっている。
また、それだけにとどまらず、走行状況に応じたサウンドを車内のスピーカーから再生することで、車外の音は抑えながらドライバーにはいい音が届く工夫も施されている。
駆動方式はフルタイム4WDだが、前後トルク配分は31:69とAMG独自の味つけとなっており、まるで後輪駆動車のようなドライブフィールを味わわせてくれる。また、“リア・アクスルステアリング”を備えており、約100km/h以下ではリアホイールを最大約2.5度、フロントホイールと逆の位相に切って回転半径を小さくし、取り回し性を高める一方、高速域では最大約0.7度同位相にすることで走行安定性を高めている。
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新しいC43 4マチックには、デジタル技術を活用しながらアナログな魅力も凝縮されている。まだまだ内燃エンジン車を満喫したい、そんな人にぴったりの1台といえそうだ。
●Mercedes-AMG C43 4MATIC
メルセデスAMG C43 4マチック
・車両価格(消費税込):1116万円
・全長:4785mm
・全幅:1825mm
・全高:1450mm
・ホイールベース:2865mm
・車両重量:1860kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ+モーター
・排気量:1991cc
・変速機:9速AT
・エンジン最高出力:408ps/6750rpm
・エンジン最大トルク:500Nm/5000rpm
・モーター最高出力:13.6ps
・モーター最大トルク:58Nm
・駆動方式:4WD
・サスペンション:(前)4リンク式、(後)マルチリンク式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前)245/40ZR19、(後)265/35ZR19